バラエティ豊かな非電源ゲームの、簡にして要を得た楽しいレビュー

非電源ゲーム(俗に言うアナログゲーム)について語る面白さが、次第に認知されてきたように思う。
その代表例としては、TRPGリプレイが昔からある。プレイ結果を戯曲形式で整理したこれは、キャラクターの台詞や振る舞いとそれを操るプレイヤーのメタ視点での言動が混在し、笑えて読みやすくも複雑な味わいとベタな王道物語とを同時に楽しめるジャンルだ。
しかし非電源ゲームはTRPGだけではない。ボードゲームやカードゲームは数多存在し、毎年新作が生み出されている。
緑一色『スピタのコピタの!』(新紀元社)は、TRPGのプレイレポート(リプレイに非ず)をメインとしつつ、ボードゲームも時々遊んでいる漫画(※最近の巻は長らく読めていないので、比率が変わっていたらすみません)。中道裕大『放課後さいころ倶楽部』(小学館)は、ボードゲーム好きな女子高生たちを主人公とした漫画で、基本的に毎回一つはボードゲームが新たに登場し、物語に関わっていく(時にはだるまさんがころんだを扱ったり)。前者は遊んでいて実際に起きた珍プレイや実在人物の言動が楽しく描かれ、後者はストーリーと紹介されたゲームとキャラのやり取りとが渾然一体となって伝わってくる。
本作は、それらの作品とはまた別のアプローチで非電源ゲームを紹介していくレビュー集だ。

第一回で紹介したのは、伝染病拡大から世界を救う『パンデミック』。これは先ほどの『放課後さいころ倶楽部』でも取り上げられたことがあるのだが、そちらではストーリーの展開にも重きが置かれている。こちらでは、よりシンプルにこのゲームの魅力を語り興味を惹いているのだ。
第二回以降も、危険なダイヤ採掘で一獲千金を目指すチキンレース『ダイヤモンド』、大暴落を目前とした株式市場で資産確保を目論む『ムガル』など、身近な話から始めつつゲームの紹介へとスムーズに流れていき、友達や家族と都合がつけば遊んでみたいと思わせてくれる。ブロックを積み上げる楽しさ・付属品のダイヤの美しさやコインの重たさなど、五感のイメージに訴える説明も巧みだ。対面で実際に手を動かして遊ぶ非電源ゲームならではのポイントだろう(『髑髏と薔薇』の、各自最大四枚の紙製円盤を重ねていって最後にめくり合うという遊び方の紹介も、紙の感触やその場の熱気が伝わってくるようである)。

ゲームのセレクトにも個性が出ていて、このレビューではブラックユーモアが持ち味の作品がよく紹介される。
自分は健康に気を使いつつパーティを開いては健康に悪い食べ物を客(相手のキャラクター)に食わせまくって先に病死させたり(『心臓発作にならないための10の方法』)、現金の分け前を巡って銃口を突きつけ合ったり(『キャッシュ&ガンズ』)、武装改造した車で殺し合ったり(『カーウォーズ』)、ゲームや物語という虚構でなら楽しめる(虚構でなければ楽しめるはずのない)シチュエーションが、非電源ゲームの界隈にもてんこ盛りだと教えられる。
その一方で、「勝っても負けてもプレイ後感が非常に良いゲーム」と、プレイヤー同士の交渉によって状況を好転させていく栽培と収穫のカードゲーム『ボナンザ』を紹介する文章も魅力的だ。
一人で遊ぶサバイバルものの『ロビンソン漂流記』紹介においてさらりと語られる、『ロビンソン・クルーソー』への批評。火山災害ネタの『ポンペイ』紹介で、パニック映画『ポセイドン・アドベンチャー』を援用しつつ語る、災害ストーリーの二重の楽しみ方。そうした余談も、レビューの味わいを増している。

※「我ら遊戯の駒なり、投げ込まれる者なり」まで読んでのレビューです。

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