血飛沫は赤く、黒く。抗う人間たちを目に焼きつけろ

一つの街を巡る攻防戦。
守るのは半ば見捨てられた街の人々、攻めるのはゴブリンの大群。
このゴブリン、ただの獣ではなく、指揮官に率いられた一端の軍隊です。

知性あるもの同士の集団戦ということで、ヒーロー物ではなく、戦記ファンタジーが近いでしょう。
ただ、街とそこに住む人々を描ききった物語ですので、あくまで現場からの視点が貫かれています。

例えが古くて申し訳ないのですが、戦闘シーンの乾いた筆致や、序盤の凄惨な雰囲気は、ペキンパー監督の「ワイルドバンチ」辺りを思わせました。

しかし、決して硬いばかりの暗鬱とした話でもありません。
多くの犠牲を出しながらも、希望が絶えることはなく、正しくラノベな軽さも備えています。
最初に発表されたものから、改稿されたということです。読みやすさには充分配慮されていました。

ゴブリンとの息詰まる戦いが横軸なら、主役の一人オルフの成長譚が縦軸でしょうか。
そして“人間兵器”――これが何を、誰を指しているのか、一体どういう存在なのかは、ぜひ本編で楽しんでください。

血生臭く、泥臭く。
ファンタジーだけど、シビアな戦闘が読みたい、という方には、これはバッチリはまるでしょう。
そう、バトルではなくて“戦闘”です。

甘くないラノベ、貴重な逸品です!

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