『「ふんっ! ふんっ!」
日本人離れした高い鼻梁から、リズミカルに呼気がもれる。
部屋に設置された各種のトレーニング・マシン。
ペックデックフライマシンと呼ばれる、大胸筋を鍛えるために左右の縦バーを両腕で閉じたり開いたりする器械に座る男。
その若い男は切れ長の目元を細め、筋肉に負荷を与え続ける。
それが終わると、横のアダクションマシンに移る。
これは開いた両脚でバーをはさみ、閉じることにより内ももを鍛え上げるのだ。
「ひっ、ひっ、ふううっ! ひっ、ひっ、ふううっ!」
今度は出産時のような掛け声を上げ、ひたすら長い脚を動かす。
男の胸元には幾筋もの汗がしたたっていた。美麗すぎる男の汗は、むしろ高級パヒュームのような爽やかさがある。
トレーニング室には、それ以外にも最新のマシンが設置されており、男は日々肉体の鍛錬を行っていた。
ここはジムではない。男の所有する億ションの一室である。
ロリコン漫画によって巨万の富を得た漫画家、涼ノ宮愛一郎の肉体鍛錬室。
彼はこのルームのドアに、「筋魂部屋」と達筆な筆文字の額を掲げている。
己の筋肉と魂を鍛えるという意味だ。筋肉のキン、魂のタマであり、決して金塊のキンに玉子のタマではない。
もちろんいつものように、一糸まとわぬ全裸で黙々と肉体を鍛え上げているのだ。
ガチャッ、とトレーニングルームのドアが開き、そおっと顔をのぞかせる影ひとつ。
角刈りのヘアスタイルに、分厚いレンズの眼鏡、青々とした髭剃り後の頬。
一見すると転職に失敗した、二児を抱える寂しき中年男に見える。
だが彼は日本のトップクラスの頭脳が集まる国立大学に現役でトップ入学した、れっきとした男子大学生であるのだ。
愛一郎の実弟、誠介である。これほど似ていない兄弟も珍しいが、間違いなく血はつながっている。
「はっ! ほっ! へっ!」プ~ッ! 最後のは鼻息ではなく、力んだ愛一郎の放屁の音だ。
「えぇっと、おにいちゃん」
誠介が遠慮気味に声をかけた。
愛一郎はその呼びかけに素早く反応し、スタッと立ち上がるとブランド物のタオルを首からかけてドアに向かった。
「やあっ、お帰り、我が愛しの弟よ!」
いきなりハグをする。百八十五センチの愛一郎は、百五十五センチでポッチャリ体型の弟を屈みながら抱擁する。
「た、ただいま、おにいちゃん」
「はーっはっはっはーっ、相変わらず可愛いやつめ」
「あのう、ハグは嬉しいけど、毎度お願いしているようにさ。ハグするときは、せめてパンツかトランクスを履いてね」
「なんだ、恥ずかしいのか誠介。ぼくはいっこうに構わないぞ」
「いや、ぼくが構うからさ。ところでね、おにいちゃん」
「うむ?」
「なぜトレーニングするのにさ、水泳のキャップを被っているの?」
「キャップなど被ってはおらぬぞ」
「いやいや、その真っ赤な帽子……あれっ、穴が開いてる、二カ所も」
「ああ、これか」
愛一郎は気づいて頭に被っていたそれを脱いだ。フワリとロングヘアがキューティクルを輝かせながら舞う。
「これはな誠介。水泳キャップなどではないのだ」
「ちょ、ちょっと待って。そうやって広げられると、どこかで見たことがあるかも。しかも白いラインが縁から穴まで二本ずつって」
「うむ、これは婦女子が体育の時間に着用する、ブルマーという下半身専用の体操着だ」
「えっ、えーっ! お、おにいちゃん! まさかとは思っていたけど、そんな性癖があったの!」
誠介はドン引きし、パッと愛一郎から距離をとった。
兄は不思議そうに首をかしげ、弟の顔を見る。
「ゼッペキ? いや、この兄の頭の形はパーフェクトに整っていると、お抱え美容師からもいつも褒められておるぞ」
「いや、絶壁頭ってことじゃなくてね。おにいちゃんにはブルマを被ってエヘラエヘラ笑う趣味があったのかと」
愛一郎は合点がいったらしく、ポンと手を打つ。
「なるほど、あいわかった! 実はな、漫画家仲間にソレ専門漫画の男がおってな。鶯ノエル、という超売れっ子さんだ」
「ああ、あの人ね。ファンタジーからホラーまで手掛けて、今ではソレ方面で爆発的人気の漫画家さんだね。
ぼくはソレ方面の漫画は、恥ずかしくて読めないけど。
鶯ノエル先生といえば、ソレってくらいだもの。
しかもロリコン漫画界の貴公子、涼ノ宮愛一郎か、ソレ方面漫画界の王子、鶯ノエルって呼ばれるくらいイケメンらしいね」
「さよう。何度も飲みに行っているが、彼は確かに格好良いな。キャバクラでは谷原ショースケとよく間違われておるぞ。
その彼がな、今度新しくブルマー漫画なるものを描く予定らしく、一度お試しで使ってくれないかと送ってきおったのだ」
「ブ、ブルマー漫画? でもブルマって、履くものだよね。それをなぜ被っていたの?」
愛一郎は再度真っ赤なブルマを頭に被り、腰に両腕を当て言った。
「それはな、誠介。万が一このブルマーなる体操着をこの兄が着用して、誠介の帰りを待っていたとしてごらん。
どう考えても変態そのものであろう。愛する弟に変態の兄がいては、大学で肩身が狭かろう。
熟考したあげく、履かずに被れば変態にはならないであろうと結論を出したわけだ。
これも愛する弟のため。むろん使用感はちゃんとノエル殿には伝えるがな。ピッタリ、フィット、ベリーグウってな」
誠介はウインクする愛一郎を、なんとも言えぬ表情で見上げるのであった。』
久々に兄弟の登場となりました。
あ、大多数のおかたはまったくご存知ではない、拙作「予想外な涼ノ宮兄弟」の主人公二人でございます。
しかも今回は、「ね? お願いだから異世界転移しよっ?」を好評連載中のソレ方面の達人、鶯ノエル先生に友情出演賜りました。
ありがとうございます!
