【番外編#4/問題編】史上最大の茶番劇

※この小説は「魔王サスペンス劇場」Twitterアカウント(@mss_20160401)で3月28日(月)21時に公開された短編小説を加筆・修正したものです。


──スニーカー文庫編集部(?) キッカリPМ9時00分


「ハッハッハッ! 俺様再臨!」


「これは4月1日にスニーカー文庫から発売される《魔王サスペンス劇場》の、Twitter出張版を加筆・修正したものよ。

至極どうでもいい事件を、《魔サス》のキャラたちが解き明かしちゃうわよ!」


「さて、最終話ということで、今夜は超・特別企画! 

『魔王の間』を飛び出して、スニーカー文庫さんの編集部に遊びにきたわよ!」

「なんだって!」

「これも、あたしたち《魔サス》の担当Wさんのご好意よ!」

「ありがとう、Wさん!」


「しかも、《魔サス》の主要登場人物が、勢ぞろいよ!」

「なんだって! ……いや、いなくね? おれとミア以外、見当たらないんだけど」

「本当ね。グアンも、ローラも、サキラも、元兵庫県議のピー被告もいないわ」

「ピー被告がいてたまるか!」


「まあ、いいわ。見なさい、魔王! ここが、かの有名なスニー──」


『本日もA○Cマートにお越しいただき、ありがとうございます!』


「「……」」


「あの、ミア。いま、A○Cマートさんの店内アナウンスがあったんだが……」

「しまったわ! スニーカー間違いで、A○Cマートさんに来てしまったわ!」

「なんでだぁぁぁぁ!」



──『魔王の間』 PМ9時00分ちょっとすぎ


「殺してしまいましたわぁぁぁぁ!」

「ドリルちゃん、うるせぇな。オメーの罪を世界中に公表するつもりか」


「『オメーの』というか、わたくしたちの罪ですから! 

なに、さりげなく、わたくしだけの罪にしようとしているのですか! 

それと、わたくしのツインテールをドリル呼ばわりしないでいただきたい。

クロワッサンですので!」


「ここに魔王がいてくれれば、『ドリルはダメでクロワッサンはいいんかい!』とツッコんでくれたのであろうな」

「おいモブキャラ、余計なこと言っているんじゃねぇ」


「ここに魔王がいてくれれば、『グアンはモブキャラじゃなくて、主要キャラだ! たしかに影が薄いけども!』とツッコんでくれたのであろうな」

「そんなことより、どうしますの! 

わたくしたち、殺してしまったのですわよ!」


「だな、ドリルちゃん、殺しちまった──○○の○○を!」

「伏せ字、やめてください! 

いらぬ疑いを巻き起こしますから! 

炎上騒ぎに発展してしまいますから!」


「じゃ、ずばり言うぜ。《魔サス》担当のWさんを!」

「しかも、凶器が《魔サス》の文庫本とは!」


「んじゃ、今回の事件は『《魔サス》で撲殺事件──単独犯ローラの告白』とするかね」

「『単独犯ローラの告白』とは、なんですか! 

タイトルになんて危険物を混ぜ込んでいますの!」


「サキラ殿、ローラ殿に罪を着せるわけにはいかんぞ。

これは拙者たち全員の罪だ。

そして、なんとしてもこの事件は隠滅せねばならない。

この事件が明るみに出れば、《魔王サスペンス劇場》の発売が危ぶまれる」


「モブキャラ、まずは《魔サス》よりオレたちの身を案じたほうがいい。

そろそろ魔王さんが帰ってくるはずだ。

奴は、変なところで正義感を発揮する性格。

オレたちの犯行を知れば、自首を勧めてくるぜ」


「魔王は、《魔サス》の良心ですからね。魔王のくせに生意気ですわ!」

「……それは拙者たち勇者がゲスすぎるからなような気がするぞ」

「魔王のせいで、わたくし、18歳にして前科者にされてしまいますわ!」


「ところで──担当ちゃんの傍に、スマホが落ちているが」

「あら本当ですわね。

そういえば、《魔サス》で撲殺時、Wさんは電話されていたような」

「それで落ちたのか」

「そのさい壊れてしまったようですね。

見てください。スマホのディスプレイに表示された時計が、PМ9時00分で固まっています」

「PМ9時00分とは犯行時刻ではないか! 

