ラノベ大衆文芸とでも呼ぶべきか

ちょっと昔(あるいは今も?)、短編小説の中には「人生の一瞬を切り取る」などと形容されるタイプの作品があった。
会話をしたり食事をしたり時々過去を振り返ったりする程度、大きな事件は特に起こらない。主人公と作者の立場が近い場合には身辺報告あるいはエッセイにも似た雰囲気を醸し出す、文章によるスケッチのような作品。大衆文芸雑誌にそっと掲載され、数が溜まると短編集になる。
単なる雑誌の埋め草――というわけではない。瞬間的な光景を微分で捉えるような短編は、積分で楽しむような起伏に富んだ波乱万丈の長編とは違う魅力がある。
この作品を読んでいて、そうした作品群を思い出した。

無職オタクが引きこもる家に「あなたは呪われているわ」と上がり込んでくる可愛い女の子。上述の作品よりは色々盛っているが、普通のラノベと比べてみれば刺激は控えめだ。しかしそれが悪いわけではない。
小気味よく連ねる文章のテンポがいい。適切な言葉を適切に並べ、すいすいと読ませる。気がつけば最後まで、心地よく読み終わっている。後味の良い佳品。