第3話 どういう方向に話をもっていけばいいのか
机の上で寝ているかに見えた山上会長はむくりと頭を上げて儚井美智子に向かってしゃべりかけた。
「一昨日の全人代のピア生中継面白かったよね」
儚井は黙ったまま山上の顔を見つめた。
「・・・。えっと、今、時間が何日間かワープしませんでした?まあ、いいですけど」
「いや、さあ、全人代の生中継なんて世界的にもほとんど前例がないらしいよ」
山上は興奮してしゃべり続ける。
全人代とは全国人民代表大会の略で、よく分からないが中国で最も重要なイベントだ。イベントというか中国の最高意思決定機関で、日本でいう国会みたいなもんらしい。でも、日本の国会と違って滅多に開かれないから、より有難いということだ。今回の全人代は特に習近平体制になってから初めてのもので、今後、5年間の中国の基本方針が決まる歴史的に重要なものになると言われている。
「ホント、よくオッケーが出ましたよね」
「ピアピアは日本を代表する良心的なメディアだからね」
昨年の夏、ピアピア動画は反日映画特集というのをやったのだ。中国や韓国では反日映画という日本と日本人の酷さを伝えて反日感情を煽るための映画を国の政策として作っていると言われているが、本当にそうなのか、実際はどんなものなのか、代表的な作品を取り寄せて見てみようという企画だ。
その中のひとつに「南京!南京!南京!」という南京大虐殺をテーマにして、日本では右翼の反対運動のために上映できなかった映画があった。それをピアピアで放映した時に中国で大きく報道されたらしい。曰く、日本にもピアピアという真実を伝える良心的なネットメディアがある、ということらしい。
というわけでピアピアの中国での評価はすごく上がって、その後も9月に「抗日戦争勝利70周年記念」を祝う軍事パレードをやはり日本で独占生中継をさせてもらったり、中国の文化も日本に紹介して欲しいということで、今年の2月には中国版の紅白歌合戦である「春節聯歓晩会」をやはり生中継した。
「中国版の紅白歌合戦はやってよかったよね。最初はそんなの誰も日本人は見たがらないよ、とか思ったけど。あれは偏見だった」
「中国版のなんとかというと、日本人はニセモノでしょぼいものじゃないかって先入観を持っちゃいますけど、実際は金のかかり方が半端ないですから、向こうの方がもはや本物感ありますよね」
春節聯歓晩会は総制作費120億円ぐらいらしく、とにかく演出が凄い。最初は好奇心で覗いただけだろうピアピアユーザにも大評判だったのだ。
「すっかり中国政府のプロパガンダの片棒をかついでいると思われてますよ」
「いいじゃん。それも含めて、そのまま報道することに意味があるんだから」
「そこはそうだと思いますけど」
「いまさら中国の手先呼ばわりされてもいっしょだよ。これまでだって、ネトウヨといわれたり、売国奴と呼ばれたり、自民党の犬とか民主党寄りだとか、散々、ピアピアは言われてきたもん」
「まあ、ピアピアに真面目な政治的なイデオロギーがあるとはだれも思ってないでしょうね」
「いや、意外と思っているひともいるんじゃないかな。世の中には」
山上は天を仰いでため息をついてみせた。
うちの社長がわざわざネットに炎上ネタを書き込むわけがないハートフル物語 かわんご @kawango
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