スマホを回収しておかねば、犯行時刻を知られてしまうぞ!」


「まあ、まてよ、モブ男」

「モブ男とはなにごとか!」

「これを逆手に取ればいい。

これから魔王さんが帰ってくる。

死後硬直うんぬんから、魔王さんは撲殺時刻をPМ9時前後と読むだろう。

そこにこの壊れたスマホだ。

犯行時刻はPМ9時00分と決定するだろうぜ」


「それが真の犯行時刻なのですから、当然ですわ」

「もし、PМ9時00分のとき、オレたちにアリバイがあったら?」


「ま、まさか、サキラさん! それは、噂に名高いアリバイ・トリックですわね! 良いですわ、乗りましょう! 

しかし、わたくし、皆さんと群れるつもりはありません。

アリバイ・トリックは各自でやるということでどうですか?」


「なるほど。魔王にアリバイ・トリックを見破られた者が、W殿・撲殺の罪を背負うというわけだな」

「もとより、そのつもりだぜ。じゃ、ひとまず解散するか。

せいぜい、魔王さんに暴かれねぇ立派なアリバイを、2人とも用意することだな」



──角川第3ビルの外  PМ9時30分ちょっと前


「担当Wさんが留守のせいで、スニーカー文庫さんの編集部どころか、角川第3ビルにも入れなかったわ!」

「担当Wさんに抗議の電話をする! 

おれは相手が担当さんだからって、遠慮はしない! 

ガツンと言ってやる!」

「そうよ、魔王、ガツンといきなさい!」


「いま、呼び出し中だ。

あ、出た──お疲れ様です!《魔サス》の魔王ルートです! いつもお世話になっております!」

「魔王、あとで『ガツン』の定義について話し合ったほうが良そうね」


「あのう、おれたち角川第3ビルに到着したのですが、Wさまはいまどちらに? あ、『魔王の間』に? あれ」

「どうしたの、魔王?」


「通話が途中で切れた。

仕方ないな。《魔サス》世界と現実世界とのあいだでは、電波が入りづらいから」

「え、《魔サス》世界と現実世界って、明確に区別されていたの? 

それだと、そもそも電波が入るのがおかしいのだけど!」


「じつはな、ケータイの電波は、時空を飛び越えることができるんだ」

「なにそのトンでも設定は!」


「ミア、《魔サス》世界へ帰るぞ」

ルートは移動魔法を発動した。


移動魔法とは、《魔サス》世界と現実世界のあいだを移動するためのものだ。


『そんな魔法、初耳だ! ご都合主義な後付けにも程がある!』と、いまツッコミを入れられた読者の方──あなた、心が狭いのとちゃいますか! 

と、ミアが言っていました。


「ちょっと、地の文! なに、あたしに暴言の責任をなすりつけているのよ!」

「さて。《魔サス》世界と現実世界の移動には、負荷がかかる。

そのため移動したあと、おれたちは一定時間、気絶してしまうのだった」

「そして、最終回も説明調は健在ね、魔王!」


「ちなみに。おれとミアは《魔サス》世界の『魔王の間』──の隣にある楽屋に戻るのだ」

「あんたの魔王ダンジョン、ついに撮影スタジオみたいになっているわよ!」


かくして、ルートは移動魔法を使い、ミアとともに《魔サス》世界へと戻った。

そのあと、しばらくのあいだ楽屋で伸びていた。



──『魔王の間』 PМ10時00分


「いま、PМ10時00分か。どうやら、30分ほど気絶していたようだな」

ようやく目覚めたルートとミアは、楽屋を出て『魔王の間』へと入った。


「あ、魔王! 『魔王の間』にWさんが倒れているわ!」

「なんてことだ。《魔サス》で撲殺されている。

死後硬直は、はじまったところのようだ。

つまり、死後1時間くらい。

そして、壊れたスマホが示す時刻、PМ9時00分、これがズバリ死亡時刻だ!」


「……いきなり急テンポになったわね。

あれ、魔王。死亡時刻がPМ9時00分というのは、おかしいわよ。

だって、さっき──」


「そして、容疑者はお前たち3人だ! 

そっちに隠れている、ローラ、グアン、サキラ! 出て来い! 

なに? PМ9時00分に『魔王の間』にはいなかった──すなわち、『不在証明』があるだと? 

ならば、言ってみろ! 真偽を見極めてくれる!」

「急テンポにも程があるわ!」


「では。トップ・バッターは、このわたくしが務めさせていただきますわ! 

