【番外編#3/解決編】豚の貯金箱は舞い降りた

※解決編


ルートの推論によって、推論魔法が発動された。

「推論魔法とは、おれが推論したことが正しかったときのみ発動する。

そして再現世界を作り出す。おれたちは再現世界に移動することができる」


「再現世界とはなんなの、魔王?」

「おれの推論を確認するための世界だ。

そして、再現されるのは、おれが推論した範囲内のみだ。

今回は、7万円分の紙幣が消滅したときのことだな」


「いわば限定的なタイム・トラベルなのね」

「そう。ただし再現世界に干渉することはできない。

おれたちは傍観者にすぎない──ふぅ、説明パートがテンポ良く済んだな」

「連携プレイの勝利ね。

ちなみに、再現世界での人物は、(名前+再)で表現するわ」


ルートとミアは、再現世界の『魔王の間』へと移動した。

サキラ(再)が、ルート(再)とミア(再)の共犯を見破っているところだ。

サキラ(再)は、ルートとミアへ背を向けている位置にいる。


「さて、まず先に言っておくと、これは全てサキラの企みだった」

「企みとは、どういうことよ、魔王?」


「サキラはわざと、くだんの7万円をおれに盗ませたんだ。

そのために、サキラは豚の貯金箱を持って来て、おれの目につくところに置いた。

そして、酔いつぶれたフリをした」

「え? でも、あのとき、サキラは心底、酔いつぶれていたわよ」


「役作りに徹するあまり、本当に酔いつぶれてしまっていたんだ。

サキラ、なんと狡猾な女勇者だろうか」

「それ、ただのマヌケよ!」


「これで豚の貯金箱だった理由がわかるだろう。あれは、おれへの餌だったんだ」

「餌なら、わざわざ貯金箱ではなくて、財布で良かったのではないかしら? 

しかも、なぜ豚なの?」


「ミア! なんて考えの浅い小娘だ! 

ただの財布より、豚の貯金箱のほうが、百倍は餌として効果的だろうが! 

というか、豚の貯金箱を見たら『割りたい!』という熱いパッションが湧き上がるだろうが!」

「湧き上がんないわよ、そんなガキっぽいパッション!」


「とにかく、すべてはサキラの企みだった。

奴ははなから貯金箱の中身を、おれに盗ませるつもりだった。

ただ、おれがミアと組んで共犯トリックを仕掛けてくるとは、想定外だったようだけどな」


「あっさりと見破られたけれどね」

「……い、いや、サキラもけっこう苦戦していただろ!」


トリックを見破られたルート(再)が、渋々と財布を取り出した。

その財布を、サキラ(再)が奪い、ルート(再)へと背を向けた。

するとサキラ(再)は、ルートとミアのほうへ身体を向けることになる。


「ここでサキラは7万円分の紙幣を消してしまう」

「でも、どうやって、あの一瞬で消してしまったの?」

「すべてサキラの計画だった。

ということは、サキラはあの7万円分の紙幣に、事前に細工を施していたことになる。そして──」


ルートは、サキラの両手を指差した。

「見ろ。サキラが指に嵌めている指輪を。

右手の指輪は、硬質な岩石でできている。

左手の指輪は、鋼鉄片でできている。だから──」


サキラ(再)は、左手で財布を持っている。

すると、サキラは右手にはめている指輪(硬質な岩石)を、左手にはめている指輪(白鉄鉱)に打ち当てた。

とたん、火花が散った。


「あの2つの指輪、火打石式だったのね!」

「といっても、常人じゃ、指に嵌めている指輪をぶつけただけで、火花が散るか怪しいものだ。

だが、サキラはパンチで床を陥没できるパワーがあるからな」


「火花を散らすための力を加えるのも、容易というわけね」

「あの火花が、おれが見た一度目の閃光の正体だ」

サキラが発生させた火花は、財布のなかの紙幣へと落ちた。


「そして、あの紙幣は、ニセの紙幣。

それも、ただのニセ紙幣じゃない。

ニトロセルロース、すなわち」


火花が降りかかった瞬間、7万円分の紙幣は、一瞬で燃え尽きた。

次の瞬間には、紙幣はすべて消滅していた。


だった。

瞬時に燃え尽きるから、他のところへ燃え移る心配もない。

いまのが、二度目の閃光だ」

「けれど魔王、火花が散ったり、フラッシュ・ペーパーが燃えたり──少しは火薬臭がするものよね?」


「その火薬臭を隠すため、サキラはおれたちに酒をかけた。

アルコールの臭いで、おれたちの鼻をバカにするために」

「あとでお風呂に入らないと」


「サキラがやったことは、こういうことだ。

おれに偽物の紙幣を盗ませる。そのうえで、おれが盗んだことを証明。

おれが紙幣を返そうとするとき、肝心の紙幣を消してしまう」

「そして魔王は、自腹を切って、サキラに7万円を支払わざるをえなくなった」


「サキラに7万円を取られた! 今月、厳しいのに!」

「魔王なのに金欠って、どうかと思うわよ。魔王募金でもはじめたらどう?」


再現世界が崩れていった。

元の『魔王の間』に戻ったルートは、がっくりと肩を落とした。


「魔王、そう気を通すことはないわ。さ、一緒にコンビニへ行きましょう」

「ミア、おれのことを励まそうとしてくれるんだな。

コンビニに行って、そうしたら──」

「あたしに、コンビニおでんを奢るのよ」

「って、おれが奢るんかい!」


次回予告---------------------------------------------------------------------------------------------------

「次回予告だ!」

「魔王。いきなり、なに泣いているのよ。

まるで、前著あれは超高率のモチャ子だよ!の売上が『ウゲゲゲゲ』だったときの作者の面じゃない」


「やめてあげて! まだ作者、傷が癒えてないから! 

それより、ミア。ついに《魔サス》出張版も、次回でラストだ。

おれはそれが悲しい」

「魔王、そう気を落とすことはないわ。

なにごとにも終わりがくるものよ。

けれど、いつかまた不死鳥のように復活するはずだわ」


「そう思うか?」

「ええ、見てみなさい。

『ス〇イル0円』だって、このまえ性懲りもなく復活したじゃない」

「そうか。おれたちも『ス〇イル0円』みたいに性懲りもなく復活すればいいんだな。

なんだか心が軽くなった。そうしたら腹も減ってきた」


「予告を終えたら、ハンバーガーでも食べにいきましょう」

「……お前、さっきのコンビニおでんのくだり、まるっきり無視だな」


「それで魔王、最終話はどういう話なの?」

「おれたち《魔サス》のキャラが、なんとスニーカー文庫さんの編集部にお邪魔する! 

そして、殺人事件に巻き込まれるんだ!」


「魔王、最終話だというのに、事件のスケールが1話より劣るようだけど。

大丈夫?」

「いや、お前、なにを聞いていた? 

殺人だからな! お前のプリン消失より、100倍はスケールがデカイだろ!」


「殺人なんて個人の問題でしょ。

けど、あたしのプリン消失は、人類の問題だったのよ!」

「……ツッコミを入れたいところだが、そろそろ本当に終わりみたいだぞ。」


「それじゃ、ハンバーガー店へ行きましょう! そう、モ〇・バーガーへ!」

「あ、『ス〇イル0円』のほうじゃないんだ」

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