第2話 小説として投稿した責任を取る
「ああああああああ」
株式会社ピアンゴの山上会長はパソコンの前で頭をかきむしっていた。ピアンゴとは日本有数の動画投稿サイトであるピアピア動画の運営元だ。
「どうしたんですか?」
尋ねたのは山上会長のスタッフの儚井美智子。元々はネットメディアのライターで、時々、会長のゴーストライターもやっている。
「儚井さんさあ、昨日、カクヨムに投稿した小説あるじゃん。ホラーになってないし、残酷表現も暴力表現も性表現もないじゃないかとクレームが来ているんだよね。」
「社員にとっては十分にホラー小説にはなっていると思いますけど、確かに残虐表現とかはないですね」
「いやカクヨムの機能を試したくて、つい、残虐表現、暴力表現、性表現あり、で設定ボタンを押しちゃったんだよね。ちょっと反省しててさあ、やっぱセルフレーティングって真面目に使って欲しい機能じゃん。変な前例を作っちゃいけないと思うんだよね」
「いい心かげですね。ちゃんと責任をとってアダルト残虐暴力異世界ホラー小説に仕上げてください」
「儚井さん、君が続きを書いてくれない?ちょっと、今、本当に仕事が忙しくてさ」
「仕事が忙しいという自覚があるなら、なんで、あんなの書いてカクヨムに投稿なんかしないでください。
だいたい、あの続きを本人以外のだれも書けないですよ。もっと当たり障りもなくて内容もなくていい”会長からのご挨拶”とかだったらともかく」
きっぱりと拒絶されて山上会長はうなだれた。
「はあ」
「自業自得ですね。どこまで書けているんですか」
儚井は山上会長の机の上のiMacの画面を見た。カクヨムの投稿ページが開かれていて冒頭の数行が書かれていた。
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第2話 小説として投稿した責任を取る
「ああああああああ」
株式会社ピアンゴの山上会長はパソコンの前で頭をかきむしっていた。
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「タイトルが出オチですね。それにこの「ああああああああ」についている傍点ってなんなんですか。カッコ記号の上にまでふってありますけど」
「それはカクヨム記法といって、ルビとか傍点とかをつけられる機能なんだよ。さすが小説サイトだよね。
「漢と書いて、おとこ、と読ませたいわけですね。まあ、とにかく、書くならとっとと書いて、仕事にもどってください」
山上会長は不満そうに頬をふくらませた。
「ああああああああ。なんかハードルが上がってるんだよね。だってカクヨミ、あらためてサーフィンしてたらさ、結構、面白いのいっぱいあんだよ。異世界取材記とか、ラノベ作家が異世界ものを勉強しろと編集者に言われて本当に異世界に取材にいく話だし、コメントくれた十文字さんとかいう人は本物の作家で、なんだか、性表現あり、でちゃんとエロく書いているし」
「じゃあ、仕事をしてください。3件ほど取材の原稿チェックの依頼が来ています」
「原稿チェック・・・。それもいやだ」
「じゃあ、取材なんか受けなきゃいいじゃないですか。忙しいから断りましょうと私は言いましたけど」
「最近の取材ってさー、なんなんだろうね。原稿チェックしてくださいとかいって、録音テープの書き起こし原稿をほとんどそのまま送ってきたりするじゃん。俺が喋った音声をそのまま文字にされて、その校正まで俺がやって、そのまんま全文ネットにあがったりするけど、これって取材なの?ほとんど俺が書いた記事じゃん」
「文字に書き起こすのすら音声認識ソフトがやってますからね。ふつうはソフトの書き起こした文章に人間が手をいれて変なところを直すんですけど、ちゃんとやってないメディアもありますね」
「そうだよ!取材の原稿チェックって本来は書いてあることの事実関係に間違いがないか、こちらじゃないと分からないことを修正するためにやるもんじゃん。音声認識ソフトの漢字の誤変換までなんでインタビューされた本人が直さなきゃいけないんだよ」
「だから取材受けなきゃいいんですよ。自業自得です」
「ああああああああ」
今日、何度目かのためいきをついて山上会長は机に突っ伏した。
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