プロレスの巡業移動中、交通事故に巻き込まれてしまった古橋ケンタ。目覚めてみるとなんと元禄時代にタイムスリップしていた。そこで何者かに追われていた秋山葵という少女を助けたことから、ケンタは秋山家で居候し葵の護衛を務めることになる。葵が背負う出生の秘密が呼び寄せる強敵たち。ケンタは葵の身を守り抜くことができるのか!?
ケンタのオトコっぷりがなんといっても格好良い!プロレスの美学を携え、どっしりと一本の筋を通して突き進む姿はまさにヒーローと呼ぶに相応しい。そりゃ葵さんも惚れますよ。あまりのイケメンぶりに、武芸一筋だったとはいえ今まで女性に縁がなかったことは七不思議に数えたいくらい。
一人ひとりの登場人物の心情や生き様、時代背景も深く掘り下げられており、元禄時代とそこに生きた人々に囲まれているような没入感でこの世界をどっぷりと味わうことができます。正直タイトルとあらすじを見ただけでは、こんなにしっかりと書かれた小説だとは思いませんでした。タイトルで嫌厭する方もいそうだけど、それは本当にもったいないです。元禄時代やプロレスの技とかを知っていればより楽しいのでしょうが、知識ほぼゼロの私でもとてもおもしろく読めたのでそこは問題ありません。
ということで、このレビューを読んでしまったそこのあなた。さあ、一緒にタイムスリップしちゃいましょう!
現代に生きるプロレスラーが主人公。地方に向かう道中に発生したバスの転落事故のさなか、彼は過去の日本(あるいは日本によく似た異世界)に飛ばされてしまう。
混乱冷めやらぬうちに、今度は郎党たちに追われる女性と出会い、巻き込まれるように戦闘になってしまう主人公。辛くも勝利した後、女性の家で厄介になることになるのだが、どうやら女性を取り巻く環境は複雑なようで……。
三人称で進む物語は非常に読みやすく、物語もテンポよく進んだ印象です。特に、ちょっとした情景描写や心象の描写が冴えていて、主人公がどこで、何を感じ、どう行動したのか。非常に分かりやすく描かれており、脳内で映像が生き生きと動くようでした。
また、情報の取捨選択が非常に巧みで、魅せたい場面とそうでない場面がきちんと区別されており、テンポを落とさないままに魅せ場を堪能することができます。伝わってくるのはある種の美学。あるいは矜持。守るべきもののために戦う漢(おとこ)の姿が、そこにはありました。
そんな巧みな文で描かれるのは、未だに真剣が振るわれる時代を己が身一つで戦い抜く、プロレスラーの物語。
刀を始めとする刃物を手にした相手に対して、主人公は鍛え上げた肉体と、プロレスラーとして培ってきた技術を持って立ち向かいます。
そこにはチートなどありません。時間をかけ、汗水垂らして磨き上げた筋肉と技、何よりもレスラーとしての矜持だけで迎え撃つのです。そんな漢を見せる主人公の姿こそが、本作最大の魅力だと思います。
閃く銀線に対し、躍動する筋肉。飛び散る汗、ぶつかる技と技。その戦闘描写が先に上げたテンポの良さと合わさると鮮明に映ります。刃物を向ける敵が放つ威圧感。対して無手な自分の緊張感。その1つ1つが具に描かれ、手に汗握るとはまさにこのこと。
派手な爆発も、神秘的な力も無い。にも関わらず、心躍ってしまう。それはきっと、その戦いに“華(はな)”を感じてしまうから。プロレスラーの主人公が持つ圧倒的な美学が描く、美しい戦いがあるからだと思います。魅せ方、と呼んでも良いかも知れません。相手の技を尊重し、その上で、自分の技を披露する。私自身プロレスというものを全く知らないわけですが、もしこれがプロレスというもの魅力なら、なるほど。長年愛され続ける理由がとても良く分かる気がしました。
全体の雰囲気も私好みで、「和風」では無く「和」なんです。文明が自然を克服するより更に前の時代設定ということもあり、人は自然に寄り添い……人が自然に従う生活がありありと浮かんできます。そんな時代で己が道を探求する人々の姿、そして、影で悪巧みをする人々。どれをとっても生き生きとしていて、歴史に疎い私でも分かりやすい時代劇を見ているような。自然の色や香りのする世界がひしひしと伝わってきます。
だからこそ、そこに迷い込んだ現代人の主人公が混乱したり、悩んだりする姿には自然と親近感を覚えてしまいます。ですが、プロレスラーとして生きてきた彼の、少し“抜けている”部分にクスッとなったりして、不器用で。どこまでも好印象なんです。そんな彼が“大切なもの”を守るために戦う姿……。惚れるなという方が、無理な話でした。
助けた女性(ヒロイン)に迫る悪意。果たして主人公はおのが肉体と矜持を武器に、最後まで彼女を守り通すことができるのでしょうか。また、女性が狙われる理由とは……? 興味が尽きません。
人、描写、どちらをとっても非常に魅力的な作品。各所に感じられる美学と、そこから導き出される“漢”の姿。読めば必ず惹きつけられること間違いなしです!
プロレスを知らなくても、時代劇風の作品を知らない・苦手にしている方も。ぜひぜひ呼んで欲しい読んで欲しい作品です!
