町内にございます、写真館。
現在は二代目のご主人さまが、お店を経営なさっておいでです。
昔は、それ子供が生まれた、やれ七五三だ、入学式だ、成人式だなど、その度にお店までいらっしゃるお客さまが多かったなどと、御主人さまは懐かしむように時おり口になさいます。
ご主人さまはいつもベレー帽をお被りになり、白いシャツに蝶ネクタイがトレードマーク。
もうとっくに還暦は越えられているはずでございます。
そのモダンなご主人さまから、「店のショウウインドウに新しく写真を飾ろうかと思っておりましてね。それで、差し支えなければ高尾さんにモデルをやってもらえないかなあ」
などと言われまして。
あら、わたくしなどでよございますのかしら、おほほっ、さすがはプロの写真家でいらっしゃるわぁ。
それで本日、わたくしは紅葉柄の単衣(ひとえ)の秋らしゅう和服姿でお店へおうかがいしておりますの。
まあご町内のよしみでございますし、やはりモデルともなれば写真映えいたします、このわたくしをおいてはそうそうおられないですものねえ。
撮影スペースはお店の奥にございます。ご主人と挨拶をかわしました後、そちらへ案内されます。
白い壁の前にはブルーのバックペーパー、撮影ライトが設置されております。
一脚の背もたれイスが置かれておりまして、ご主人さまから座るように指示を受けました。
わたくしは背筋をピンと伸ばして腰を下ろします。
口角を上げ、自然な笑みを口元に浮かべました。普段からこのような表情に慣れておりませぬと、出来上がった写真はどこかぎこちなくなりますもの。
ご主人は「いいですねえ、うん。ではまず何枚か撮りますよ」と言われ、三脚に載せたデジタル一眼レフカメラのシャッターをお切りになります。
……あら、少し肩が重い。
わたくしは連日の深夜徘徊で疲労が蓄積しておるのかしら、などと少し肩を回して再度レンズに切れ長二重の目元を向けました。
デジタルカメラでございますゆえ、すぐにその場で確認ができるそうでございます。
ご主人はお撮りになった画像を液晶画面に写しだされ、撮れたてのわたくしをチェックされております。ところが、途中から眉間にしわを寄せられ、首をかしげていらっしゃるの。
ご主人はそのままわたくしの座る椅子の背後に周られ、壁やバックペーパーを念入りに見られます。
「どうか、なさいましたかしら」
「いえね、なんかわからないんだけど、写真に異物が写ってしまって」
「異物?」
「いや、多分光の加減でしょう。さあ、ではもう一度お願いします」
それからまた撮影開始です。カシャッ、カシャッと小気味よい音が響きます。
ご納得いくお顔でご主人はひとつうなずかれますと、写真を液晶画面でチェックされます。
ところが、またしても首をかしげられておられるものですから、わたくしも気になりまして椅子から立ち上がりました。
「いかがされましたのでしょう」
「う~む、これはいったいなんでしょうなあ」
ご主人がカメラの液晶画面を指さされます。
どれどれ、とわたくしは失礼して大きな両目をさらに広げて見ます。
「アッ!」
わたくしは、思わず声を上げてしましました。
液晶画面には、わたくしの艶やかな姿が写しだされております。自分でも驚くほどの器量よしに写してくださっております。ま、モデルがモデルですものね。
ところが、ところがでございます。
わたくしの肩に、人間の影が写しこまれているではありませんか!
し、心霊写真……
思わず腰を抜かしてしまいそうになり、もう一度よ~く見つめます。
その影は、なにやら烏帽子を頭に乗せ、和服を肩まで袖まくりしてVサインをだしているのでございます。
はい、もうお気づきですわね。わたくしの守護霊さまでございます。
道理で肩が重いと思いましたわ。
わたくしは少し席をはずしまして、お店の裏側へ回ります。
すぐに守護霊さまをば呼び付けまして、コンコンとお説教してやりましたの。ええ、そりゃもう言葉の暴力なんてものではございませぬ。ヒーヒー泣かせて差し上げました。
守護霊さまはショボンとうなだれたまま、霊界へもどっていきましたわ。
もちろんその後は、すんなり撮影は順調に行われました。
ですからこの町内にお越しの節には、どうぞ写真館にお立ち寄りくださいまし。わたくしのカラーポートレートが、デンと飾られておりますゆえ。
撮影も無事に終わりまして、わたくしはご主人さまと談笑いたしながら、出されました緑茶をいただいております。
ご主人さまがお席をはずされるやいなや、わたくしは袂からスマホを取り出しましてカクヨムさまを、チェックです。
あ! 拙作「【閲覧注意】! スペクター・キャプター」にまばゆきお★さまが点灯いたしておりまする!
伊藤愛夏さま、
愛夏り~ん、お忙しい中わざわざご覧くだすって、しかもお★さままでいただけるなんて、誠にありがとうございます!
今作は、遠い遠い人里離れた山の奥に、いつの間にやら埋められておりましたの。悪霊とロックバンドの組み合わせが悪かったのかしら……
このお話はそれぞれを分解したほうが良かったのかも、ですわねえ。
ですから愛夏りんが読んでくだすって、本当に嬉しい♡
心より御礼申し上げます♬