第14話 恋するこりす


台風が去った後 しばらく顔を見せなくて

みんなが心配していた「コリス」が

久しぶりに「玻璃の音*書房」にやって来た


隣りに ちいさなりすの女の子を連れて



あのね、台風がボクにもたらしてくれたの


そうそう、裏庭に水たまりみたいな温泉が現れたの!

いや、そっちじゃなくて……


実はね

彼女 ボクのガールフレンドなんだ

台風の次の日に どこからともなくやってきたんだよ


ボクが歩くと、目の前をちょこちょこ先に行く影があったんだ

まるでボクが「かくれんぼ」の鬼になったみたいに

前を向いたままの「だるまさんがころんだ」みたいに

行くその方向を見ると、ちらっ、ちらっと現れては

ぴゅーっと隠れるのを 何度も繰り返す

そんな人見知りな影がね リス見知りかな


よーくよく見ると、ちいさいりすだった

どこのりすかな 女の子みたいだよ かわいいー

ふわふわの前髪がゆれている


はじめまして


とうとう その子が立ち止まった

え、ボクの名前? ボクの名はね「コリス」だよ

え、「コリス」は種類じゃなく、名前なのかって?

うん、そうなんだ。まあ、最近「ルウ」って名ももらったけどね


君の名は?

え、コリス・ジューン

あたまのてっぺんの赤いリボンがお似合いの

キュートなこりすさんに ボクのハートはズキューン



コリスは恥ずかしそうに、打ち明けるみたいな小声でそう言った


コリスに、りすのガールフレンドができた

恋するこりすはゴキゲン


今までも結構惚れっぽくて、すぐあの子がいいだの

この子が可愛いだの言ってたけど、今度は本気っぽい目をしているな


なめくじちゃんのヘルメット姿に見とれていたのにね

みみずくちゃんとは、木の枝で夜を過ごす程の仲だったのにね


コリスとコリス・ジューンが 

玻璃の音*書房にやって来たある日の午後

ちょうどクウヘンさんと柚子さんは出かけていて ぼくが店番をしていた


「いつものを」ってコリスが言うから

かしこまりましたと言って

ぼくは冷蔵庫からプリンを出してきて お皿につるんと逆さに出した

もちろんてっぺんには さくらんぼ


ノエルがすみっこでふくれっつらして言うんだ

私とキャラがかぶってなぁーい? 赤いリボンがお気に入りとかー

ああ、ノエル、ちょっとさみしいんだな

コリスとよく果実を摘みに行ってるからね


ま、あたたかく見守ってあげようね


並んだ小さなりすたちの あまいあまい幸せ空間が

ままごとみたいにほのぼのとしていて

ぼくはカウンター越しに、邪魔しないように 何度もシャッターを切った





あ、コリス君

さっき、どんぐり、落としましたよ?





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こりす書房 水菜月 @mutsuki-natsumi

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