「国名」+「謎」なら、今も昔も、やっぱり本格
- ★★★ Excellent!!!
本格ミステリの謎の要素は大きく三つに分けられる。
フーダニット(誰がやったのか)、ハウダニット(どうやったのか)、そして、ホワイダニット(なぜそうしたのか)
この中でもっとも刺激的で、おそらく普段ミステリを積極的に読まない層にも求心力があるのは、なんといってもホワイダニットだろう。
フーダニットは、容疑者のアリバイをしらみつぶしに当たる地味な作業に終始しがちで、ハウダニットは、答えを聞いて、ともすればピタゴラスイッチ的な仕掛けに、「本当に出来るのかよ」と冷や水を浴びせる結果になりかねない。(ミステリ好きではない読者であるが故、そういったことには冷たいのだ)
ミステリファンであっても、フーダニットには、「アリバイ証言を付き合わせれば齟齬が出てくるんでしょ」ハウダニットには、「物理トリックで何とかしたんでしょ」と、解答の〈ハードウェア〉を掴みやすい。
翻って、ホワイダニットはどうか?
例えば、本作の謎、「犯人はどうして余命一ヶ月の被害者をわざわざ殺す必要があったのか?」「どうして呼吸機のスイッチを切るだけで殺せるのに、わざわざ翡翠で滅多打ちにするなどという殺害方法をとったのか」
これにおぼろげながらでも解答の〈ハードウェア〉を掴むことが出来るだろうか。
時刻表をこねくり回すアリバイ工作や、ピタゴラスイッチには興味を引かれない読者も、この謎は「知りたい」と思うのではないだろうか。
知的興味とそれが解かれたときに味わう興奮。本格ミステリってこういうこと。
本作「メキシコ翡翠の謎」は文体も軽快で、読みやすく(Web小説なのに、改行を特にしていなくとも読みやすいのは凄い)、エキセントリックな探偵、それに振り回される刑事、そして〈読者への挑戦〉と、本格ミステリのエッセンスを存分に凝縮した快作に仕上がっている。
特殊設定やオカルト要素、警察の科学捜査を介入させない過去や絶海の孤島要素を入れることなく、あくまで横綱相撲を挑んでいるのも好感が持てる。
ミステリ好きはもとより、ミステリ未経験者にも、「本格ミステリ」のこれ以上ない入門として、ぜひお勧めしたい。