第一話 「異世界の窓からニーハオ! コンニチワ!」

さてどうしたもんか……。

異世界に来たとしてどうやって来たんだろう?


最近のアニメとかである、神様が『お前異世界行ってみねー?』みたいな展開で別の世界に飛んでしまったのかな?

しかしそう言う人に会った記憶も無いんだよね……覚えてないだけかもしれないケド。


そんな事を考えながら改めて軽く見まわしてみれば、目に入る物全てが記憶にある中世の物とは違う事に気が付く。

かと言って現代の代物とも違う。


まずはテントなんだけど、見るからに素材が別物だった。

うまく説明出来ないけれど見た感想として、生地の感じと言うか編み方に対してまず違和感を覚えた。

何と言うか……凄く薄い生地が二枚重なって状態で編まれてる、みたいな。

上手く表現が出来ない。

後は置かれてる棚とか寝ているベッド、小物一つにしてもプラスチックを使った物なんて一個も無い。

全ての素材が木、金属、布……時々ガラスで基本的のこの辺りで作られる家具類小物はアンティークを思わせる。

そして造りもやたら細かくて、模様がこれまた見た事が無いデザインばかり。

花の柄とか鳥の模様一つですらどれも見た事が無い。

更には表面の処理とかニス一つの塗り方がやたら丁寧で、よくよく見ればどれもこれも高級感がハンパなかった。



そうやって観察している内に時間が気になったが時計は見当たらず、ボクの荷物も無い。

スマホでもあれば時間確認出来たのになと思ったが、ここに運ばれた時の自分はどんな状態だったんだろう?

服があちこち傷んでいたと言ってたケド、状況がイマイチ想像出来ない。



「そう言えばさっきのってボクも使えるのかな」


色々考え込んでいるところで先程の女性、ローズさんだっけ?

あの人ががやっていた事を思い出す。

現代生まれの中学生としては、魔法と聞いて興味を持たない訳が無い。

更にはネトゲにハマりまくっていた自分としては興味は一層だ。


そんな逸る気持ちを堪えながら右手を突出し構えるが……そのままマヌケに硬直した。


「―――と言ってもここからどうするんだ?」


即実行に移ったのは良いけど、早くも頓挫した。

よくよく考えれば魔法って物があったとして自分は使い方も原理もわからない。

出来る事がわかっても方法が判らなければ、同じく原理も全く分からないのだ。


諦めようかと思った瞬間、温かさがじわりと腕を伝う。

慌てて集中すると段々集まる暖かい感覚。

それはローズさんが頭に触れた時に感じた物と同じで、ボクは逸る気持ちを抑えながら手のひらへ集まるよう、イメージする。

ボクはネトゲで使ってた火魔法を思い出し、手のひらの上で玉になるよう強くイメージをして―――


「ハァッ!」


調子に乗って声を出してみる。

しかし途端に温かさは消えてしまう。


「あ、あれ?」


途中まで良い感じだったにもかかわらず、失敗してしまった。

温かくなるまでは良い感じだったんだけど、ローズさんみたいに発光もせず少々ショックを受ける。

「ま、まだ一回目だし!」などと負け惜しみを交えた励ましを自分にかけて、再チャレする。

きっと声を出したのがいけなかったんだな、と反省して今度は声を出さないようにして…………






「あれかな、温かくなるだけの魔法? 湯たんぽかな?」


フフフと乾いた笑い声を出しながらうな垂れる。


………30回近く頑張りましたが、手が無駄に発熱するだけで終わりました。

もしかしてさっきローズさんが唱えてた厨二的な詠唱も必要だったのかな?

