【番外編#4/解決編】史上最大の茶番劇

※解決編


ルートの推論魔法が発動する。


「推論魔法は、おれの推論が正しかったときのみ発動する。

推論魔法は発動すると、再現世界を作り出す。

おれたちは再現世界へと移動することができる」

「再現世界とは、魔王の推論を確かめるための世界なのよね」


「ああ。ただ、最終話の再現世界は、これまでとは違う。

まず、再現世界には、おれとミアだけが来ている」

「ほかの連中は置いてきぼりね」


「さらに、今回の再現世界は、ある現象を確かめるためだけに、作った」

「ある現象って、なによ?」

「その現象を確かめることができたとき、謎は解ける」

「どうやったら、その『現象』を確認できるの?」

「まず、ミアには《魔サス》世界にいてもらう。おれは現実世界へと移動する」

「オーケイよ」


「よし。おれはいま、現実世界にいる。ところで──いま、そっちは何時だ?」

「何時って──」


──『魔王の間』 PМ9時00分


「あ、いまはPМ9時00分のようね」

「やっぱり、か。

魔王のおれが、このことにいままで気付かなかったとは、迂闊だった」

「どういうことなのよ、魔王?」

「いまおれがいる現実世界、こちらの時間は──」


──現実世界 PМ9時30分


「PМ9時30分だ」

「そっか! 《魔サス》世界と現実世界では、30分の誤差があるのね!」


「そうだ。そして、ケータイの電波は時空を超える。

つまり、30分の誤差も飛んでしまう」

「トンでも理論を、『常識だろ?』顔でほざいてきたわ!」


「これらを踏まえて、経緯を話そう。

現実世界から、おれはPМ9時30分、Wさんへと電話した。

しかし、『魔王の間』にいたWさんにとっては、PМ9時00分のことだった」

「『現実世界9時30分』=『魔サス世界9時00分』ということだものね」


「そうだ。電話していたとき、いきなりWさんとの通話が切れた。

あのときは電波が途切れただけと思ったが」

「違ったのね。

本当は、あのときにWさんは撲殺された! それも《魔サス》で! 

そのとき、ケータイが壊れてしまったわけね」

「そういうことだ。最終話だけあって時空を超えたトリックだった!」


「というか、魔王、これトリックもヘチマもないわよ! 

いまごろ読者の皆が、『ふざけているのかぁぁ!』と怒っているわよ!」

「いや、これフェアなトリックだから。

怒るとかお門違いだから──と、作者が言っていた」

「そして作者のせいにしたわ!」 


ちなみに。

ルートとミアは、現実世界PМ9時30分から、《魔サス》世界へと移動し、気絶した。

このとき、《魔サス》世界はまだPМ9時00分だった。

そのため、2人が気絶していた本当の時間は、30分ではなく、60分だったのだ。


「ところで魔王、あの『3バカ』はどうして、Wさんを撲殺したのかしら?」

「いい質問だな」

再現世界が崩れだした。

ルートとミアは、ローラたちのいる『魔王の間』へと戻った。


「おい、『3バカ』! お前ら、なぜWさんを撲殺し──あ! 

Wさんが立ち上がっている!」

「そ、そんな! わたくしたちが《魔サス》で撲殺したはずですのに!」

「見やがれ、Wさんの頭部の致命傷──もう癒えていやがる! 

