空港国際線入国階にある、税関検査場。
飛行機から降りた多勢の乗客たちは、ターンテーブルで預けたトランクや荷物を受け取り、税関で検査を受けるのだ。
カツンッ、カツンッとハイヒールの音を響かせながら、大きなスーツケースを引っ張った乗客が、空いている税関検査に歩み寄った。
待機しているこの道二十年のベテラン職員は、目を光らせる。
怪しい。絶対に怪しい。間違いなく、怪しい。
その乗客は派手な花柄のジャケットに真っ赤なミニのタイトスカート。
真っ白なキャペリン(つば広帽)に大きなサングラス。
袖口からは、きらびやかなバングルがのぞいている。
そして首元には、モスグリーンの唐草模様の風呂敷を背負っているのだ。
「パスポートと、携帯品・別送品申告書を出してください」
係官はその乗客へ指示する。
パスポートを受け取り、顔写真と見比べた。
「え~っと、権田原(ごんだわら)茂平治(もへじ)さんね」
乗客は高齢の男性であった。
「いかにも。だが『腐乱(ふらん)ソワーズ』と言うペンネームのほうが有名だ。ご存知かの」
「フランソワーズ? 流行のニューハーフかなにか?」
「無礼な官憲だの。わしは恋愛小説家で、ちいとは売れておるぞ」
以前(2017年2月16日「小説家と編集者」にて)登場した作家先生だ。
先生はキャペリンとサングラスをはずす。
バーコード・ヘアが少し乱れる。
「申し訳ないけど、恋愛小説は読まないんでね。今回は香港からのお帰りですかな」
「さよう。ご覧の通り、美しきヒロインが主役でな。取材旅行の帰りであるぞ」
腐乱ソワーズ先生は、小説を描く際には必ず主役のスタイルを真似しなければ、筆が進まないのだ。
「はあ、中年男の女装家が主役って、コメディかな」
「涙、涙の悲恋物語だ。原稿を描かねばならんので、通るぞ」
「あっ、一応ね、その荷物を拝見させてくださいよ」
「麻薬や拳銃なぞ、持ってはおらん」
「まっ、とりあえずこのスーツケースを開けてください」
どこで購入したのか、あられもない春画がプリントされたスーツケースを検査台に上げ、先生はしぶしぶケースを開けた。
税関職員はのぞき込んだ途端、眩暈に襲われた。
「ご、権田原さん、これは!」
バーコード・ヘアをなでつけながら、先生は何気なく答える。
「これは、わし愛用のランジェリーだが」
スーツケースの中には赤・黒・ピンク・紫などのドギツイ色合いの女性用下着が、まるで特売場のワゴンからぶちまけたように、ぎっしりと詰まっている。
「わ、わしのって、あなた、こんなもの使用してるのか」
「むろんだ。役に成りきるためだからの。それにわしは汗っかきだからして、一日に三度は履きかえるようにしておる」
Tバックはともかく、ブラはなんのため? しかもDカップ。
係官はクラリと立ちくらみを覚え、急いでケースを閉じた。
「ど、どうぞお通りくださいっ」
超売れっ子恋愛小説家、腐乱ソワーズ先生はヒールの音も高らかに、到着ゲートから出ていくのであった。
五か月ぶりに、腐乱ソワーズ先生のご登場でございました。
暑さを振り切り、カクヨムさまをチェ~ック! ああ、暑い。
あ、「二十歳のおばあちゃんへ」へレビューとお★さまをいただいております!
宇都宮和紫 さま、
どうも初めまして! この度はご多忙の中お目通しくださり、またレビューまで頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
感情移入してくだすったなんて、嬉しい♡ 恋愛小説など似合わぬわたくしではございます。もっと描こうかしら、などと舞い上がってしまいます♪ え? 止めておいたほうがいいと。承知いたしました。
心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!
ふぁいたーさま、
大変ご無沙汰いたしております。お忙しい中、わざわざご覧くださり、またお★さままでいただきまして誠にありがとうございます!
心より御礼申し上げます♬
あ、「カクヨム・パラレル・ワールド」にレビューとお★さまを頂戴しております!
桜井今日子さま、
今日子ちゃん、お暑い中お目通しくださり、またレビューまでいただきまして誠にありがとうございます! 思わず笑うレビュー、嬉しい♡
なぜか気が付くとカクヨム界を彷徨っております。末期症状からすでに一線を越えてしまいましたわ、わたくし。すでに住民票さえカクヨム界に移した感覚ですのよ。でも意外にそんなかたも多かったりして☆
心より御礼申し上げます♬
紅蛇 さま、
どうも初めまして! この度はお忙しい中にも関わらずご覧くださり、またレビューまで頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
わかりやすい文章だなんて、嬉しい♡ 無数にある並行世界には、きっと存在しておるやに思います。全てはカクヨムのために。でも法令諸規則は遵守でねばなりませぬけど☆ ホラーコンに応募しようかしら。
心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!
玉鬘 えなさま、
この度は応援コメントならびにお★さままでいただきまして、誠にありがとうございます! 自主企画用に公開いたしましたの。一発芸のようなお話でございます。お目汚しでなければ幸いでございます☆
心より御礼申し上げます♬