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 創作物の設定が被るのは普通の事。

 ニュースで、京アニに放火した人の初公判の一部始終が報道されてましたね。
 京アニ大賞という公募で十年かけて描いた作品が落選し、その後掲示板で公開したけど反応を得られない。更に京アニに「自作を盗用された」と思い込んで犯行に至った。
 というのが犯行の理由として、以前から色んな所で拡散されていましたよね。
 色々と掘り下げられて更に昔のコンビニ強盗の件とか、そのきっかけになったインターネット上での自称京アニの女監督とのやり取りだとか。
 その前は下着泥棒もしただとか。
 生活に困って万引きとかして生活していたとか。
 そういうのも出てくる出てくる。
 
 うまくいかない事を他人や環境のせいにする思い込みの激しい人の典型なんでしょうけど、「盗作」という言葉について、以前から気になっていた事があります。

 なんらかの創作物を発表している人なら「あるある」だと思うんですけど、自分の作品と類似してる作品って結構あるんです。
 勿論、多くの人達はわかってますよね。

 小説を描こうとする人間は、それなりに限られる。
 そんな似た様な志向を持つ人達の作品が溢れた中で、似た様な作品がある確率は高い。

 普通の事ですよね。

 だから、パクられるとかパクられないとかは実際、どうでも良かったりします。
 
 ここで話を逸らしましょう。


 芥川龍之介の作品に「虱」というモノがあります。シラミです。

 芥川の作品は「こういう人いるよねー」「こういう事よくあるー」みたいな、あるある的なユーモア作品が多いのですが、この虱もそんな作品だったりします。

 時は幕末期の第一次長州征伐頃の冬……。

 あ、知らない人で興味がある人は調べてみて下さい。
 加州家(当時の加賀藩)(この場合は京極加州家とは関係なく加賀守としての意味だと思います)の長州征伐は勇み足の空回りみたいな部分があったので、識ってる人が物語冒頭を読んだなら「ああ、この人達もこれから空回りするんだろうな」みたいな感想を持つ事ができるでしょう。

 ちなみに物語冒頭の時点で第一次長州征伐の決着はついていた様なもんなので、登場人物達はもれなく皆んな、空回りです。

 残念ながら僕はその事を虱を読んだ十数年後に調べて識ったので、その側面をリアルタイムで読み解く事はできませんでしたけど。

 まあ良いや。
 逸らした話が更に逸れちゃう。
「虱」の内容を語りましょう。

 長州征伐の為に白い旗と赤い旗を掲げた何隻かの勇ましい客船に、侍達が乗っていました。
 軍船じゃなくて客船。
 一隻当たり、米を75トンほど積める客船です。深さが1.7メートルほどの中くらいの船ですね。
 ここもポイント。芸が細かい。
 どうしてもっとデッカい軍船を使わなかったんでしょうか。
 一隻がそれくらいの大きさの船に三十八人の人達が乗ってます。
 めちゃくちゃ狭いです。
 船の真ん中にはたくあんの入った鰌桶(バケツみたいなモンだと思って)が足の踏み場もないほどに敷き詰められてて、吐き気がするほど臭い。
 だいぶ劣悪な環境です。

 更にその船には「虱」が沢山いたそうです。

 シラミとは人の血を吸う虫で、着物だとか頭だとかに寄生するキモい虫です。それが人だけじゃなくて帆だとか碇とかにもわんさか集っていたそう。

 刺されると肌が腫れて痒いので、船の皆んなは暇なし「シラミ狩り」をしてます。
 船中にいるシラミを茶碗とかで集めていました。

 ですが、森さんという変わった人がおりまして、一人だけシラミ狩りに参加してません。
 その人にもシラミはしっかりついてますし、肌も腫れてるし、肌を普通にガリガリ掻いてるので痒くないワケでもない。

 更に森さんは他の人達に「シラミを集めたら殺さないで俺にくれ」とか言ってます。

 他の人達が森さんにシラミをあげると、森さんはシラミを大切そうに自分の着物の中に入れました。

「何してんの!?」

 って感じですよね。
 森さん曰く

「皆んな寒くて風邪を引いたりしてるけど、俺はクシャミも鼻水も垂らしてない。それはシラミのおかげさ。だから俺はシラミを体に飼って暖を取ってるんだ」

 ですと。

 シラミに刺されると痒いから掻く。
 全身が更に痒くなるので、更に掻く。
 全身の肌が腫れて熱を持つ。
 それにより暖かくなるからよく寝れる。
 眠くなったら痒くない。

