老紳士は網棚のバッグを、立ち上がられたままごそごそされ、黄色い花柄地のナプキンに包まれた四角いお弁当箱を出されました。
お弁当箱にしては、ちょっぴり大きいわね。しかも重そう。大食漢でいらっしゃるのかしら?
「あなたも、いかがですかな」
「あら、わたくしならご心配なく。駅でサンドイッチを買ってきておりますの」
そのおかたは丁寧にナプキンをはずされました。
えっ? お弁当箱ではなくてよ。大きなタッパーですわ。
しかもなにやら土が詰まって……つ、つち?
人さまの好みにケチをつけるわけではございませんが、土を召しあがるって、ええっ?
タッパーの上蓋を開けられた途端、プーンとたちこめる異臭。
「こ、これは!」
老紳士は嬉しそうに相好を崩され、タッパーに顔を近づけます。
「うむ、ちょうどいい塩梅のようですな」
腐敗臭に、わたくしは眉間にしわをよせます。
おもむろに指を突っ込まれ、抜き出した指先に握られておりましたのは、胡瓜でございます。
ええ、土ではなく、タッパーには糠床がぎっしりと詰められていたのです。腐敗臭ではなく、醗酵臭でございました。
「日本人に生まれてよかったなと思いますのは、やはりこの糠漬けを食するときですなあ」
糠にまみれた胡瓜を、パクリと頬張りながら老紳士は美味しそうに音を立てて召しあがるのです。
いやいや、糠漬けは、けして嫌いではございませぬ。むしろ好き。
でも糠が付着したままで、しかも新幹線の車内で口にするとは……
わたくしは、自分の切れ長二重の目が泳いでいるのを自覚いたします。
ちょっとヤバい席に座っちゃったのではないかと。
「ささ、お嬢さん。こっちには茄子もいい色に漬かっておりますぞ。遠慮はご無用」
ニコリと微笑みながら、差し出された紫色のお茄子。糠まみれ。
人の親切を無駄にできぬわたくし。
顔面を引きつらせたまま、小首をかしげてそのお茄子を受け取りました。
やはり、人生ゲームが投了した時点で席を立つべきでございました。
形のよい口の周りに糠をつけたまま、わたくしはバッグからスマホを取り出して、カクヨムさまをチェックいたします。
確かにお味は最高でございます。ああ、わたくしも日本人。
あ、「二十歳のおばあちゃんへ」にお★さまをいただいております!
如月芳美さま、
どうも初めまして! この度はご多忙の中、わざわざご覧くださりまたお★さままで頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
つばき初の恋愛モノ、お恥ずかしいかぎりでございます。
心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!
@Poalesgratinさま、
どうも初めまして! お忙しい中、拙作にお時間を割いてくださり、またお★さままでいただきまして、誠にありがとうございます!
お目汚しには、なっておりませなんだでしょうかしら 。
心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!