第1話 俺、今、ある意味女子リア充

 俺は、思い出していた。

 一ヶ月もほど前のこと。気楽なオタクぼっち高校生ライフを満喫していた——俺——向ヶ丘勇は、学校の廊下でぶつかったリア充女子高生——喜多見美亜——と突然体が入れ替わった時のこと、をであった。

 そして、強制的に始まってしまった俺の女子リア充ライフ。女子になっただけでもいっぱいっぱいなのに、スクルールカーストのクラストップチームなんかに入れられてしまい、面倒くさいことこのうえなし。

 

 でも良いことも少しはあった。そんな風に女子になってしまわなければ多分そのまま卒業までまるで接点もなかっただろう元から気になっていたクラスのおしとやかな美少女麻生百合と仲良くなれたことだった。

 とても良い子なのにクラスのみんなからハブられていたアンタッチャブル彼女と接するうちに、その過去と向き合いより深く付き合い始め、さらに彼女を知ろう。もっと何かできないか、彼女が巻き込まれたトラブルを解決するためにいろいろしながら俺は本心でそう思っていたのだったが……

 偶然、それ以上なく彼女を知ることになったのだった。


 ひょんなことから口づけをした——喜多見美亜の体に入った——俺と麻生百合が今度は体が入れ替わってしまったのだった。俺は、今度は、麻生百合になってしまったのだった。


 喜多見美亜と入れ替わってしまった後に何度となく試してみた口づけ。入れ替わりの再現とすべくやってみたそれはことごとく失敗に終わったのだったが、麻生百合との口づけは一回であっさりと成功。と言うか大失敗。喜多見美亜と入れ替わってしまっただけでもわけがわからない状況なのに、それにさらに輪をかけて別の女の子と入れ替わってしまったという更にわけのわからない状況になってしまったのだった。

 だが、

「まあ、でも私としては、私の体にあんたみたいなガサツな男に入られているよりは百合ちゃんに入ってもらっている方が天と地くらいにぶっちぎってましだけど。でも……」

 と喜多見美亜はこの状況を少し喜んでいる節があった。

「……でも、なんだよ」

 俺は、こいつの言いたいことが分かっているからこそ、少しムッとしながら言う。

「あんたに入られちゃった百合ちゃんの不幸を思えば、私が喜ぶのもなんだなって……」

「そんな不幸だなんて——私の体に入るなんて——向ヶ丘くんの方が不幸です」

「いや……そんなことはないぞ。こいつの体に入っていた時に比べたらいくらましなことか。無意味なダイエットに、身のほど知らずの上昇志向。頭も本当は大して良く無いのに、勉強も詰め込みで無理やり成績維持していたし——本当はあんなカーストトップ女子の中にいて揉め事おこさないでいられるような性格じゃ無いのにむりやり自分を抑えて無理をして……」

「ほほう——で今はそのの中に百合ちゃんが入っているのが分かってそんな事を言う?」

「あ……いや」

 俺は思わず言葉につまり、気まずい感じになる。

 ああ、だから三重入れ替わりなんてこんなややこしい状況は嫌なんだ。一度に二人に気を使わないといけないこの状況なんて、正直俺の許容限度を超えてしまっているのだった。

 でも、そんな俺(が入った自分)の様子を見てフォローするように百合ちゃんが、

「私、美亜さんは偉いと思います。普通、そんなきっちり運動も勉強もできないですよ。尊敬します。今そんな体の中にいる私が迷惑かけてなければいいのですけれど」

 と、行き詰まりかけた会話を元に戻すのだった。

「迷惑だとか——そんなことないわよ。今日もこうやってジョギングをしてくれてるじゃないの。その体はこいつにも……」すると、喜多見美亜は自分(が入っている向ヶ丘勇の体)を見てからちらりと俺(が入っている麻生百合の体)を見て言う。「鍛えさせておいたから、今日のペースで走ったくらいでは息もあがらないと思うけど……」