 という、謎の合理性を森さんは語ります。

 そのうちだんだんと、森さんの真似をする人達が現れ始めました。
 利巧な先駆者は謎のカリスマ性を発揮するものです。

 ですが当然、追従しない人もいます。

 追従しない人の中に井上さんという人がいました。
 なんと井上さんは、捕まえたシラミを食べています。顔に登ったシラミを噛んで殺す人はいましたが、食べる事自体が目的の人は、井上さんだけでした。

「油っこくて焼き米みたいで旨い」

 とか井上さんは言ってます。
 なんか鼻糞を食べる子供に似てますよね。

 流石に井上さん以外にシラミを食べる人はいませんでしたが、森さんみたいにシラミを飼う様な事をしたくない人達はそれなりにいました。

 そしてその船にはシラミを飼って暖を取る「森派」と、シラミを飼う事を否定する「井上派」という二つの派閥が出来上がります。

 意見が合わないこの両者の間に少しずつ、緊張感が生まれて来ました。

 そんなある日、事件が起こります。

 いつもの様に森さんが仲間からシラミを貰おうとすると、茶碗の中にシラミが居ません。

「おい井上テメェ、なんで俺のシラミ食った?」

 森さんが井上さんを問い詰めます。

「つーかよ、そもそもシラミ飼うとか馬鹿のする事じゃん」

 と井上さんは森さんを一蹴します。

「食う方が馬鹿だろうがッ!」

 言い返した森さんは、床をバンバン叩きながら続けます。

「——この船に乗ってる奴は皆んなシラミに恩があるんだ! それを取って食うなんて恩を仇で返すのと同じだろ!?」
「別に俺らはシラミに恩なんてねーよ?」
「ぐっ……。お、恩がなくてもむやみに生き物を殺すなんてだめだ!」
 
 そんな言い合いののち、いきなり森さんが目の色を変えて海老鞘巻きの柄を握ります。
 井上さんも負けてはいません。
 すぐに朱鞘の長物を引き寄せて立ち上がりました。

 周りの人達は慌てて二人を取り押さえます。
 もしこのまま続けば、どちらか一方の命に関わる事態となっていた事でしょう。

 二人は周囲の人に抱えられながらも「シラミ! シラミ!」と口の端から泡を吹きながら叫び続けました。

 こうして船中がシラミの為に大騒ぎになっている今も、船は悠々と進み続けるのでした。


 というのが「虱」のお話です。

 このお話の楽しみ方は色々あるのですが、今回は「個人の合理性により生まれたこだわり」に注目します。

 僕、自作のキャラに結構そういうの持たせちゃうんですよね。
「ぐちゃぐちゃ」という作品なんか、それをメインにしていたり。
 
 ある人が「この方が良くね?」ってな感じに持ってるマイルールだったりこだわりポイントを、他人が「そんなのどうでも良くね?」みたいな感じで蔑ろにすると、喧嘩になります。
 そういう作品をかなり前に描きました。

 僕の作品はパクリでしょうか。

 僕はそうは思ってません。
「ぐちゃぐちゃ」というタイトルから自然に生まれたオリジナルの作品です。
 でも、設定が被っちゃいました。

 そんなもんなんすよねー。

 たとえ住む場所も生まれた時代が違ったとしても、物語を描くのは人間です。
 人間が描くモノは、その人が今まで見てきたモノに影響されます。
 キャラクターを作る上で参考にするのは今まで見てきた人間たち。
 人間のありようが変わらない以上、どうしても似通ってしまう部分がある。

 どうしようもないんです。

 設定被りは当たり前、フツーの事です。
 
 つーわけで、長々と書きましたが、上記した様に僕が言いたいのは普通の事、当たり前の事だけです。

 もっと余裕を持って執筆ライフを続けて行こうではありませんか。

 ちゃんちゃん。

 終わり。

 
 
 

 

 
 

 

 
 
 
 
 
 

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