前回は「2017/1/22 船上の涼ノ宮兄弟」でしたので、四か月ぶりの出番とあいなりました兄弟でございます。
こうして宣伝する姑息なわたくしは、ちょっと休憩してカクヨムさまをチェックいたします。
あ、「明日へ奏でる草笛の音」にレビューをいただいております!
村岡真介さま、
いつも大変お世話になっております。拙作にお時間を割いてくださり、またレビューまで頂戴いたしまして誠にありがとうございます!
鳥肌ものだなんて、嬉しい♡ 戦争がこの世界からなくなることはないのかもしれませぬ、悲しいかな。でもいつかは世界がひとつになることを願い、描いてみました。たまにはこんなお話も描くことがありますの☆
心より御礼申し上げます♬
あ、「カクヨム・パラレル・ワールド」にレビューを頂戴しております!
梅乃あん さま、
どうも初めまして! この度はご多忙の中お目通しくださり、またレビューまでいただきまして誠にありがとうございます!
良作だなんて、嬉しい♡ でも、やはり斬新過ぎましたでしょうかしら。描いております本人も、ちょっと引いてしまいましたの。あくまでも並行世界のひとつということで、ご了承いただけたらと☆
心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!
あ、「猟奇なドール」へレビューをいただいております!
村岡真介さま、今作までご覧くださり、またレビューまで頂戴いたしまして誠にありがとうございます! 猟奇シリーズ第二弾となります。
基本的人格が爆発だなんて、猟奇ストにとりましては最高のお褒めの言葉、嬉しい♡ あ、でも墓尾つばめちゃんと、わたくしは似て非なる存在ですのよ♪ わたくしはリアルでは平凡な存在ですの。
心より御礼申し上げます♬
あ、「二十歳のおばあちゃんへ」にレビューとお★さまをいただいております!
夢見るライオン さま、
ライオンちゃん、ご執筆でお忙しいのにわざわざありがとうございます!
レビュー、確かに頂戴いたしました。お★さま三つも嬉しい♡
普通の恋愛モノなど、わたくしには描けませぬ。ライオンちゃんのお持ちになる世界観がうらやましゅうございます。さすがに今回は異質なキャラクターは出しませんでしたけど。愛は育つ、いい言葉ねえ♪
心より御礼申し上げます♬
平原志恩 さま、
しおんちゃん、ご多忙を振り切ってご覧くださり、レビューまで頂戴いたしまして誠にありがとうございます! 心打たれるだなんて嬉しい♡
ラブ・ストーリーなら、やはりしおんちゃん♪ わたくしの筆力ではこれが精いっぱいでございます。え? 経験が無いから? おっしゃる通りでございます。これを機に、リアルでもガンバリますぅ。
心より御礼申し上げます♬
雨読 さま、
どうも初めまして! この度はお忙しい中、お目通しくださりまたレビューまで頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
心に響くだなんて、嬉しい♡ わたくし、ラブストーリなど初めてでございますゆえ、内心かなり照れておりますの。これも勉強とばかりに描いてみました♪ お目汚しでなければ良かったのですけど。
心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!
樋口めぐむさま、
今回もお目通しくださり、誠にありがとうございます! その上、お★さままで頂戴いたしまして大感激のつばきでございます♪
心より御礼申し上げます♬
@hamanomasagoさま、
どうも初めまして! この度はご多忙の中ご覧くださり、お★さままでいただきまして誠にありがとうございます! 今後の励みとさせていただきます♪ 心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます♬