エピローグ Day After The Day!!

「ふはははは! 流行り物には乗ってみるものだな! PVが! ☆が! フォローが! とどまるところを知らないぞ! これで俺も一躍時の人だ! でも☆下さいもっと下さい! レビューが有るとなお嬉しい!」


「ロクロー、最高にご機嫌だね……」


「当然だ! 俺の作品が受けた! こんなに面白いことがあるか!」


 今、俺は人生における一つの絶頂期を迎えていた。


 ティナと俺とが体験した戦いを、多少アレンジした上で小説としてカーブリバー社の小説投稿サイトに投稿したところ、実話体験談として大☆人☆気なのだ。


 ああ、勿論ブラザーフッドの検閲は通っている。何せ今回の小説を書くようにと依頼くださったのは彼等なのだ。今回の事件で現れた神話生物の危険性と、そして一部の理知的な神話生物や歴史の表舞台に姿を表した魔術師への冷静な対応を呼びかける為のプロパガンダの一種だ。


 現在、日本を含め世界中は邪神による大混乱の真っ只中。その混乱に乗じたリンチ、犯罪、差別や暴動は日常茶飯事なのだ。まさに世は世紀末!


 そんな中で俺は自分の作品の人気を稼ぎつつ、いらぬ悲劇の予防の為にお手伝いをしている。


「でも良いのロクロー? 自分の作品を宣伝の道具に使われて」


「こんなの別に珍しいことじゃないだろう? ポール・ギャリコも米国政府からの依頼でナチスに一杯食わせるクールなスパイ物を書いていたんだ。大事なのは読んだ人が面白いかどうか。その点ならば俺は胸を張って保証しよう」


「実体験した当人としては少し誇張が過ぎると思うけど、私がこうしてのんびり暮らせているのも、その作品とやらのお陰ならば、感謝しないといけないのかなー?」


 そう言ってハーゲンビッツ(ソルティバニラ&キャラメル味)をちびちび舐めるティナ。彼女は物語の中だともう少し清く正しい良い子なのだが、現実は残念ながらぐうたらだ。最近アニメとか漫画とか大好きになってしまわれた。


 正直に言おう。大衆受けを目指して少し盛った。人格面とか。


 まあ本当はそういうちょっと駄目な所が可愛いんだけどなああああああああああ! そこら辺は俺にしかわからないからなあああああ! くぅぅうううううう!!


「あ、ロクローが気持ち悪い顔してる! きっとまた悪いこと考えてるんだねっ! こんなに簡単に顔に出る辺り悪いことできないキャラだよねロクロー!」


 言えないなあああああああ!!!! 特に何も言えないなあ!!!!!!


 俺が更にニヤニヤしてると突然部屋の窓が開く。


 ああ窓に! 金髪碧眼作務衣のイケメンが! 椋じゃないか!


「そういうことだよイカ娘! 君の正体がバレないように緑郎は最大限気を使って別のキャラにしているんだぞ!」


 馬鹿が窓からやってきた!


 ……確かに俺と椋の家は近所だが、家自体は隣同士ではなかったような気がする。


 まさかまた異能グリードでダイナミック自宅訪問してくれちゃったりしたのかこいつ。


「あ、小説化にあたって女の子にされた人! 小説化にあたって女の子にされた人じゃないかー! きゃははははは!」


「だまり給えイカ娘!」


「お前ら楽しそうだな……」


 椋は窓を閉めた後、クルッとこっちを見てニコッと微笑む。


「――――ああ緑郎! 済まないね騒がせて!」


 相変わらず忙しい奴だ。


「安心してくれ緑郎、見られないように姿は消してきた」


「野郎が多すぎると受けが悪いからな。女性化の件に関しては許せ、許してくれ」

 

「許すさ、当たり前だろう? ところでこの前見せて貰った原稿だけど、ブラザーフッドの活躍少ないからもっと仕事したアピールしてくれだってさ」


「そうは言われてもな……今度支部長の真田さんに取材をさせろ。今の作品はあくまでも主人公達の活躍に焦点を当てるが、日本各地の支部長個人の武勇伝を纏めた短編集みたいなのを書こうと思っていたからな」


「伝えておくよ。きっと喜ぶ」


「無気力オジサン装うつもりで装えていない熱血漢だからな。実は憧れているんだろう……そういうの」


「支部長さんって風神ハスターの信奉者なのに随分と物分り良いよね」


「良いかいイカ娘。風神ハスターは元々気象の穏やかな羊飼いの守り神だ。君達の所の神と一緒にしてもらっては困る」


「失礼な! うちのパパーンだって芸術全般にご利益の有る神様だし! 少し破壊と悪徳と支配を求めているけど!」


「あと間違いなく俺達の命も求めているよね?」


「うん」


「ですよねー……」


「ああ、その事なんだけどさ。今日遊びに来たのは君達に依頼が有ったからなんだよ。勿論クトゥルー絡み」


「なに? 詳しく聞かせろ」


 ここの所、特にクトゥルー及びその力を与えられた望者アクターが絡む事件は多い。最初の方こそ神の力を持つ相手とビビっていたものの、今じゃクトゥルーのバーゲンセール。まさしく一山幾らの神A Big Cって訳だ。


「鎌倉で連続児童融解事件だ」


「誘拐?」


「融ける方だよ。姿を消すから本当に誘拐かも知れないが其処はわからない」


「そいつは穏やかじゃないな」


「海辺で頻発していること、近所の人の目撃証言などからクトゥルーやそれに連なる水神系統の何かが関与していると推測されている。君達も民間協力者イリーガルとして付いてきてくれ」


「成る程、悪くない話だ! いかにも話のネタになりそうだ! なあ?」


 俺はティナの方をチラリと見る。ティナはわざとらしく肩を竦める。


「いやー、ロクローが行くなら行くしかないかー! 人の子とかまったく興味無いし可愛いとか間違っても思わないけどロクローが行くって言うもんなー! 仕方ないよねー!」


「……だ、そうだ」


 椋は柔らかに微笑む。


「随分人間らしくなったものだよ。だが嫌いじゃないな。詳細は移動しながら説明するからとりあえずブラザーフッドの支部まで来てくれ」


「オーケー!」


「はいはーい、ティナちゃんにお任せ!」


 俺達は勢い良く家を飛び出し、停めてあった黒塗りの車に乗り込んで、ブラザーフッドの支部へと向かう。


 これからもこんな非日常ばっかりの日常が続くだろう。


 ああそうだ、一山幾らの神話A Big Cは終わらない。


【Day After The Day!!! 完】

【A Big C  To be continued……?】

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A Big “C” 海野しぃる @hibiki

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