プロレスファンの方。時代物小説ファンの方。そして純粋に良い小説を楽しみたい方。
どれか一つにでも当てはまる方には是非お読み頂きたい秀作です。勿論二つ以上が当てはまる方、間違いないと思います!
元禄時代という描写が難しい時代物をベースとしながらも、素晴らしい描写力が物語としての「説得力」を生み出し、古橋ケンタという一人のトッププロレスラーが自らの矜持に殉じ、何時如何なる時でも素晴らしいプロレスラーとして「受け」の美学を貫いていく様を見事に書ききられています。
プロレスファンであれば古橋ケンタの戦いにニヤリと笑みを浮かべることが出来ると思います。しっかりとお約束も忘れないそのサービス精神には何度も声を上げさせられました。
時代物小説ファンであればあの登場人物にそうくるか!と作者様の大胆さに驚かされることでしょう。そして、その知識に舌を巻かれることと思います。純粋にその知識が羨ましいです。
純粋に小説としても完成度が高く、プロレスを知らなかったり時代物をあまり読まれる事の無い方々にも大手を振って紹介したいと思いました。私は何度も泣いてしまいました……。
ですので、もしこの私の稚拙なレビューに目を留めて頂き、尚且つご興味をお持ち頂けた方は迷わずこのタイトルにカーソルを合わせていただければ、これに勝る喜びはありません。
本当に面白かったです。作者様には感謝を。
プロレスラーの古橋ケンタは交通事故に遭い、気が付くと過去の日本にタイムスリップしていた。
おそらく、タイトルだけだったら読んでいなかったかもしれない。
もしそんな人がいたら、ちょっとだけ一話二話を読んでみてください。
他の方のレビューを見てみてください。
絶対後悔しないと思います。
古橋ケンタは『漢』です。『男』ではなく『漢』。
プロレスに全然興味のない私ですら虜にされました。
惚れます。完全に惚れました、この生き様。
立ち合いシーンは手に汗握り、脳内に映像は流れ、展開に悲鳴を上げて、悪党に本気の怒りを抱き、救い主に心から感謝し……
とにかく、一話一話読むごとに忙しい!
読み終えた後は興奮冷めやらずまともなコメントも残せないほど。
登場人物たちの生き様や信念は、今を生きる私たちにも突き刺さるものがあると思います。
是非是非、チートやハーレムが苦手な方。泥臭く暑苦しい物語がお好きな方、ご一読ください。
タイトル的に結構コミカルなストーリーなのかと思ったら、とんでもない。
漢の熱さを、これでもかというほどに味わうことができました。
主人公ケンタのプロレスラーとしての矜持を示した戦いの数々に、身体が火照りっぱなしでした。
プロレスラーは夢を背負っている。
だからこそ、リアルに負けてはならない。
リアルに屈してはならない。
このフレーズが最初に出てきたのは結構序盤のほうでしたが、目にした瞬間に、最後までこの物語を読破することを決意させてくれました。
さらに物語に厚みを添えているのが、緻密な歴史背景の説明と巧みな風景描写。
プロレスが出てくるというだけで、これもう普通に立派な時代小説ですやん!大河ドラマですやん!
と思いきや、しっかりちゃっかりエンタメ要素も忘れない。
時代劇には欠かせないあのお人まで登場し、ドラマをさらに盛り上げてくれる。最高か!
いや、大変よいものを読ませていただきました。
漢の魂に感化されたため、今夜は夜通しシャイニングウィザードの練習に明け暮れたいと思います!
現役プロレスラーが元禄時代にタイムスリップしてしまう場面から始まる、唖然としてしまう舞台設定。
古橋ケンタは愚直である。真っ直ぐである。口下手であり不器用でもある。
そして何より、プロレスラーなのだ。
時代は未だに刀や暴力で一部分は支配されている。徒手空拳でケンタは立ち向かい、その大きな背中には紛れも無いオトコの姿を感じる。
莫迦じゃないかと言いたくなるくらいに熱血。
権力に取り憑かれた悪臣を成敗する様は、完全無欠な勧善懲悪。
それでいいんです。熱血プロレスラーが悪を砕く、爽快感。
どこかに置き忘れている漢としての魂が、どこかで必死に奮っていました。
ぶっちゃけ読んでて泣きました。感動なんてもんじゃない、俺だって男だからさ。
美学と意地。たったそれだけの男魂。存分に楽しませて頂きました。
古橋ケンタが江戸時代にタイムスリップして、バッタバッタと悪人共をなぎ倒す。ここまではよくある異世界トリップもの。タイトルもいかにもな感じです。
しかし、軽いタイトルだと侮ることなかれ。
読めば読むほど、物語が『生きて』くる、登場人物が『生きている』様に錯覚させる構成に、プロレスの所謂『受けと魅せの美学』が加わることで言葉では言い表せないほどのシンパシーが生まれ、結果として読了した後はまるで一本の大作映画を観たかのような余韻に浸れる。
加えて、プロレスファンなら元ネタが解ると思わずニヤリとするような小ネタの数々も良いアクセントとなっていることも、述べておこう。
もし、あえてテーマ曲を付けるとしたら、『Grand Sword』で決まりだろう。