さあ、今年もいよいよカウントダウンだわ。
え~っと、大掃除は今のうちから手をつけませぬと、なんと申しましてもお屋敷が広うございますゆえ。
あ、そうそう。わたくしったら、失念しておりました。
愛用の腕時計をオーバーホールしておりましたのよね。
わたくしは、町内にございます時計店へ向かいました。
ご存じかしら。おフランスの高級ジュエリーのブランド、『CHAUMET(ショーメ)』。
腕時計も取り扱っておりまして、わたくしは「ジョゼフィーヌ」と呼ばれるタイプを愛用しておりますの。
お値段? おほほっ、お調べになってくださいまし。
と、いったいどなたにお話し申し上げておりますのか、気づけばお店に到着です。
小さな店舗の中にはショーケースには腕時計、両サイドの壁には掛け時計がチクタクと時を刻んでおります。
店の奥では、その道五十年の職人でいらっしゃいますご主人さまが机に向かわれており、ライト付きのヘッドルーペを頭に装着されて細かな作業をされておいでです。
「こんにちはぁ」
「……うん? ああ、高尾さん、できてるよ」
ご主人はヘッドルーペを持ち上げて、わたくしに微笑みます。
机の上にある棚の引き出しから、小さなトレイに乗せた腕時計を丁寧に取り出されました。
通常このような舶来製品は、町の時計店では修理を拒まれます。
ところがこのご主人さまは時計に関することであれば、どんな製品であろうと修理なさいます。
まさに職人さまでございます。
わたくしは久しぶりにジョゼフィーヌを腕にはめました。
キーッと入り口ドアが開かれる音。
「うっへっへっ~っと」
なにやら気色の悪い、多分笑い声だと思われますが、わたくしの後方から聴こえました。
わたくしは肩越しに切れ長二重の目を向けました。
思わずのけぞります。
いえいえ、妖魔とか宇宙人ではございませぬ。多分……
その前に、わたくし宇宙人なるおかたにはご面談したことはございませんのですけど。
入ってこられたおかたは、体型から殿方かと思われます。
ただ恰好が、すこぶる変なのです。
まず、クリスタルに輝く御髪(おぐし)を “ 一・九 ” に分けられております。
しかも、その “ 一 ” のほうのきらめく御髪は肩まで伸ばされておられますの。
お顔つきは、潔いほど平坦。
千年ほど前のご先祖さまのように、のっぺり。
産毛のような薄い丸い眉、線で引いたような両目に鼻、お口。しかも小さな鼻の穴から鼻毛が顎先まで伸ばされ、呼吸のたびに揺らめいております。
ひょろりとしたお身体には、生成りの四角い布を縫い合わせて袖部分の穴を開けたような上着を荒縄でお腹をギュッと絞めておられます。ジャングルに潜むにはうってつけかと。
膝から下は素足にクロックスをお履きに……いえ、そんなサンダルではございませぬ。
だって床から十センチほど浮いておられますもの。
リニア・モーターカー?
「ご~主人さ~んっと。修理は~、で~きましたか~?」
イラッとするイントネーションで、そのおかたはすべるように近づいてきました。
ヒエ~ッ! ちょっと、いえ、かなりコワイ!
「ああ、いらっしゃい。在り合せの部品で充当したけど、治ってるよ」
「そ~れは~、助か~ります~」
「ええっと、これだな」
ご主人さまは引き出しから小さなトレイを取り出され、懐中時計を手にされました。
「あ~りがとう、ご~ざいます~。うっへっへっ~っと」
殿方はふところから布袋を取り出し、「え~っとお、こ~の時代のお金~は」
は? この時代の?
「ちゃ~んと両替してき~てますか~ら、大丈夫で~す」
言いながら、紛れもない本物の日銀券を取り出され、支払われました。
「そ~れでは、あ~りがとうご~ざいます~」
殿方はお立ちになったままの姿勢で、またしてもすべるように出て行かれました。
「あ、あの、ご主人さま」
「なにかな」
「今のおかたって」
「さあなあ。三日ほど前に店に来てさ、なんでも使っているタイムマシンの調子がおかしいから診てくれってな」
「え~っと、タ、タイム、マシン、でございますか?」
「うん、そうさ。まあ、初めて触ったけど。なんとか修理できたよ」
ご主人さまは、何でもないことのようにおっしゃいました。
「タ、タイムマシン、でございますわよね」
「うん? そうさ。時計に関することならどんな代物でも修理する。それがプロ、ってこったね」
わたくしは唖然とするとともに、先ほどの未来、ええ、間違いなく未来から旅行に来られたおかたを思い出します。
文明は発達いたしましても、姿かたちはむしろ古(いにしえ)の頃にもどっておりますのでしょうか。
首を傾げたまま、わたくしは時計店を辞去いたしました。
は、カクヨムさまをば、うっかりチェックし忘れるところでございました。
あ、「夜空いっぱいのシューティング・スター」にレビューをいただいております!
楠 秋生 さま、
大変ご無沙汰いたしております~! 年末のお忙しい時期にわざわざお目通しくださり,まレビューまで頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
綿密に練られた奇抜な設定、などとお褒めくださり嬉しい♡
クリスマス物語ゆえ、破天荒さは控えめにいたいました。
猟奇の濃度がアップいたしますと、ハッピーなお話にはなりませんものねえ。
心より御礼申し上げます♬