春はまだ気配が感じられませぬ。
ですから今のうちから準備しておけば、安心ですわね。
え? 何をとお訊きでしょうかしら?
花粉対策でございます。
わたくしは身も心も大層デリケート。ふれれば散ってしまう可憐な花のよう。
けしてそのように大笑いなさる発言ではなくてよ、ここは。
それで朝から町内の総合病院へ来ております。
相変わらずの混み具合に、待合室の空いておりますソファにダッシュで席を確保します。
周りは満席です。
看護師さまが順番に患者さまの名前を呼ばれ、そこから各診察室へ入ります。
「タナカさ~ん、タナカモヘジさ~ん」
看護師さまの呼びかけに、わたくしの隣りに座っておりました作業服姿の殿方が、ピッとお手を上げられ「はいっ」と起立なさったの。
お年を召されたおじいさまでいらっしゃいます。
ところが、後方から「はぁい」と声がして中年の殿方が立ち上がられました。
看護師さまはそのタナカさまをご存じの様子で、後方のおかたを診察室へ案内しました。
別の看護師さまがカルテを見ながら「スズキさん、スズキゴスケさん、いらっしゃいますか」とソファを見渡されました。
するとわたくしの隣りに座るおじいさまが、再び勢いよく挙手され「はいっ」と元気よく立ち上がられました。
「はい、スズキゴスケでごぜーます」
斜め後ろからお歳を召された殿方が、立ち上がったのです。
わたくしは隣のおじいさまを、マジマジと見てしまいました。
ま、タナカ姓やスズキ姓は多ございますゆえ、お聴き間違いでしょう。
また看護師さまが来られました。
「センミョウジさん、センミョウジチヨコさん」
今度は女性で……「はいっ」と元気よくお隣のおじいさまが立ち上がられました。
もうここまできますと、確信犯ですわね。
後方からおばあさまが、看護師さまに案内されていきます。
作業服姿のおじいさまは、両手を膝の上に乗せキリッとした姿勢でお座りです。
「えーっと次は、高尾さん、高尾つばきさん」
わたしは一呼吸置いて、切れ長二重の目だけでお隣を見ます。
あらっ? お立ちにならないのかしら。なぜわたくしの名前で反応されないの?
と考えている間に、看護師さまが次のカルテを見て「高尾さんはいらっしゃらないから、次はモモヤマダイハルヨさ~ん」と呼ばれます。
すかさず「はいっ」と挙手され立ち上がるおじいさま。
もちろん本物のモモヤマダイさまが診察室へ案内されていきます。
なぜ? なぜ、高尾つばきの名前では無視なさったの?
わたくしは気になって気になって、ずっとソファで考え込んでしましました。
結局そのおじいさまは名前を呼ばれるたびに返事され、ご本人のお名前は一度も呼ばれないままお帰りになりました。
わたくしも受診時間が終わってしまい、仕方なく誰もいなくなった待合室でカクヨムさまをチェックいたします。
あ、「みかんをのせた、もっちん」にレビューをいただいております!
織田崇滉 さま、
織田先生~っ、超ご多忙の中にも関わらずご覧くださり、Goodレビューワの称号をお持ちのおかたからレビューをいただき、誠にありがとうございます!
結末が素敵だなんて、嬉しい♡
やはり称号を獲得された先生のレビューは、書き手を舞い上がらせてくれますわぁ♪ こちらこそ、ありがとうございます、です。
たま~に正体不明のナニかが憑依してきて、こんなお話を描いてしまします。
心より御礼申し上げます♬