何となく読んでみたミステリーですが、非常にレベルの高い作品で驚きました。
不可解な殺人動機、不可解な凶器、そしてそれを取り巻く不可解な背景の容疑者たち。
すべてが謎めいており、読者の関心を惹き付ける魅力は充分です。
そして、解決へと導く充分な論証、裏付ける歴史的、宗教的な学識は非常に高度。
解決を担当する名探偵は、実にユニークな変わり者で、読み手を楽しませます。
また読者への挑戦状も用意されていますが、私は全く分かりませんでした。
驚きの真相にぐうの音も出ません。
正直、★3つでは全然足りません。
もっと評価されるべき。
続編を切望するレベルです。
面白いので、是非とも読んでみてほしい作品です。
個人的に最後の最後の参考文献にダウンタウンが入っているのが、笑ってはいけないのに笑ってしまいました。
本格ミステリの謎の要素は大きく三つに分けられる。
フーダニット(誰がやったのか)、ハウダニット(どうやったのか)、そして、ホワイダニット(なぜそうしたのか)
この中でもっとも刺激的で、おそらく普段ミステリを積極的に読まない層にも求心力があるのは、なんといってもホワイダニットだろう。
フーダニットは、容疑者のアリバイをしらみつぶしに当たる地味な作業に終始しがちで、ハウダニットは、答えを聞いて、ともすればピタゴラスイッチ的な仕掛けに、「本当に出来るのかよ」と冷や水を浴びせる結果になりかねない。(ミステリ好きではない読者であるが故、そういったことには冷たいのだ)
ミステリファンであっても、フーダニットには、「アリバイ証言を付き合わせれば齟齬が出てくるんでしょ」ハウダニットには、「物理トリックで何とかしたんでしょ」と、解答の〈ハードウェア〉を掴みやすい。
翻って、ホワイダニットはどうか?
例えば、本作の謎、「犯人はどうして余命一ヶ月の被害者をわざわざ殺す必要があったのか?」「どうして呼吸機のスイッチを切るだけで殺せるのに、わざわざ翡翠で滅多打ちにするなどという殺害方法をとったのか」
これにおぼろげながらでも解答の〈ハードウェア〉を掴むことが出来るだろうか。
時刻表をこねくり回すアリバイ工作や、ピタゴラスイッチには興味を引かれない読者も、この謎は「知りたい」と思うのではないだろうか。
知的興味とそれが解かれたときに味わう興奮。本格ミステリってこういうこと。
本作「メキシコ翡翠の謎」は文体も軽快で、読みやすく(Web小説なのに、改行を特にしていなくとも読みやすいのは凄い)、エキセントリックな探偵、それに振り回される刑事、そして〈読者への挑戦〉と、本格ミステリのエッセンスを存分に凝縮した快作に仕上がっている。
特殊設定やオカルト要素、警察の科学捜査を介入させない過去や絶海の孤島要素を入れることなく、あくまで横綱相撲を挑んでいるのも好感が持てる。
ミステリ好きはもとより、ミステリ未経験者にも、「本格ミステリ」のこれ以上ない入門として、ぜひお勧めしたい。