「でも本当は美亜さん、もっと速く走りたいんですよね」

「そりゃ……私の体、結構太りやすくてもう少し体追い込まないとすぐに……」

 ふん、そんなくらいで太るってのか、気にしすぎなんだよ。と俺は思う。完璧な美少女の外見保つのにこいつがやってた様々な努力を否定する気は毛頭無い、と言うか本人が中に入っている時ならいくら勝手にやっててもらって構わないが、別にファッションモデルやってるわけでもないのだから、もうちょっと力抜いて生きても何にも問題無いだろと、俺は言いたいのだった。

 ちょっと太ったくらいで誰も気にしないというか、むしろ無理して見えなくて自然で可愛いと俺は思うのだが。こいつはそれでは自分が(というか別の人が入った自分の体も)許せないようなのだった。

 でも、

「すみません。私、走るのに慣れてなくて。どうしても体がつらくなると足が止まってしまって」

「それは、しょうがないわよ。人には向き不向きがあって、走るのに向いてない人もいるわよ。それを無理強いはできないわ。それでもこうやって少しでも走ろうと朝早くから一緒に来てくれるだけでも嬉しいって」

 なんだ俺の時と随分違うな。俺がこいつの体に入っていた時は、死ぬまで走らないと殺すみたいな、美容と健康のためには死んでも構わない的な矛盾した無理を強いてきたのだったが、

「こいつみたいなのは罵倒すれば罵倒するだけ喜ぶマゾだから好き放題いじめて走らせたけど、百合ちゃんにそんなことはできないわ」

 とのことだった(あと、罵倒の他に、俺のPCからコピーしたハードディスクの中身をバラすと脅かしてたな)。

 しかし、その、俺にはどS女子の喜多見美亜も百合ちゃんには同じことを強いる気は無い模様。でも、それはそれで百合ちゃんに気を使わせてしまい、

「でも、このままでは美亜さんの迷惑に……」

「そんな、気にしないでって……」

 と、お互いを気遣うような言葉をやり取りして、この場はなんとか取り繕われるが……どうにもやっぱり、この三角入れ替わり状況、いろいろ無理がある。それは、ここにいる全員が本心では分かっていたことだった。

 いや、ジョギングをもっとハードにして喜多見美亜の思うようなダイエット道を邁進することは別に無理してやらなくても良い。今でも走りすぎ。もう少し余裕をもって楽しく走って、食べるものももっと栄養があるものとった方がよっぽど健康的だ。走るのなんて今でも十分過ぎだと俺は思う。

 やばいのは、それよりも——クラストップカーストの中に麻生百合が投げ込まれてしまったこと。それがこの今の三角入れ替わりの中で最も切迫した問題と言えるのだった。

 なにせ、今まで自分をハブって、下に見ていた連中の上に突如立つことになってしまったのだった。隙あればマウンティングしかかけてきて自分より下がいることに安心しようとしてたようなの——まあ一部の連中だけど——が今度は気を使っておべっかをつかってくるようになったのだった。それは、まあ自分も喜多見美亜の体の中にいた時に体験したから分かるが、あんまり気持ち良いもんじゃない。

 それに、まあ、そんな連中は無視をするにしても——あいつの意識の高い仲間でございます生田緑とか和泉珠琴とかが、次々にしかけてくる合コンやら女子会やらをまともに相手してたらすぐに辟易としまう。俺はそうだったし、麻生百合もそうなのだろう。

 そんな女子リア充カーストによるトークを学校で始終かまされて、顔が引きつった状態になった(麻生百合が中に入った)喜多見美亜は不審な感じで周りから見られていた。そして土日も結構やつらと一緒と来ては心の休まる暇も無い。

 いつ麻生百合が参ってしまうかと俺はとても心配してしまうのだった。あの頭の切れる「女帝」生田緑は明らかにおれらがことに気づいているそぶりもある。生田緑じょていにはこの間の一件の際に、どうも何か気づかれたような疑いもある。だから、今の状態、麻生百合が喜多見美亜の中にいると言うのは、俺が中にいたのよりももっとやばい状態であるようにも思えるのだった。