わたくしの縦ロールにかけまして、アリバイ・トリックを成功させてみせますわ!」

「このアホ・ツインテ、アリバイ・トリックとかもろにほざいているわよ!」


「まずは、これをご覧なさい。ここに2枚の写真があります」

ローラが提示した2枚の写真。そこには、ローラが写っている。


1枚目の写真では、ローラのツインテールは『直線』だった。

すなわち、縦ロールと化していない。

一方、2枚目の写真では、ローラのツインテールは、ちゃんと縦ロールになっていた。


「この2枚の写真は、わたくしのツインテが『縦ロールになる前』と『縦ロールになった後』ですわ。

そして、わたくしのツインテは、縦ロール化するのに最低でも10分はかかります。その情報を頭に入れた上で、写真の日付/時刻表示を見なさい」


「写真の下に、日付/時刻が記されているのか。で、日付は3月28日か」

「今日ですわ」


「時刻は──1枚目『縦ロールになる前』がPМ8時55分、2枚目『縦ロールになった後』がPМ9時05分。

で、Wさんが撲殺されたのは、PМ9時00分。

これが意味することは──あ、そうか!」

「お分かりですね、魔王」


「2枚の写真から、ローラはPМ8時55分~PМ9時05分の10分間で、ツインテを縦ロール化している。

そして、この縦ロール化には最低10分かかる。

つまり、ローラには、Wさんを撲殺している時間はない!」

「そうです! わたくしには、鉄壁のアリバイがあるのです!」


「まてよ。縦ロール化に、本当に10分もかかるのか?」

「かかりますよ。わたくしの専属美容師をもってしても、10分未満は不可能です」

「真偽を確かめるため、魔王専属の美容師を呼ばせてもらう。

まず、ローラの縦ロールを解いてから、魔王専属の美容師に縦ロール化してもらおう」

「構いませんわ!」


「く、ローラのこの溢れる自信! なにか恐ろしいものを感じる」

「あたしは、魔王専属の美容師がいるという情報に、なにか恐ろしいものを感じるわ」


魔王専属の美容師が試したところ、ローラの縦ロール化には、キッカリ10分を要した。


「バ、バカな……ローラのアリバイは、マジで鉄壁なのか。ローラのくせに」

「最後の最後で、わたくしの偉大なる頭脳が業火を噴いてしまいましたわね」

「バ、バカな……頭脳が業火を噴いたというのか。いや、それどういう状態だ!」


「あら、魔王。これ、なにか変よ」

「なんだって、ミア?」


「写真のローラの、縦ロール。

それと目の前のローラの、縦ロール。

なにか違うわ。

まるで間違い探しのような……あ。いまのローラのほうが、縦ロールが1回転分、多いわ!」

「あ、本当だ。写真のローラの縦ロールは、17回転。

ところが、目の前のローラの縦ロールは、18回転……これは、一体」


そのときルートは1つの推論に行きついた。


「この写真、去年の3月28日に撮ったものか! 

年度が記されていないので、誤魔化されていた!」

「な、なななななな、なぜ、わかってしまいましたの!」

「お前の縦ロール、回転数が=して年齢だな! 

だから、縦ロールが17回転しかない写真のお前は、まだ17歳だ! 

だから去年とわかる! というか、お前の縦ロール、どこの年輪だ!」


「ま、まさか、わたくしのアリバイ・トリックが破られるとは──」

敗れ去ったローラは、バタリと惨めに倒れた。


「おれの次の餌食は、誰だ?」

「拙者が参ろう! 

だが魔王よ、拙者のアリバイ・トリックによって餌食になるのは、魔王、貴様のほうだ!」

「みんな、アリバイ・トリックとか暴露しまくりなのだけど!」


「拙者、じつは今日、ドラゴン洞窟でドラゴンを狩ってきたのだ。

その証拠に、この道具袋には『ドラゴンの角』がある。

手にとって見てみろ、魔王」

「どれ、見せてみろ。なるほど、この『ドラゴンの角』鮮度がいい。

まだ切ったばかりのようだ」

「ドラゴンの角、鮮度とかあるの!」


「だけど、それがどうした? 

ドラゴンを狩って、角を回収。

それから急いで『魔王の間』に来て、Wさんを《魔サス》で撲殺した」

「そういうと思ったぞ、魔王。だが、これを見よ!」

グアンがルートに渡したもの、それは──


「使用ずみの切符だって? 