と恥ずかしさを堪えてソドソの魔法詠唱を口にしてみましたがそれでもダメでした。


まじハズい。

途中でローズさん戻ってこなくて良かった、などとため息交じりに呟く。

裸のままで腕を出してかっこつけたりしてたもんだから心も身体も寒し、いい加減に服を着よう。

てか方法もよくわからないのに自分何やってたんだろう、と今更ながらアホな事をしていたと自己嫌悪を抱く。


しょぼくれたボクはベットからおりると棚の上へ置いてある服を手にする。

用意してあった服は水色のローブで、見た目は質素な感じだが手触りはしっかりしている。

生地も厚く、すごく暖かそうだ。

続けて畳まれている小さな布に手をかけ―――広げて自分は硬直した。

純白で、さらりとして、可愛らしく、小さな、高級感ハンパない下着。

逆三角形の形をした下着。

そう、


「これって……じょせい……モノ、ジャン」


ボクの世界で女性物下着と呼ばれるシロモノ。

自分はパンツを手に硬直してしまう。


別に女性物の下着が珍しかった訳ではない。

姉さんがいたから見慣れてるはいるし、洗濯で度々触りもした。

問題はそこじゃない。何で女物?

「まさかボクは女になっているのか!?」などと取り乱して確認したが、ちゃんとあった。

あぁもしかしてあれか。

この世界では男もこの形の下着をつけるのかな?

ここは別の世界だし、そのしきたりに自分も倣わなきゃ…………


「……ン訳がないでしょ!

こんなものを付けたらナニがと言わないけど、異世界の窓からニーハオ! コンニチワ! だよ!」


混乱極まった思考へ対し、即突っ込みを入れて思わず叫ぶ。

どう言う事なのかと頭に手を宛てては、彼女の言葉を思い返す。


『男連中にはここには入ってこないように話をしてあるから安心して着替えて』


先程の言葉を思い出したボクはハッとする。

そう、自分が女の子と間違われている可能性だ。

ボクは母さん似で、見た目も声も女の子だと昔からよくからかわれていた。

イジメられてた時も女っぽいって理由で色々されてたので、まぁわからなくもない。

中学2年だと言うのに声変わりも全くで、大人しい性格のせいもあって学ラン姿なのに女子と間違われた事があったしな……。

しかし裸のボクを看てくれてたなら彼女も気付きそうなものだけど、服を脱がした人はまた別だったのかな?


そんな事を考えながらとりあえずローブだけ着て、あの人が戻ってきたらちゃんと説明しようそう。しようなどと整理を付ける。


「・・・・・・!・・・っ!」


そしてボクは外から聞こえる喧噪のような声とバタバタ慌ただしい雑踏が気になった。

その音は段々こっちに向かっているようで、万が一こっちに誰か来たらまずいなと慌ててローブへ袖を通そうとすれば、


「あーもう! 何で追っかけてくるのかな!」


清涼を含んだ可愛らしい声がテントの中に飛び込んでくる。

声の方へ視線を向ければブロンドヘアーの少女が眉根をひそめながら、テントの入口に立っていた。



同時に自分は慌ててベットに滑り込み身を隠した。

それはレスキュー隊が無駄を全て取り払ったアクションで現場に飛び込むかのような流れる動きで、豪快さを見せながら最速の速度で。


―――とりあえずベッドの中でローブを着るんだ!

手に握り込んだそれをボクは素早く広げる。

自分が悪い訳では無いのだが、とんでもない悪い事をしてそれをひた隠ししてるかのように心臓は喧しく早鐘を叩く。

その原因は自分がすっぽんぽんだからなのは言うまでもないけれど……。


そしてローブを広げようとするが一向にそれ以上広がらない事に違和感を覚える。

そして視界の端に映る水色に気が付く。

恐る恐るベッドの中で胸元近くまで持ってきた生地へ視線を向ければ―――握り込んでいたのは真っ白な生地だった。


そう……ボクは動揺のあまりローブをベッドの横へ落してしまい、持ち込んでいたのはさっきの下着のみだったのだ。

自分は手を伸ばし、ローブを手に取ろうと試みるが背が小さいボクは腕も短いせいで届かず。



「……はぁもうやだぁ」


そんなボクを余所に彼女は溜息を交えた言葉を吐くとうな垂れる。

そして聞き耳を立てれば外からドタドタと雑踏の音と騒がしい声が聞こえてくる。


「な、なぜですかレオナ女王陛下! この……この私の新装備をぜひ、見ていただきたいのです!

なぁルシード! お前もこれを見てくれ、どう思う!」


「ああ、すごくおっきいです!

