お洒落なカフェの一番奥にあるテーブルに、入口を凝視しながら二人の男が並んで座っていた。
二人ともきっちりとスーツを着用しており、四十歳代から五十歳代の落ち着いた雰囲気をかもしだしている。
しばらくすると、入口から老齢の女性がオロオロした様子で店内へ入って来た。
誰かを探しているようだ。
「あのバアさんのようですね」
「うむ」
男のひとりが立ち上がり女性にに近づくと、そっと囁いた。
女性は驚いた表情を浮かべ、その場で何度も頭を下げる。
男にうながされ、奥のテーブルまで、倒れそうなおぼつかない足取りでやってきた。
「こ、この度は、孫がとんでもないことをしでかしまして」
女性は目に涙を浮かべながら、二人の男に頭を下げた。
「いえいえ。こちらこそお呼び立てして、申し訳ないですな。
こちらにおられるのは、当社の顧問弁護士の先生です。
お孫さんが業者に支払う、一千万円もの大金を紛失するとは……
上司の私にも、若い彼ひとりに任せてしまった責任があります。
それで先生と相談したのですが、何とか半分は損金扱いで会社負担にするとしてですな。
ただ五百万円はどうしても今日中に、相手先へ支払わねばならんのですよ」
「ええ、ええ。それは先ほどいただいた電話でうかがっております。
銀行を走りまわって、五百万円は用意して参りました」
女性の言葉に、男二人は一瞬口元に笑みを浮かべる。
「いらっしゃいませぇ。ご注文はお決まりでしょうかぁ」
なんとも頭の悪そうな声で、ゴスロリ・ファッションのウエイトレスがお盆を持ってテーブルまでやってきた。
上司の男は、ムッとした顔でウエイトレスをにらむ。
だが、二度見するほどの可愛さに、「あ、コーヒー三つね」とニタニタ笑いながら指を三本立てた。
女性はハンカチで目元を押さえながら、訊いた。
「それで、孫は懲戒免職を免れますのでしょうか」
「もちろんです。お金さえ用意できれば、彼の処罰も穏便に済ますことができますから」
「ありがとうございます。本当に感謝いたします。それではこれを」
女性はバッグの中から、銀行の厚い封筒を差し出した。
上司の男が受けとろうとした時、「おっ待たせいたしまし――アッ!」
コーヒーを運んできたウエイトレスは、つまづいてコーヒーを上司の男の膝へぶちまけてしまった。
「いやぁん、ごめんなさぁい」
ウエイトレスはあわてて持参していたおしぼりで、上司の男の膝辺りを拭く。
「い、いや、大丈夫、熱いけど大丈夫。それよりおばあちゃん、我々はすぐに社にもどりますので」
テーブルに置かれた封筒をつかむと、弁護士の男とともに急いで席を立つ。
弁護士の男は財布から一万円を抜き取り、テーブルの上に置いた。
「どうか、よろしくお願いいたします」
老婦人は逃げるように去る男二人に頭を下げた。
「あ~あっと。帰っちまったかい」
ウエイトレスがキャピキャピの声から、しわがれた男性の声に変えて言う。
老婦人は驚いて、ゴスロリの制服を見上げた。
「ばあさまのう、ありゃ振り込み詐欺ってえ、チンケな野郎たちじゃあ」
「ええっ!」
「ダメだいなぁ、簡単に人を信じちゃ」
「あ、あのう、あなたはいったい……」
「わしかな。わしゃあ年金生活者じゃわい。ああ、それとこれのう」
ウエイトレスは制服のお腹部分から、先ほど男たちがあわてて持っていったはずの、銀行封筒を取り出した。
老婦人はまるで狐につままれたような表情で、その封筒を見つめる。
「あやつらが持って行ったのは、わしがこっそりすり替えた生ごみの袋じゃわい。
こんな手品は、わしには造作もないことじゃで。
そうそう、一万円はアンタのお駄賃じゃ。しまっておきなされ。
わしがもう少し若ければ、あんなやつらは容赦せんのじゃがな。
それにしても、セコイ盗っ人ばかりの世になってしもうたなあ」
「あの、あなたは本当に女の子? それとも」
「わしゃあ、この日雇い労働が気に入っておるでな。内緒じゃぞ。
むろん男じゃわいな。一度やってみたかったんじゃあ、女給さんとやらを。
どうじゃな、どこからみても若いイマ時の娘に見えるじゃろ。
フフフッ、変装をさせたらこのわしに右に出るのは、明智くんくらいしかおらんでのう」
怪人二十面相はニヤリと笑うのであった。
皆さまも、くれぐれも振込詐欺にはお気をつけくださいまし。
さ、今日もカクヨムさまのチェックからスタ~ト♪
あ、「面妖な金属男」にレビューとお★さまをいただいております!
