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現在、昭和館で「この世界の片隅に」の展示をやっています。~9/9まで。

私も昭和館へ行った時に色々と思うことがありました。
特に戦後に書かれた次の文には、周りに人が居るにもかかわらず、一人泣いてしまいました。一部自分のメモの字が読めませんが。

「母と共に 一年五組三十番宮脇俊夫
 雨の降り出しそうな今日も又自転車に大きな荷物をつけて、家を出て行く母を送り、母の姿が垣根の向こうに見えなくなるまで、僕は玄関にたたずんでいた。
 この様に母はいつも僕達の為に呉服物を持って、売りに行くのである。

 僕は昭和二十年にあの戦争で父を失った。だから父の顔さえ知らない。写真で見て「アア、僕のお父さんとはこんな人か」と思う位である。その僕を女手一つでここまで何の不自由なしに育ててくれた母。その母も早くも頭の所々に霜を頂くようになってしまった。

 昨年の夏には遺児にして靖国神社に参拝、無言ではあるが父にも会ってきた。
 靖国神社に行く時、見送りに来てくれて「私の分もお祈りしてきて」と行った時の母のあのあわくまたたいているような目に、光った涙のあと。

 眠れぬ夜汽車の中で思い出しながら悪夢のような、しかし何となくなつかしい僕の幼年時代の一場面を思い起こしては胸の底からこみ上げてくる熱いものをしみじみと感じたものだった。

 僕が小学校に入学する二、三年●前の事だったろうか。その時やっと店で物の買い方を覚えた僕であって、僕の家は戦争が激しくなり始めた頃から母方の田舎へ疎開していたのだが、その農村でのものさびしい生活の中で、僕達子供の心をなぐさめてくれる数少ない遊びの中にコマ回しがあった。しかし、一家の柱を失って間もない母には僕にコマなんか買ってくれる余裕なんてなかった。

 母に「としお」という字を教えてもらい。やっと字がかけるようになったうれしさに、壁なんかに盛んに自分の名前を書いては母に注意されている僕だったが、その時だけはよくわかっていた。

 しかし、正月を過ぎて間もない頃であったろう。僕はコマで遊びの友が持っていたコマの事からけんかを始め「僕だってコマ位買ってやるぞ」と競争心をもやして家の机の引き出しの中にあったお金でコマを買い、公民館で一人そのコマを回して遊んでいたのだが、そのコマがふとした拍子に外へ飛び出した時、見上げた鉛色の空はもう煙の見えはじめた家々をつつんで暮れかかっていた。恐ろしさと寒さの為に僕は家へ走って帰った。

 家の中のヒビの入った火鉢には赤々と火が舞っていた。しかし、僕はどうしてもその火鉢にそれ以上近づく事は出来なかった。薄暗い電灯の下に机の引き出しは乱暴にも開け放たれていたのだった。火をたいていた母は何も言わなかった。いや何も言えなかったのだろう。

 一日の仕事から疲れて帰ってきて電灯すらまだついていない家に入ったとたん、机の引き出しを見て母はどう思っただろう。黙ってうつむいている母の顔に降っている白いものが僕の目には鋭く突きささってきた。
 しばらくして、佇んでいる僕をそっと見上げて、「良いのよ!そんなに心配しなくても」というように、首を横にふりながら、ちょっとだけ微笑んで下さったお母さんの目はキラリと光っていた。

 僕は小学校時代にも作文の時間によく「僕の家はお父さんが死んでしまってお母さんと兄さんの三人家族でさびしい」と書いていたので、先生はいつも〝お父さんがいらっしゃらなくても希望を持ってお母さんとともに●●(生きぬ?)いて下さい〟と書いて下さったし、高校入試の合格祝にいただいた先生の手紙の終わりにも、「君はお父さんがいない。しかしこの苦しみを乗り越えて頑張ってくれ給え。君にはいいお母さんがある。両親のいない人がいることを忘れずに一日も早くお母さんを楽にしてあげるんだ」と書いてあった。それを読んだ時、なんだかよい事を教えてもらったようで、胸の中がすうっと明るくなった。
 そして、今まで一人ひがんでいたのが恥ずかしくさえ思えた。

 夕方、買い物に行った母を迎えに行っての帰り、自転車の荷台に母を乗せてペダルを踏んだ。午後から晴れ上がった空をちょっと見上げた時、たわむれに母を背負いてその余り軽きになきて三歩あゆまず という啄木の歌が頭に浮かんだ。
 何回も何回も、くり返しくり返し、そうだなあと思った。ちょっと後ろを振り変えると、紅葉した連山を背景にした母の笑顔が浮かんでいた。
 これからもどんなに苦しい時があろうと、未来を夢みて、自分の道を行こう。苦しさ、寂しさの後には必ず光がある事を信じて母と共に!」

書き殴ったのでメモの自分の字が読めていない箇所があります。一部誤字もあるかも。大事な部分なんですが。……次行った時にはもう一度確認しないと。

 まだ執筆中ですが、戦前戦時中を描いている『あの空の果て、戦火にありし君を想う』 https://kakuyomu.jp/works/1177354054885626974 から、少しでも当時の空気を感じていただければ幸いです。

昭和館 http://www.showakan.go.jp/events/

1件のコメント

  • 私も戦後数十年の世代なので、わからないところも多いですけどね。
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