 だから、

「さっさと戻っちゃった方がいいんだけどな……」

 と俺は言うのだが、百合ちゃんは、

「それは……」

 と何か言いかけて——無言。そして、そのまま、続けて言葉を出せないような、ちょっと気まずい感じの雰囲気になったので、俺は立ち上がり、無意識に石を拾うと目の前の多摩川に向かってそれを投げる。

 水面にぽちゃんと波紋がたつが、流れる波にあっという間にそれは飲み込まれる。対岸の東京側の岸に近いあたりで魚が跳ねて、銀色のその体が朝日に照らされて光った。

 俺は、魚がまた水の中に潜ったのを見ると、あまり深い意味もなく溜息をつきながら振り返る。

 すると、

「まあ、こんな男とキスするのは嫌よね」

 自分で今の自分の顔、つまり俺の顔を指差して、中の人——喜多見美亜はそう言っうのだった。

 すると、

「そ、そんな……向ヶ丘くんだからどうと言うわけでなく……」

「まあこいつにそんあ気を使わなくても良いと思うけど——でも、どっちにしても、ここで私がキスして自分の体にもしかして戻れても百合ちゃんはこいつの体に入ってしまって事態は解決とはならないわけだし、もしかして戻るには完全に逆の行程を経なければならないとしたら、むしろ余計な手間を増やすわけだし……まあ実際こんな奴と今の百合ちゃんがキスする必要性には乏しいとは言えるわよね」

 ならば、俺は麻生百合と、今の喜多見美亜の体とキスをすれば良い。麻生百合の体と喜多見美亜の体がキスをすれば良い。

 それがこの入れ替わりの後すぐに三人の下した結論だった。

 キスをすれば戻る。喜多見ミアとは何回キスしても戻らなかったのだけれど、百合ちゃんとはあっさり戻るのでは。まるで理屈は無いけれど、俺はなぜかそんな風に思うのだった。

 いや、それがうまくいかないかもしれないにしても、試してみて損はないと思うのだったが……

 でも、 

「ごめんなさい……できません。どうしても、キスはできないんです」


   *


 多摩川の堤防沿いの早朝ジョギングが終え、俺と百合ちゃん、つまり俺らが入っている体で言えば喜多見美亜と麻生百合は一緒に麻生家に向かう。

 なぜなら、麻生家はいつも弁当を百合ちゃんがつくってるわけだが、その百合ちゃんになってしまった俺が——オタ充時代に親が家にいない時の主食はカップラーメンだった俺が——弁当を作れると思うか。

 ——なわきゃない。

 そう言うことだ。

 だから今、毎朝麻生家には喜多見美亜に入った麻生百合がやって来て弁当その他の家事をしていると言うわけだった。

 社畜の百合パパはもう会社に出勤してしまている朝の6時半、俺らはキッチンに並んで一緒に料理をつくり始める。百合ママは……

「物心ついた——小さい時にもういなかったから正直お母さんがどう言うものかもピンと来なくて、いなくて悲しいと言うよりも正直どんなものか分からなくて」

 弟の柿生くんが生まれて一年目くらいで百合ちゃんのお母さんは亡くなって、その後はお父さんが男で一人で育て上げたのがこの家の二人と言うことなのだった。

 とは言え、男が働きながら子供二人を育てるなんてやっぱりかなり大変で、まだ祖母が健在な父親の秋田の実家に家族ごと入るかと言う話も何度も出たそうなのだが、そうなると仕事に命をかけてると言っても過言では無い百合パパは東京の会社を辞めなければならなくなる。