@ottomanさま、
どうも初めまして! いきなりこんなお話で、眩暈とか大丈夫でございましたでしょうかしら。お★さま、とっても嬉しい♡
わざわざご覧くださり、誠にありがとうございます!
いただいたお★さまを糧に、精進して参ります。
心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!
くさなぎ そうし さま、
年末ご多忙な時期にお目通しくださり、またレビューまで頂戴いたしまして誠にありがとうございます!
常に陽気、と申しますか、ノーテンキなキャラクターでございます。
お褒めくださり、嬉しい♡
タマサブ出演の物語は長編でございますゆえ、ご覧くださるおかたが少のうございますの。シクシク……
でも元来わたくしもノーテン、いえ陽気な乙女ゆえ、めげませぬ。
心より御礼申し上げます♬
あ、「THE☆騎士MEN」にお★さまをいただいております!
@ottomanさま、
まあ! 連続でご覧くだすったのですわね♪
しかもお★さままで頂戴して、つばきは感激でございます♡
長編物ゆえ、なかなかご覧いただけないのです。
心より御礼申し上げます♬
ま、「夜空いっぱいのシューティング・スター」にレビューをいただいております!
山下ひろかず さま、
師走真っ只中の折にお目通しくださり、またレビューまで頂戴いたしまして誠にありがとうございます!
お★さま、三つもいただけて嬉しい♡
ここ一番の見せ場には、きっちりと仕事をこなす親っさん。そんな姿はちゃんと描けておりましたでしょうかしら。
サンタさまは、いつだってお子さまの味方、ですわね。
心より御礼申し上げます♬
鶯ノエル さま、
キャ~ッ、ノエル先生御自らお出ましくだすったわ~!
ホラー界に殴り込みをかけられ、大成功なさっていらっしゃる先生にレビューをいただけて、嬉しい♡
クリスマスに得意の猟奇モノをば、と描いていくうちに、またしても路線があらぬ方向へ行ってしまいましたの。
年に一度のクリスマスでございます。たまには、つばきもこんなお話を描くのかとお笑いくださいませ。うふふ♡
心より御礼申し上げます♬
ま、「予想外な涼ノ宮兄弟」にレビューを頂戴しております!
山下ひろかず さま、
続けてご覧くださり、本当にありがとうございます!
ええ、わたくしは何度も申し上げておりますのよ。今作は純文学を描くつもりであったと。どこをどう間違えたのやら、原因究明いたしますも真相は闇の中、でございます。
深い作品だなんて、嬉しい♡
涼ノ宮弟が大学で遭遇いたしました件は、11/2の「ハッピー・デイ」なる近況ノートに詳しく♪
心より御礼申し上げます♬
ま、「猟奇なドール」にレビューをいただいております!
あたさま、
どうも初めまして! 年末のお忙しい時期にお目通しくださり、またレビューまで頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
あらま、「猟奇なガール」もご覧くだすったのでしょうかしら。
ありがとうございます、嬉しい♡
つばめちゃんは漫研部員でございますゆえ、そちら方面のお友だちはいるようですわ。どちら方面?
最凶ヒロイン、いただきました♪
心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!