ここにあるのは無効印か。

駅員さんに頼むと、切符は無効印を押したうえ持ち帰れるというが」

「拙者、ドラゴンを狩ってから、汽車〈ドラゴン号〉で魔王ダンジョンまで来たのだ。

そして、その切符は予約席のもの。

すなわち、何時発の何時着か記載されているはずだ」


「どれ。

『ドラゴン洞窟駅・発PМ6時10分→魔王ダンジョン駅・着PМ9時10分』、だと! 

つまり、犯行のあったPМ9時00分、まだグアンは汽車の中ということか! 

なんということだ!」

「それより、魔王ダンジョン駅とかあることが、なんということ! よ」


ちなみに。ドラゴン洞窟からドラゴン洞窟駅までの移動時間は、3分。

魔王ダンジョン駅から『魔王の間』への移動時間も、3分。


「まてよ。〈ドラゴン号〉が9時10分より早く着いた、ということもありえる。

魔王ダンジョン駅の駅員に電話で聞いてみよう。

呼び出し中。

あ、もしもし、駅員さん? 

そう、魔王だよ。

このまえの合コンのときはどうもね」

「魔王として、あるまじきところに顔を出しているわ!」


「え。〈ドラゴン号〉が到着したのは、9時10分キッカリだって? 

ありがと。

説明調のおれ、通話を切る。

バ、バカな! グアンのアリバイは鉄壁だというのか!」

「それ、毎回やらなきゃ気がすまないの?」

「バ、バカな! 毎回やらなきゃ気がすまないというのか!」

「どうやら、拙者の勝利のようだな、魔王」


「このままでは主人公の魔王が、モブキャラなどに負けてしまうわ! 

頑張るのよ、魔王! あ、そのモブキャラが、涙目で見てきた!」

「ちなみに。

〈ドラゴン号〉の最高速度は時速100キロだ。

ドラゴン洞窟から魔王ダンジョンまでは、直線距離で300キロ。

これはドラゴン洞窟駅から魔王ダンジョン駅までの線路の距離と同じだ。

すなわち、線路は二点のあいだをまっすぐ敷かれている。


結論。

ドラゴン洞窟駅を出発した〈ドラゴン号〉が最高速度で走ると、3時間後に、魔王ダンジョン駅に到着するのだ」


「魔王が、算数の問題みたいなことを言い出したわ!」

「時速・距離・時間の計算式って、はじめに躓くところだよな」


「ところで、どうしてその汽車は、〈ドラゴン号〉という名称なの?」

「人類の作った乗り物では最速で、ドラゴン並みの速さだから。

とはいえ、ドラゴンの最高速度は、時速120キロだけどな」


「グアンは、夕方まで本当にドラゴン洞窟にいたのかしら? 

いまのところ、グアンが夕方までドラゴン洞窟にいたという証拠は、『ドラゴンの角』の鮮度の良さと、使用済の切符だけよ」

「ドラゴン洞窟駅の駅員に、電話で確かめてみよう。

呼び出し中。

あ、駅員さん? 

そう、魔王。

このまえの合コンのときはどうもね」

「なんで駅員さんたちと大の仲良しなの!」


ルートは通話を終えた。

「駅員さんの証言を得た。

PМ6時05分(〈ドラゴン号〉発車の5分前)のとき、たしかにグアンをドラゴン洞窟駅で目撃したそうだ。

グアンは目立つ見た目なので、よく覚えていたようだ」

「目立つとか、モブキャラのくせに生意気よね」


「さらに〈ドラゴン号〉の車掌さんにも聞いてみた。

〈ドラゴン号〉出発後、グアンを車内で見たか、と。

ほら、車掌さんは、改札鋏を片手に車内改札するだろ」

「この《魔サス》世界、自動改札機とかはないのよね。

科学技術のイメージは、西部劇あたりね」


「ちなみに、《魔サス》本編のイメージは、中世ヨーロッパあたり。

だから汽車もないから。今回は単に、俗にいう『時刻表トリック』がやりたくて、汽車とか出しただけだから」

「主人公とヒロインが、なにか、一生懸命に説明していますわ!」


「うるさいわね、ローラ。あんた、いつのまに復活していたのよ。

で、魔王、車掌さんはグアンを見たの?」

「それが見てないというんだ。

これはどういうことだ? 

