第10話 がんばれホンダ・アクティ
午後一時頃、少女の地元の町田市から富士山麓の御殿場市まで国道246号線を走ってきた軽ワンボックスは、右に折れて国道138号線に入る。
富士の裾野に入り、空気の味までもが変わったように思える。町田からも遠くに頂が見える富士山は、すぐ近くにあって麓しか見えない。
ドライブに来たな、と思わせる風景の中、少女は座椅子を倒し、寝っ転がったままテーブルから畳の上に置いたPCをいじっていた。きっと家に居る時も昼ごはんの後はこんな感じなんだろう。
富士駐屯地が近く、時々自衛隊の四輪駆動車や装甲車が通る。俺が指差してほら戦車!と言うと、少女は上半身を少し起こし、すれ違い走り去る指揮通信車を見て、すぐに視線をPCの画面に戻す。
見通しのいい直線道路、向こうから奇妙な車が走ってくるのが見えた。車体の全面にアニメキャラが描かれた車。
「あれ、痛車って奴かな?」
少女がガバっと起き上がる、閉じたままの横窓のカーテンを引き開け、すれ違い走り去る痛車を目を見開いて眺めていた。
「近いのかな?会場、もうすぐかな?」
俺は脳内で地図を組み立てながら答えた。
「そこそこ近いな」
少女はすれ違った痛車が走り去った方向を見て言う。
「反対方向とかじゃないよね?」
「間違いようが無い、PCの地図とか携帯のGPSデータ見てみな」
言う通り携帯を取り出した少女は、表示されている地図を見ている。
「なんであの痛車、あっちに走ってたの?」
「さぁな、フェスと関係無いのか、先に会場に着いて電車で来たダチでも迎えに行ったのかもしれない」
少女は横窓のカーテンを全部開けた。スモークガラス越しに陽の光が車内に入る。回りを見回しながら言った。
「もしかしたら、この車はみんなアニソンフェスに向かってるのかもしれないわね!」
「そうかもな」
よく混む138号線にしては渋滞と順調の中間くらいの流れ。前の車はコンビニ配送のトラックで、後ろの車は自衛隊の業務用ライトバン。
俺の乗っている軽ワンボックスは回りの目にどう映るのかな?と思った。きっと牛乳を配達しに来たように見えるだろう。
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