 でも、それも子供のためにはしょうがないかとほぼ会社辞める決心をしてそれを当時六歳の百合ちゃんに話したら……

「そんなことをパパはしてはだめ! がんばらないことの言い訳するパパは見たく無い!」

 子供のためを思ってとしようと思った選択を百合ちゃんに叱咤されて思いとどめたとのことだった。

 子供のため、と言って会社にふと疲れてしまった他のことから逃げようとしたのを子供なりに敏感に察知していった言葉——いや、と言うほど深い話でもなく、父親のかもしだした嫌な感じを子供なりに敏感に察知しただけなのかもしれないが。それにしても……

「あれ、向ヶ丘くん、そんな涙ぐんで? 切るの変わりますか?」

 サラダ用の玉ねぎを切りながら号泣する俺を心配して百合ちゃんが言う。

 もちろん泣いているのは玉ねぎのせいじゃなくて、百合ちゃんから聞いた昔の話を思い出して思わず涙が出てきたのだったが、そんなことを言うと気を使わせてしまうので、今日はこの野菜に冤罪をなすりつけることにして無言で玉ねぎを渡す俺だった。

 で、それを受け取ると手際良く千切りにしていく百合ちゃん——が中に入った喜多見美亜……なんかすげえ。

 ——すごい速さで正確に手が動いていく。

 もう頭で考えているんじゃなくて脊髄で反応しているレベルだった。普段料理なんて全然してなさそうな喜多見美亜の体を使ってあれはすごい。長年家事を真面目にやっていたからこそ到達できるレベル? いや、俺は家事なんて全然やらないからこれがどういうレベルなのかちゃんとはわからないけど、でも自分の母親が土日に俺に面倒くさそうに作る昼食の時の動きとは段違いの手さばきなのは分かる。

 まあ、親が高校生ヒキオタの息子に食事作るのに、そんなやる気になるかと差し引いて考える必要はあるが……でもそんなことを考えてプチ自己憐憫にひたる間もなく、

「じゃあ水に晒しておいてください」

 麻生家の朝の台所はあわただしく時間が過ぎていく。

 俺は百合ちゃんからボールを渡されると、その中に玉ねぎを入れ塩で揉んで水を注ぎ、それをそのままキッチンの脇へおく。その次には、

「鮭を冷蔵庫から出してロースターに……」

 冷蔵庫に入ったステンレスのパットにみりんの良い匂いのするつけ汁に浸かった鮭が入っている。俺はそれを取り出すとロースターに入れてスイッチを入れる。このつけ汁は麻生家の口伝できない塩梅があるということで昨夜も麻生家にやってきた喜多見美亜の体の百合ちゃんが、夜に作ってくれたものだった。

 他にも、手作りのマヨネーズ、デザートのゼリーのゼラチンの量、ご飯を炊くときの水加減、カツの揚げ時間に食べやすい大きさ……

 まあ、全部そこまで百合ちゃんの料理を精緻に再現させなくても個性の範囲で十分いおいしい料理ができるのではとは思うのだが……

 なにしろ、気付かれないようにしないといけないのだ。

 料理なんて作る人が変われば味が変わって、気づかれるものの代表みたいなもので、同じレシピで同じように調理しても、やっぱり何か違うものなのだ。それも毎日たべてる家族の作る料理ならなおのこと。

 いくら正確に百合ちゃんから作り方を聞いたところで、そのできた料理は家族に違和感を持たれてしまうだろう。となるといろいろ疑われて、さらにいろいろとボロが出てしまうかもしれない。だからこうやって喜多見美亜の体に入った百合ちゃんに毎日と言うか、朝も夕方もきてもらって一緒に料理を作ると言うことになっていたのだったが、