良いじゃないかヴィグフィス。その素晴らしい着けこなし……私も作った甲斐があると言うもの」


どっかで聞いた事あるような意味深な会話が聞こえてくる。

これは凄く関わっちゃいけない感じがする。

そんな事を考えてるボクに少女が視線を向ける。


「キミ、無事に目が覚めたんだ……良かった」


「う、うん。ついさっき」


ブロンドの髪に緑の瞳の西洋人みたいな少女はボクへにっこり微笑む。

見た感じからして歳は13、14才くらいだろうか?

生前のボクとあまり変わらないくらいに思える。

服装からどこかのお嬢様だろうなと伺え、ロングスカート仕立ての水色ドレスは独特のデザインをしている。ドレスの縁には金の刺繍が細かくあしらわれていて、細かな花柄模様は高級感を漂わせる。

それはボクの知っている中世っぽいドレスと似ているが……やっぱりどこか違う。


そんな観察をしてる内に足音がこっちに向かってくる。


「―――うそ、こっちに来ちゃう!」


そう口すると慌てた彼女はボクのベットに潜り込んできた。

自分は驚く間もなく、さっきのパンツを咄嗟に穿く。

女物だとか言っている場合ではない。

そしてシルク製で肌触りがとても良いそのパンツは何の抵抗も無くボクの足を滑り、股間でフィットした。


「ごめんね、ちょっと隠れさせて!」


彼女はもぞもぞと軽く顔を出し、ボクのお腹の上で顔を乗せると上目遣いでこちらを見つめてくる。

微妙に膨らんだ彼女の胸は外腿とシルクのパンツ辺りに押し付けられ、温もりが伝わる。

確かな重みと一緒に圧迫のある柔らかさはボクの冷静さを奪い、顔を中心として一気に汗が伝う。

……ヤバイ。

こんな下着姿で汗ばんだらベタベタして気持ち悪いとか、汗臭いなんて言われてマズいだろと脳内でどうしようどうしようとパニックがドタドタ走り回る。


そんなボクを余所に女の子はその柔らかな手をボクの右足と右脇腹に添えてくる。

直に触れ合う肌は更に温かみを伝え、彼女が無意識に動かす手指の僅かな動きはくすぐったさを伴いながら抑えようとしてる欲求のフタをおかまないしに開いていく。

自分はそれらを必死に抑えようと色々と関係無い事を考えまくる。

九九を高速で読み上げたり、歴史の偉人を適当にマッハ羅列と訳わからない事をしまくって意識を逸らすけど……

布団の下に籠った熱が立ち上るのと一緒に彼女の髪から甘い匂いが香り、鼻を刺激する。

ああ、凄くフルーティーな良い匂いが……。


するとそれに気が付いた彼女は上目使いでこちらに目を合わせ、その薄紅が艶やかな花弁のような唇を動かすと―――

小さく「ごめんね」なんて可愛らしく微笑み、トドメを刺してきた。


彼女にしたら何気ない仕草なのだろう。

しかしブロンドとドレスの襟元よりわずかだけ垣間見える雪のような白い首元が凄くいやらしく見え、今のボクからするとこの子の一挙一動がリビトーを刺激する拷問だ。

見た目が好みだから余計やばいんです、やめて下さい。

なんて事を噛み締めながら自分は苦笑を浮かべて誤魔化すので精一杯だった。



「こっちには居ないようだな!!」


「……仕方ない、私はあっちを探そうか」


「うむ、頼んだぞ!」



先立ったお母様お姉様。

ボクが女性物の下着を着けてしまったのは不可抗力です。

なので下着の着け心地が良いな、とか思っているボクを許して下さい。

この子が居なくなったらすぐに脱ぎますので、荒ぶる欲求がこれ以上暴れないようにどうか鎮まるように力をお貸しください。


ボクは祈りを捧げる神父のように目を閉じるとお腹にあるその女の子の感触を意識しないように集中した。

段々と遠くなる雑踏。

そして声も合わせて遠ざかる。

このまま耐えるだけだ、もう少しだ……と言い聞かせる。



「レオナ女王陛下!」


が、そんな耐え忍びも虚しくバサリ! と乾いた音が響く。

音のした方へ目を向ければテントのカーテンがめくれ上がり、先程の声の主の一人が中へ入って来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る