後日談
僕のお父さん
僕のお父さん。
僕の家は十一人家族です。お母さんとお父さんと、そして妹が五人と弟が三人います。
友達のお父さんはお金を稼ぐために店を経営していたり、公務員をやっていたりしますが、僕のお父さんはいつも家でごろごろしています。友達のお父さんはみんな仕事をしているのに、僕はずっと昔からお父さんが仕事をしている様子がないことが不思議でした。
お母さんはずっと家にいるお父さんに何もいいません。
お母さんは美人です。ご近所でも評判です。
お父さんは僕がいうのも何なんですが、平凡な顔をしています。でも、お父さんとお母さんはとても仲がいいです。喧嘩したところも見たことがありません。お母さんは料理や洗濯などの家事でいつも忙しくて、お父さんはごろごろしています。でも仲はいいです。
そしてなぜかもてるのはお父さんです。時々知らない女の人がお父さんを尋ねてきて、お父さんに諭され追い出されます。しかも何人も来ます。お父さんに聞いたら昔の女だって言ってました。お母さんに聞いたら、お父さんの事を信じてるから大丈夫なんだって言ってました。今度また弟か妹が増えるらしいです。
お父さんはお母さんのことをたまにお姫様と呼んでいます。少しだけ聞いた話では、一目惚れしたお父さんが猛烈にお母さんにアタックして射止めたらしいです。そこだけ聞くと普通ですが、お父さんとお母さんは不釣り合いに見えるし、二人が夫婦なのは僕から見てもおかしく感じます。
僕の親戚には王国で最強と言われる金竜召喚騎士団の団長さんがいます。王国の守護神の異名を持つあの人です。
昔からしょっちゅう家にきていて、僕は学校の授業で習うまで、そのおじさんが英雄だとは思っていませんでした。
おじさんは厳しい人で、たまに騎士団の部下の人を連れてきますが、その人達によく通る厳しい声で指示を出します。英雄なので当たり前かもしれませんが、みんながおじさんに尊敬の目を向けています。
そんなおじさんは、家に来ると金貨のいっぱいつまった袋を置いていきます。おじさんは僕には優しいですが、お父さんにはいつも険しい顔を向けています。金貨を渡すとおじさんはいつもこういいます。大人しくしてろ、変な気は起こすなよ、と。
一度、お父さんに何でおじさんがお金をくれるのか聞いたことがありました。お父さんは知らないと言いました。いらないと言ってるのに置いていくので困っている、と。普通逆だと思いますが、押し付けるように金貨を置いていくおじさんを見ているとその言葉も本当に思えてきて、僕は理解に困るのです。
お父さんの書斎には本がいっぱいあります。本棚には分厚い本が何百冊も並んでいて、でもお父さんがそれを読んでいるのを見たことがありません。
本の中には僕が読めない外国の文字で書いてある本もあります。読める文字で書いてある本もあります。
お父さんに何の本なのか聞いたら、召喚の本だと言っていました。お母さんが、その中の本の何冊かはお父さんが書いた本なんだと優しく教えてくれました。僕は驚きましたが、お父さんは自慢する様子もなくお金がなくて仕方なく書いたんだと言っていました。もういらないけど、誤字の指摘がきた時の確認のために取っておいているらしいです。
お父さんは作家なのか聞いたら、作家ではないと言ってました。そして、難しい表情で言いました。作家は儲からないから辞めた方がいい、クリーニング屋の方がまだ儲かる、と。
僕の家にはしょっちゅう人が尋ねてきます。
老若男女、片眼鏡をかけた学者さんもいますし騎士の人もいます。髭を生やした魔導師の人もいます。共通点は皆、立派な格好をした人たちで、家に来る時はお土産を持ってきてくること、そしてお父さんを訪ねて来ることくらいです。
お父さんはだらしない格好をしています。いつもはよれよれのシャツで過ごしていて、お母さんはそんなお父さんに何も言わないのでお客さんが来た時もヨレヨレのシャツを着ています。
ですが、お父さんを尋ねてくる人は皆緊張しています。お父さんを相手に訪ねて来て平気な様子なのは団長のおじさんくらいです。
何を話しているのかは知らないですが、帰る時には凄い汗をかいている人もいます。一度だけ、尋ねてきたおじさんに頭を撫でられたことがあります。白衣を着たおじさんは頭を撫でて僕にこう頼んできました。どうかお父さんに便宜を図ってくれ、と。
