英雄ではないのに英雄並みに強くなってしまった男の哀しみ

 結局のところ英雄とは小を殺して大を生かす連中のことであり、ある種の非情さというか鈍感さがなければ到底やってらんない生き方であるわけですが、本作の主人公アルディオスさんはまぁ貫くことができなかった。その結果いろいろと大変なことになってしまうわけですが、アルディオスさんのいいところというか大人なところは、決して英雄という存在を否定してはいない点です。「一人を殺して世界を救う」という行いについて「俺にはできそうにない」とは言うけれど「そんなことをする奴は間違っている」とは一言も言わないし思ってもいない。ここらあたりの懐の深さというか、人間的な余裕みたいなものが、少年の主人公には出せないかっこよさとなって立ち現われていると思います。
 こういうテーマの物語にありがちな「恐怖にかられた愚かな弱者が酷いことをする」的な展開がまったくないのも好感触でした。登場人物は約一名を除いて全員がちゃんと相手のことを理解しようとするし慮っている。それでもなお起きてしまう争いこそが、読者の心に何かを残しうる争いであると思います。
 アルディオスさんは英雄ではなかったかもしれないけれど、ヒーローではあった。
 本当に、元気の出る作品でした。