PМ6時05分、グアンはドラゴン洞窟駅で目撃されている。

ところが、〈ドラゴン号〉内では、グアンは車掌さんに目撃されていない」


「だけど、〈ドラゴン号〉は、人類の乗り物で最速よね。

〈ドラゴン号〉に乗らないと、魔王ダンジョン駅の到着は、PМ9時10分よりも遅くなってしまうわ」

「最速……か」


そのとき、ルートは1つの推論に行きついた。


「グアン! お前、汽車〈ドラゴン号〉には乗らなかったな!」

「では、どうやって拙者は、魔王ダンジョンに来たというのだ?」

「〈ドラゴン号〉より速い乗り物を使ったんだよ」

「魔王、その〈ドラゴン号〉より速い乗り物とはなんなの?」


「ドラゴンだ!」

「ぐはぁっ!」

「即効で、グアンが倒れたわ! というか、打たれ弱いにも程があるのだけど!」


「グアンは〈ドラゴン号〉の切符を買って、ドラゴン洞窟の駅にも行った。

だけど気が変わって、洞窟に戻った。

そこで倒したばかりのドラゴンを脅し、そいつに乗ってきた」

「たしかにドラゴンは、〈ドラゴン号〉よりも速いわね」


「ドラゴンの最高速度は、時速120キロだ。

300キロを移動するのにかかる時間は、2時間30分。

PM6時10分に出発しても、PМ8時40分には魔王ダンジョンに到着できる」


「犯行は可能ね! けど、これってグアンのアリバイ・トリックといえるの?」

「たしかに。

ドラゴンに乗ってきたのは、偶然だろうからな。

グアンがやったことは、切符の細工だな。

自前の改札鋏で穴を開け、無効印も偽造した。そうだろ、グアン!」

敗れ去ったグアンは、ばたりと惨めに倒れた。


「最後は、オレが相手のようだな、魔王さん。

だが、オレのアリバイ・トリックは難攻不落だぜ。オメーさんに破れるかな?」

「またアリバイ・トリックって……もう、あたしツッコミを入れる気力もないわ」


「ふっ、サキラ。

お前がどんなアリバイ・トリックを仕掛けようとも、最後に勝つのはおれだ。

《魔サス》の主人公は、このおれなんだからな!」

「そうよ! 魔王はやるときはやる主人公なのよ! 

あたしは信じているわ!」

「なら、繰り出させてもらうぜ。

オレの最強にして最凶のアリバイ・トリックを」

「来い!」


「PМ9時00分。犯行のあった、ちょうどそのとき──」


サキラは艶然と微笑んだ。


「オレは、魔王さんとエッチなことをしていた」


「………………………………………………………………………………………………………言われてみれば、エッチなことをしていたな!」


「まおぉぉぉう! 

なに主人公が、嘘のアリバイ証人になりさがっているのよ!」

「うるさい! 

魔王はそれくらいするんだ!

色っぽい女勇者と、そういうことをするもんなんだ!」


「くっ、なんということなの! 

サキラは、魔王の思考を読みきっていたのね! 

すなわち、『エロ話ではメチャクチャ盛って、見栄を張りたがる』という、男子高校生のような、魔王の思考を!」


「そうか。犯行のあった時間、サキラはおれと『あんなことやこんなこと』をしていたのか。そりゃあ、犯行は不可能だ。サキラのアリバイは、母なる大地のように揺るがない」


「こ、このままでは、魔王が……主人公が敗れてしまうわ。

ヒロインのあたしが、なんとかしないと。でも、どうすれば──」

「黒髪ちゃん。オメーじゃ、なにもできねぇ。

オメーのような無力なヒロインじゃな」


「あたしは、やるときはやるヒロインよ! 

魔王、受け取りなさい! 

これがヒロインの、主人公への愛の力よ!」


ミアはルートのほうへと背伸びした。


「まさか、黒髪ちゃん、魔王さんに──!」


そして、ミアはルートの頬にキスしたのだった。


「……なんだ、頬っぺたかよ。

国によっちゃ、頬っぺたに接吻なんて挨拶がわりだぜ。

ったく、ガキじゃあるまいし」


ルートは赤面しながら、そっぽを向いた。

そのそばで、ミアも耳まで真っ赤にしてうつむいている。


「……そういや、2人ともまだお子様だったな」

「えーと、ミア、そのう、ありがとう。いまので正気に戻った。助かった」

「あたしは、ヒロインとして当然のことをしたまでよ」

「お前が、おれのヒロインでいてくれて良かった」

「魔王……」

ルートとミア、見つめあう2人。


「なんですの! 

魔王とミアさんのほうから、甘酸っぱい香りがしてきますわ! 

はっ、これは青春の香り! 

