第6話 喫茶店へ
「37度5分・・・・・・か」
動かす度に節々に痛みが走る右腕をどうにかずらし、脇に挟んだデジタル表示の体温計の結果を見る。あの日、あの後に向かったバイトの途中でどうにも具合いがすぐれず早退をしてそのまま3日ほど寝込んでしまっていたのだ。
ベッドの上から器用に身体を
その
昨日までは本当に辛かった。視界はグラグラと揺れて定まらないし、人が何人か出入りしていた覚えもあったが、それすらも記憶があやふやなままだ。あまりこの部屋に人が出入りして欲しくはないのだけれど、起き上がる事も出来なかったからそうも言ってられないのか。
この部屋は僕の中ではまだ不完全な部屋だ。無理くり二階の空き部屋を押し付けられ、家具も揃い切っていないこの状態では未完成と言うしかない。第一、なんで和室なのだろう。隣の洋室は物置なのだからそこをあてがってくれればいいのに。親父はどんなに懇願してもダメの一点張りでお袋も住めば都とか言っているし。そういう問題じゃないっての。僕には僕のイメージってのがあるんだ。
大体、何だよ畳の上にベッドって。締まらない事この上ない。置いたカーペットはすぐにずれて隅に丸まるし、ポスターもまったく合わずに浮いちゃってるし、和タンスとカラーボックスが交互に置かれているし、窓も
「あ、目が覚めた? よかったよかった。おばさん呼んでくるね」
「ああ、三奈美か。いいよ、お袋呼ばなくても」
引き戸の先から現われたのは
我が家の子供が僕だけの一人っ子で三奈美の両親が仕事で忙しい為、親父とお袋がたいそう可愛がってそのまましょっちゅう家に遊びに来るようになってしまった。僕にとっても妹と同然な様なモノなので、コイツにどれだけ裸を見られようがなんとも思わない。
「ごめん、替えのパジャマってどこ?」
「あ、持って来る」
もう少しで肩にかかりそうな黒髪を後ろで結び、少し大きめのすぐにずれてしまうピンクのフレームの眼鏡、モコッとしたセーターの上にベージュににんじんのアップリケが施されたエプロンを付けている。あれはおそらくお袋のエプロンだろう。拭き残しがあった背中をちょいちょいと拭いて、三奈美は汗拭きに使っていたタオルを持ったまま、階下に下りて行った。
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