狼男の喰いしばった口元が、ミリッミリッと不気味な音を立てながら伸び始めております。
その間に、背骨も弓のように反り、むき出しの腕も変形しつつございます。
変身には、死ぬほどの激痛が襲うと聴いたことがあります。
確かに狼男は窪んだ双眸を固く閉じ、血の涙をあふれさせております。痛そう……
「ホッホウ、CG映画ミタイ、デスネエ! ファ~ンタスティ~ック!」
「し、神父! 早う早う、なんとかいたしませぬと!」
わたくしは岩肌に掴まったまま、クラウス神父に叫びます。
「オウッ、ソデシタ、ソデシタ」
言いながら降ろされたバッグに手を突っ込み、なにやらお探しの様子。
「銀の弾丸ですわね!
西洋の化け物には致命的な攻撃を与えることができますもの」
「ウンニャア、違イマ~ス、ツバキチャ~ン」
「――え?」
「イヤ、持参シテタンデスヨ。トコロガドッコイ、没収サレチマッタノヨ~ン」
「よ~んって……」
「ワッハッハ~ッ! ポーランドノ税関デ、見ツカッチャッタノデ~ス、拳銃ガ。彼ラノ目ハ、ヤハリ、節穴ジャナカッタワサ~」
「わさ~は、よございます! 銀の弾丸がなければ、わたくしたちも狼男の餌食にっ」
「大丈夫、大丈夫デスネ。ドロ舟に乗リ込ンダツモリデ、ド~ント、オ任セアレ~」
「いやいや、泥舟って、沈んでしまいますう~っ!」
クラウス神父はニヤケた笑みを浮かべたまま、バッグから手を抜きましたの。
その手には野球ボールが握られておりました。
「……少し、おうかがいいたします。よもや、そのボールを狼男にぶつけるおつもりなのかしら?
え~っと、確かに当たれば痛うございます。でも、それだけ。
頭にコブをこさえた狼男は、痛みで逆上するのみですわ~!」
わたくしは、ガクッと頭を垂れ、力なく左右に振りました。
ああ、異国の地でわたくしは骨となるのね……
「ウヒャヒャッ。ジャア、イックヨ~ンッ」
クラウス神父は大きく振りかぶって、そのボールを投げました。
ところが、ボールは狼男の遥か上空へ弧を描いて飛んでいきいます。
ボールすらもまともに当てられないのかいな、オイ、などとちょっぴり関西風のツッコミを入れるわたくし。
その時です。
狼男の上空でポフンッと頼りない音で破裂いたしましたボールが、なんとしたことでしょう、ブワッ! と凄い勢いで広がったのです。
まるで漁船から投網を波間に投げましたような、そんなイメージでございます。
しかも広がった不透明膜は空中で停止したまま、さらに広がるのです。
「ああ、月が!」
わたくしはその様を見ながら叫びました。
膜は狼男に降り注いでおります月光を、遮断していたのです。
ビクッ!
狼男の肉体が大きく動きます。生えかけておりました獣毛、歪に変形していく肉体に異変が起きたようです。
浴びておりました月の光を遮断され、変身が途中で止まったのです。
「クラウス神父、これは!」
「ムッフフフ~ッ。イイデショ、コレ、ソレ、アレ?
バ〇カン情報部ノ技術班ガ開発シタ、遮光膜ダヨ~ン」
「こ、これなら狼男を人間体として捕獲――」
あら、ヘルメットのゴーグルの端に、見えてはいけない光がチカリと。
ふり仰ぎますれば、膜はヒラヒラと浮遊しておるのですれど、一部にほころびがあり、そこから月光が差し込んでいるではありませぬか。
完全に人間体にもどった狼男の身体に、再び魔界の光が変身をうながします。
肉体がまたも音を立てて、歪に曲がり出します。
ところが風の具合か、ふとほころびが塞がり、光を遮断いたしましたの。
狼男の身体はまた音を立てて、人間体にもどっていきます。
はっ! またほころびが開いた!
で、また狼男の身体が変化していきます。
と、申しますか、これが延々と続いていったのでございます。
結局、狼男は人間の肉体と、怪物の身体へ行ったり来たり。その度に憐れになるほどの激痛にさいなまれたようでございます。化け物の咆哮から、人間の悲鳴に変わっていきました。
最後なぞ、とうとう岩肌から転がり落ち、わたくしたちに土下座しながら泣き叫びましたの、狼男が。
頼むからどっちかにしてくれと。こんなに秒単位で変身したり戻ったりする時の激痛が、アンタらにわかるか、と。
己の大罪を棚に上げて訴えます。
まあ、それで結局狼男はわたくしたちにお縄を打たれてチョンでございました。
ただ、クラウスさまが持参いたしました遮断膜は、まだ開発途中の段階で、こっそりくすねてきていらしたようなのです。
ですから、未だに回収できないまま、あの異国の地にて浮遊したままらしゅうございます。
回顧話にやや喉が枯れ気味のわたくしは、用意してありますアイスティをば失礼してと。
さあ、カクヨムさまのチェック・タイムよ。
あ、拙作「ひねもす漫研、オタクかな」にレビューをいただいております!
平原志恩 さま、
いえ、しおんちゃん。お忙しい御身でありながらご覧くださり、レビューまで。誠にありがとうございます!
ええ、これは私小説。97%は事実でございます。3%ほどチョッピリ脚色いたしておりますれど。うふふ。
世界を救う! もしかしたら、本当にわたくしたちが知らぬ間にした行為が、そうなってるやもしれませぬ。ただ、逆の場合、ちと想像したくございませんわねえ。
深く深くお読みくだすって、嬉しい♡
心より御礼申し上げます!
ま! 拙作「猟奇なガール」にお★さまと、レビューを頂戴いたしております。
@NAAAAさま、
どうも初めまして!
この度はお目通しくださいまして、誠にありがとうございます! いただいたお★さま、つばきは大事にいたす所存でございます。
猟奇な世界はいかがでしょうかしら。年に一度くらいはこの世界にいらしていただけたら嬉しい♡
心より御礼申し上げます!
今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます♬
平原志恩 さま、
しおんちゃん、お時間いただいて恐縮でございます。レビューまでいただいて誠にありがとうございます!
猟奇、と申しましても、やはり乱歩先生の前では霞んでしまいます。
つばめちゃんはいつだってポジティブ・シンキングの女子でございます。すこ~しだけヤバいかもしれませぬ。
人を想う心、百人百様でございますわねえ。でもちょっと引いてしまいますでしょうか。うふふ♡
心より御礼申し上げます♬
あらま! 拙作「トリック・トリップ 無限大」にレビューをいただいております!
(13)ひとみ さま、
いつもいつもご贔屓くださいまして、誠にありがとうございます!
この物語、すっかりジュラ紀あたりの地層まで沈んでおりましたの。
ですから、喜びもひとしおでございます♡
どこまでお話を広げたものかと、試行錯誤の末に今の形に落ち着きましたの。もっと広がる内容かもしれませんわね。ただ、わたくしの力が及ばず、でございました。
心より御礼申し上げます♬