「美亜お姉さんこんな毎日来て大丈夫ですか?」

 ああ、百合ちゃんの弟さんの柿生くんに、逆に、あまりにやってくる喜多見美亜を疑われているという事案が発生してしまっていたのだった。

 それを心配されて百合ちゃんは、

「柿生は余計なこと心配しなくて良いの。私は向こうでもちゃんとやってるから」

 とうっかり喜多見美亜の体で柿生くんを呼び捨てにしてしまう。

「……?」

 すると、そのあまりに百合ちゃんっぽい口調に柿生くんは一瞬、あれ? と言う顔になってしまうのだが、

「妹の美唯ちゃんと間違ってしまったのよね」

 俺は百合ちゃんの失言にとっさのフォローを入れる。百合ちゃんもその言葉にすかさずに乗ってくれて、

「あっ、ゴメンなさいつい妹と間違って……いえ——と言うよりも、毎日ここに来てるうちに、柿生くんがなんか他人と思えなくなって……妹と混同しちゃっていたかも」

 と言うのだった。

 まあ、本当に他人じゃ無いしな。

 ともかく、百合ちゃんの言葉に柿生くんは納得した模様。

 で、

「ああ、でも——うれしいですよ。親しく呼びかけてもらって。何かお姉さんが二人できたみたいです」

「「……」」

 んっ?

「と言うか、何か美亜さんが、一瞬、姉さんに見えるときあるんですよね」

「「……!」」

 やはりこの不自然な状態は肉親の目はごまかせないかもしれない。

「でも、それはともかく、なんか、二人あやしいですよね」

「「……!」」

 んんっ? 

「——柿生! ……じゃなくて柿生くん。私は怪しく無いわよ——本当に喜多見美亜よ」

「えっ? ははははは」

 慌てた様子の百合ちゃんの言葉に柿生くんは突然笑い出す。

「違いますよ、ははは、美亜さんがお姉さんなわけないじゃないですか。そんな間違いするわけ無いじゃないですか。まるでお姉さんみたいだなとは思いましたけど……そりゃ別人なのは見ればわかりますよ」

 あれ、そんな風に思ったわけじゃ無いんだ。

 じゃあ?

「あやしいって言ったのは二人の関係です。こんな毎日、朝も晩も仲良く一緒にいて……それって普通かなり疑われちゃうんじゃないかと思うんですが?」

 あれ、そういうこと?

「……今話題のLGBTってやつですか? レインボーな関係ですか?」

 柿生くんが少しにやけながらそんなことを言うと、

「——柿生! ……じゃなくて柿生くん! ふざけないで!」

 百合ちゃんがまた自分が喜多見美亜になってることを忘れて柿生くんをしかりはじめそうになるが、

「もちろんふざけてますが——でもその方が良いかなとか思っちゃって……あんな家に関わるよりは……」

 と言って俺——が中に入った百合ちゃんのことを意味ありげに見つめるのだった。俺は、それにどう反応して良いかわからずに曖昧に頷くのだが……

 俺はその言葉を聞いた時に、腹の奥がずどんと重くなるようなモヤモヤとした感触を感じる。

 いや、俺は実はもう気づいていたのだ。

 でも、あまり深くその事実を考えようとしていなかったのだった。

 俺は百合ちゃんとして生活したこの数日で、こんな風な柿生くんの発言や彼女の部屋に置いてあった手紙の宛名が特定の人のものばかりとか、そんな諸々から推理するならば……

 百合ちゃんには好きな人がいる。

 その結論は自明のものなのだった。

 この間の、入れ替わる原因となった、偶然のキスはしょうがないとして、その人への操を立てて今の俺と、入れ替わりのためにさえキスはできない。

 そう考えれば、すべてつじつまが合い——そのつじつまを見せつけられる日も近い。俺はそう思う。そのことに怯えながら、

「ところで、こんな話していると学校遅れちゃうから、さあ柿生もテーブルに皿とか並べて朝食の準備をして」

 朝の慌ただしさのせいにして、自分の中のもやもやを一度心の中に覆い隠してしまうのだった。でも体は騙せない? 俺はテーブルに向かおうと車椅子をくるりと回した柿生くんの後ろ姿を見ながら、知らずに嘆息を漏らしていたことに気づきはっとしてしまうのだった。

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