食人族対人間という対立構造の描写から始まるストーリー。冒頭はなかなか残酷なシーンもありますが、読むべきポイントはまさにそのあとに展開される、登場人物たちの心理描写にあります。
ネタバレを防ぐために内密は伏せますが、冒頭のシーンからは想像つかないシリアスな話や、温かい話など、どれをとっても胸に響くエピソードが満載です。
作者さまは紹介にあります通り、ダークな作品を書かれますが、しかし、そこには見事なほど人間の感情の部分を浮き彫りにされ、読む人に感動だけではなく、感情としての訴えを仕掛けてこられます。
いくつか公開されている作品の中では、こちらの作品は最初に読むのに適しているかと思います。他の作品も読みごたえ抜群ですので、まずはこちらの作品から楽しまれてはいかがでしょうか?
ラスト近くの遠吠えシーンは、ぐっとくるものがあります。みなさまに素直にオススメできる良作です!
最初にあらすじを読んだ時に、人間を喰らうことで生きる食人族
そして彼らと戦う人間たち、というような話を想像しましたが
全然違いました。
多種多様な種族が協和するために、自分を犠牲ににしてまで
太陽の光を消した男と、どうしても太陽の光を求める女
そんな二人の間で心を痛める種族ハーフの男
三つ巴の想いがぶつかり合う良質なファンタジードラマでした。
人がそれぞれ生きるためには、生きるための正義、
もしくは心の拠り所が必要です。
本作ではその正義がぶつかりあいながらも、最終的には
かれら全員の想いが一つに収束していきます。
全てがハッピーエンドでは無く、望むべき世界を創ろう
と自分を犠牲にした男の最期には涙しました。
最後に食人族の描写ですが、最初は残酷ですが
本編に入れば愛すべき姿で綴られていて、とても癒やされますよ。
食人族という決して人間と相容れることのできない存在。そんな彼らを閉じ込めた世界。
独創的な世界観や設定、造語が相変わらずの持ち味だなぁと思いました。
闇の世界で生き、それぞれの想いを抱える者達。
世界の創造主たる青年の行為。食人族でありながらどこか陽気で憎めないドリーク。
この二人が象徴的に感じ、誰か一人が悪いわけではないという事実が、ストーリーに深みを与えていました。
悲劇とも喜劇ともとれない内容であり、読んだ人によって様々な感情が沸き立つ作品だろうと思いました。
自分は『異なる存在が同じ世界で生きるために、どうすべきか』というテーマの作品だと感じました。
ただそのための『異質』を『食人』に据える必要があったのか、という部分で、もっと作品と深くリンクして欲しかった気もします。
とは言え中篇で綺麗にまとまっており、未来を感じさせるラストで良かったです。安定して楽しめました。