お父さんはお客さんが帰ると、いつも困った顔をしています。その度に僕は不思議な気分になるのです。
ある日から、お父さんには護衛がつくようになりました。しかもエリートの金竜召喚騎士団の人です。どうやら尋ねてくる人が多くなりすぎて、お父さんがおじさんに頼んだようでした。団長のおじさんはこっそりお父さんに言っていました。護衛はつけるから変な気は起こすなよ、と。
護衛の中にはたまにお父さんを尋ねてきていた女の人もいました。僕はその時、昔の女が召喚騎士団の人だという事を知りました。
お母さんは美人ですが、その女の人もお父さんに相応しくないくらいに美人です。
ある日、僕はその女の人からお父さんが元召喚魔導師だということを聞きました。召喚魔導師と言うと限られた才能をもつ人にしかなれないエリート中のエリートです。その人は学生時代のお父さんの同級生で、昔は一緒に住んでいたこともあるそうです。
しかし、召喚魔導師といったらいつも召喚した眷属と一緒にいるのが普通です。団長のおじさんはいつも竜を連れているし、他の召喚魔導師の人も色々な眷属を連れています。でも、僕はお父さんが魔法を使ってる所も、召喚した眷属を置いているところも見たことがありません。
気になって仕方なくなってお父さんに聞いてみたら、お父さんは困ったように言いました。僕の眷属は神様なんだ。今も空から僕達の事を見守ってくれている、と。
僕でも空から見守っているの意味くらいわかります。きっと何か悲しいことがあったのでしょう。僕はそれ以来お父さんにその事を詳しく聞くのをやめました。
お母さんもお父さんも僕には優しいです。昔話はほとんどしないし、たまに昔のことを話して欲しいと言っても困ったような笑顔を作るだけです。
お父さんとお母さんの時代に大きな戦争があったことは知っています。大きな国が滅んだ事も、魔王という存在が現れたことも。きっと悲しい事があったのでしょう。お父さんにそれを言うと、お父さんはただ僕の頭を撫でて、お母さんと僕達がいるからもう悲しくないんだと言いました。後からお母さんに聞いた話なのですが、お父さんは僕が生まれたことで生きがいだった召喚魔導師を引退したらしいです。
召喚魔導師は危険な職業です。最近は平和ですが、戦争中は最前線に派遣されていたと聞きます。きっとお父さんは僕を一人にしないためにその選択を取ったのでしょう。僕が生まれた年は戦争が終わった年ですが、戦時中に召喚魔導師をやめる決意をするのはとても大変だったと思います。仲間からも白い目でみられたことでしょう。
僕はそれを知った時、少し申し訳なく感じると同時に、今まであまり尊敬していなかったお父さんが立派に見えるようになりました。僕だったらきっと自分の子供のためにそんな選択を取ることは出来ないと思います。
そして、お母さんからの話でなんとなく事情がわかるようになりました。
書いたという召喚の本。元同級生だという騎士団の人に、団長のおじさんがお父さんに気を使っているわけも。
お父さんには手紙もいっぱいきます。何の公演かはわかりませんが、たまに公演とかにも呼ばれているようです。
僕のお父さんは謎が多い人です。
仕事はしていませんが、立派な格好をした人が沢山頭を下げにきます。英雄のおじさんも気にかけているし、たまに怒鳴り込んで来る人もいますが、僕や家族にはとても優しいです。
元々召喚魔導師をやっていたと聞き、僕は召喚魔導師について気になるようになりました。
お父さんが生きがいにしていたものです。お父さんが僕のためにやめた召喚魔導師に僕がなるというのは素敵なことだと思うし、お父さんのような立派な召喚魔導師になることが夢になりました。
そうすればきっと、お父さんのようになれるでしょう。
最後に。僕はお父さんにどうすれば立派な召喚魔導師になれるのか聞いたところ、お父さんは少しだけ微笑んで教えてくれました。
全ては確率だ。まずはお金を稼ぐところから始めなさい、と。
何回ガチャを引いてもレアが出ないから腹いせに書いたファンタジー 槻影 @tsukikage
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