人工知能は人類の夢であると思います。それと同時に新たな敵になりうる存在であるというのも古くから考えられているものです。
その人工知能と人間の友情と言いますか、絆が描かれているこの作品はとても素晴らしいと思います。
父との絆、周りとの関係、主人公の葛藤……終盤では涙が止まりませんでした。
しかし、それだけではありません。人間ではない。プログラムとしての本能、本質について踏み込んでいるのはとても面白く、同時にとても面白かったです。
私は人工知能や認知科学は専攻では無いのですが、ある程度かじっています。少しではありますが専門の知識を持って読んでいても自然に読む事ができ、楽しむ事が出来ましたし納得する場所、共感する場所がいくつもありました。
最高に面白い作品です!
理系知識に裏打ちされた筆力で描かれる人工知能の描写は、読みやすくも精緻なSFのそれです。(そこまでSF多くは読まないので勝手な物言いしてますが)。しかし、知識さえあれば誰にでも書ける文章、というわけでもないと思います。「結線」という言葉の使い方や、「フォン・ノイマンの呪縛」といった言葉選びのセンスは、この作者様にしか出せないものではないでしょうか?
その一方、平和な会話に隠された僅かな矛盾点からロジカルに突き詰め、隠された真相を徐々に解き明かしていく様は、まさにミステリーのそれだったと思います。
私の貧困な語彙でなんとか表現するなら、「ミステリーとして読むなら、論理という骨格に基づき物語を組み立てるから当然面白い。そして同時に、論理という骨格それ自体がSFとして面白い」という印象を受けました。
そして、真相にぶつかる瞬間生じる切なさは、青春ものとして……もう何を何処まで詰め込んでるんだって話ですな!