塩をまいておきましょう!」

「ドリルちゃん、オメーも魔王さんと黒髪ちゃんを見習ったらどうなんだ?」

「わたくしの青春の思い出、それはバスタブ一杯に入ったお札ですね」

「ドリルちゃん、オメーという奴は……オレと結婚しないか?」

「お金目当て!」


ルートはサキラを指差した。


「サキラ! お前のアリバイは嘘っぱちだ! 

PМ9時00分、おれはお前とエッチなことなんかしていなかった!」

「どうやら、今回は、オレの負けのようだ。

魔王さん、いいヒロインを持ったな」


敗れ去ったサキラは──あくびしたのだった。


「ちょっとお待ちなさい! おかしいではありませんか! 

わたくしとグアンさんが惨めに倒れているのに、

なぜサキラさんだけあくびなのですか!」

「そりゃあ、オレが作者のお気に入りだからだろ」

「納得いきませんわぁぁ!」


「これで、お前たち全員のアリバイ・トリックは看破された。

このおれの手によって。さ、すべてを白状するんだ。

お前たちは、PМ9時00分にWさんを《魔サス》で撲殺した──」


「それなのだけど、魔王。あたし、思い出したのよね。

《魔サス》世界へと移動する前に、魔王、Wさんに電話しているわよね? 

あれはPМ9時30分のことだったわよ。

つまり、WさんはPМ9時30分の時点では、まだ生きていたのよ!」


「ええ! お前、どうしてそれをもっと早く言わないんだよ! 

PМ9時00分のアリバイとか、意味ないじゃいなか! 

あれ。でも、それならどうして、ローラ/グアン/サキラの『3バカ』は、PМ9時00分のアリバイ・トリックなんか用意したんだ?」

「誰が『3バカ』ですか!」


「ちなみに、PМ9時30分に『魔王の間』には誰もいなかったのか?」

「拙者たちはみな、アリバイ・トリックを作るため奔走していた。

ゆえに、PМ9時30分に『魔王の間』には誰もいなかっただろうな」


「いずれにせよ、PМ9時30分にWさんが生きていたのは確かね」

「お待ちなさい、ミアさん。

WさんはPМ9時00分には、たしかに息絶えていましたわ」

「死んだ演技だったのかもしれないわよ? 

ほら、脇の下にゴムボールを挟んで動脈を圧迫すると、脈が止まるじゃない。

ああいう感じで」


「ご安心ください。わたくしもそのような可能性は考えました。

そこであることをして、生体反応がないと確かめたのです。

Wさんの眼に──」

「なるほど、光を当てたのね。

生きていたら、反応せざるをえないものね」


「いえ、デコピンをしました」

「なにやっているの、この縦ロールは!」

「眼にデコピンしたのにWさんは反応しませんでした! 

ゆえにWさんは死んでいましたわ!」


「おい、魔王さん。

9時30分に電話したとき、出たのは本当にWさんだったんだろうな? 

Wさんの声色を真似た誰かではなく?」


「あれはWさんだった。

世界広しといえど、文節に『ピタゴ○スイッチ!』を挟んで話す人は、Wさんしかいない!」

「Wさん、そんな話しかたしないわよ!」


「死者が出た電話か。面白いじゃねぇか。

しかし、この謎を解くのは、魔王さんに任せるとするか。

オメーさんが主人公なんだからな」

「魔王、貴殿ならばこの謎を解き明かしてくれるだろう……いや、まて! これは秘密結社の陰謀に違いない!」

「モブ男の奴、ようやくテメーの『秘密結社だい!』設定を思いだしたようだぜ。

しかし、ちと遅かったな。もう終いの時間だ」

「ぐおぁぁ! 拙者が秘密結社のことを忘れていたことが、そもそも秘密結社の陰──」

「わたくしの縦ロールの名にかけて、魔王、この謎を解き明かしていただきましょうか」

「魔王。いまこそ、主人公の真の力を見せるときよ」


ルートは、ミア、ローラ、グアン、サキラの視線を一心に浴びた。

「これは、発想を根本から変えなくちゃ解けない謎だ」


そして、ルートはひとつの推論に行きついた。


ルートの背景が暗転した。


「読者の皆さん、《魔サス》ツイッター出張版、最後までご覧いただき、ありがとうございました。

そして──最後の謎、わかっただろうか? 

最後の謎は、ただ1つ。

Wさんが死んだのは、何時何分なのか? 

ヒントは、ケータイの電波は時空を越える」

「あのトンでも理論、まさかのヒントだったの!」

「魔王ルートでした」


※解決編へ続く

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