まさか……不死身なのか」


Wさんは《魔サス》キャラたちを見回し、言った。

「担当編集を殺したかったら、核爆弾くらい持ってきなさい」

「「「「「……!!」」」」」

そしてWさんは風のように去った。


「常識を超えた存在、それが担当さんという生物なのね」

ミアのまとめに、みなうなずくのだった。


「──やれやれ。《魔サス》番外編って奴も、これで終いのようだ。

ま、終わっちまうとなると、ちっとは寂しいか」

「あっという間の4話であったな……そして、拙者の出番は少なかったな。

2話も、ゲスト出演した拙者より、死体役のローラ殿のほうが目立っていた」


「最後ですし、皆さんで一言ずつ、《魔サス》の宣伝をしていきませんこと?」

「良いアイディアだな、ローラにしては」


「では、まずはわたくしから。

皆さん、《魔王サスペンス劇場》本編では、わたくしが大活躍しますわ。

じつはわたくしこそが、《魔王サスペンス劇場》の真の主役──あぐっ」

「なぜ、いまローラがバタンと倒れたのか。

それはミアの正拳突きが、ローラの鳩尾に入ったから。

次、グアンいってみよう」


「真の漢は黙して語らず、だ」

「こいつ、使えなかった! サキラ、上手いこと宣伝してくれ!」


「《魔サス》は買わなくていいからよ、オレが主役のスピンオフ《サキラ姉さん、借金の泥沼を平泳ぎする》を購入するんだぜ」

「なに、勝手にスピンオフ作っているんだ! 

しかも、なんて最低なタイトル! 

ミア、こうなったらヒロインの実力を見せてやれ!」


「ねぇ、魔王。あたしがヒロインで良かったのかしら? 

このラノベ戦国時代を戦い抜くのに、はたしてあたしがヒロインで力不足でなかったのかしら? 

あたし、もう自分が信じられない!」


「なんで、ここにきてヒロイン、自信喪失!? 

こ、こうなったら、おれが上手くまとめるしかない。

おれが……おれの双肩にすべてがかかっているのか? 

おれがここで上手く宣伝できなかったら、すべてが無駄になるのか? 

お、おれは……オェェェェ」


「「「「緊張のあまり、主人公が吐いたぁぁぁぁ!」」」」

「ま、まて、大丈夫。おれはまだ戦え、オェェェェ!」


「あたしたち、このままじゃ、まともに宣伝できずに終わってしまうわ! 

誰か、誰か助けてぇぇぇ!」


みんな、俺を呼んだかい?


「「「「救世主・地の文がきたぁぁ!」」」」


《魔王サスペンス劇場 ~土けむりダンジョン、美人勇者殺し》とは、『誰が女勇者を殺したのか?』が本筋の、まさにサスペンスなストーリーだ。

だが、それだけじゃない。

殺された女勇者とは何者だったのか? 

その謎のベールを、みんなで1枚ずつ剥がしていく物語でもある。


ギャグ満載ながらも、最後はあたたかな読後感を残す、それが《魔王サスペンス劇場 ~土けむりダンジョン、美人勇者殺し》だ。

みんな、《魔王サスペンス劇場 ~土けむりダンジョン、美人勇者殺し》をよろしく頼むぜ。


こんなもんでいいのか?


「「「「ありがとう、地の文!」」」」


「……えーと。もう、宣伝は終わったのか?」

「ここぞというときで、ヘタレになるのね、魔王」

「そっちのほうが、愛嬌があるだろ!」

「開き直ったわ!」

「ところで、ここに落ちているのは──」


ルートは、床に落ちていた《魔王サスペンス劇場》(撲殺の凶器に使われたもの)を拾い上げた。

「実は、おれはまだ《魔サス》の表紙を見てないんだ」


「あたしも見てないわよ、魔王」

「お待ちなさい。わたくしも見ていませんわ」

「拙者も見ていない」

「オレも見てねぇな」


「なんで、撲殺の凶器に使っておいて、表紙は見てないんだ!」

「さすが『3バカ』ね」


「まあ、いいや。最後に、みんなで見よう。

きっと表紙には、おれたちが勢ぞろいしているはずだ。

だって、《魔王サスペンス劇場》は、おれたちが活躍する、おれたちのための小説なんだからな」


ルート、ミア、ローラ、グアン、サキラは《魔王サスペンス劇場》の表紙を見た。

そして一斉に叫んだ。


「「「「「だれだ、この女勇者はぁぁぁ!?」」」」」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王サスペンス劇場 土けむりダンジョン、美人勇者殺し/著 丹羽春信 角川スニーカー文庫 @sneaker

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