未来みたいな世界と過去みたいな世界? ふたつの世界はどこで結びつくのか


 この物語は、ふたつの異なる世界が交互に描かれています。

 片方は、掟に支配され、文明を拒絶した世界。なにか息のつまる「村」です。すごく小さなコミュニティーという印象です。
 こちらの主役はユウマという少年。自分よりすこし年上のチィ姉ちゃんに仄かな憧れを抱いています。

 もうひとつは「街」です。まるで近未来のような世界。でも、科学技術が進歩している印象はまるでなく、高齢化ばかりが進んでいます。国家が崩壊していて治安が悪く、なんとも息苦しい。
 こちらの世界の主役は、警察局につとめる女性、一ノ瀬。男勝りです。


 「村」に住むユウマは、好奇心から、チィ姉ちゃんたちとともに村の秘密に触れてしまい、そこから少しずつ何かが狂い始めます。


 一方、「街」の警察局に勤める一ノ瀬は、保護された身元不明の美少女を事情聴取するうち、相棒の佐伯のおかしな行動に突き当たります。


 最初は無関係に見えた、ふたつの世界のふたつの事件。これが回を追うごとに、徐々に関連性を持ちはじめ……。


 冒頭から始まる、もやもやした感覚。何かがすこしずつ傾き、崩れていく予感。そして始まる崩壊のとき。

 ディストピアな終末を描いた黙示録的世界を本作に期待した人は、ちょっと肩透かしをくらうかもしれません。

 本作の主題がなんであるかはちょっと難しいのですが、でも、読んでいて、先に進めば進むほど、ぼくは登場人物の「家族」というものを強く意識しました。

 彼らに与えられている家族はどれも作られた物で、自然に生まれたものではない。

 だが、そんな中で彼らは、自分が一緒にいたいと思う人を見つけます。

 住んでいる世界を囲む高い高い壁の下に掘られた、深い深い穴を抜けて、自分が本当に一緒に居たいと思う人を見つける。そんな物語でした。




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