これは「夢十夜」風の妖怪アンソロジー作品のようでありつつも、実は一つの計画によって構成された物語でもある。
続編にあたる作品も存在していて、そちらの方がさらに過激になっているが、単なる物語ではなくて一種のパズルのような仕掛けがあり、作者や作中人物の"意図"が言わばその仕掛けによって迷彩されたり、また実行されたりしている。これを可能にしているのが貸本――もっと言えば"本"というモチーフだが、本を編むことにこれだけの思いが巡らされているというのは、しばしば忘れられがちなことなのかもしれない。
とはいえ、本とは読まれることによって成立する経験なのであって、その当たり前だが尊い事実に単に出会い直しているだけとも言える。
ことほどさように機知に満ちた作品だが、まだ洗練の余地が多いようにも思われる。
特に「自分が登場しなかったことにしたい」という言葉――妖怪――作中人物の存在については非常に重要な着眼点であり、さらなる掘削を期待したい。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)