わたくし、コロッとすっかり忘れておりました。
何かとお訊きですのね。
いえ、あまり思い出しとうない人物のことでございます。
はい、以前バ〇カン法王庁より日本へ遣わされました、エクソシトのクラウスさまのことでございますわ。(9/20「お出迎え」ご参照くださいまし)
高野山へお送りしました後、わたくしは逃げるように帰って参りましたゆえ、その後どうなさったのやら。
クラウスさまはエクソシトとしましては超一流、それはわたくしも認めざるを得ませぬ。何度か悪霊や妖魔退治にご一緒いたしました。
クラウスさまの使われる法力は神より与えられし、絶大なパワーを持っております。
ただ、ただ、あのおかたは、人間としての品性や思考にわたくしとは相容れぬ要素が、多分に見受けられますの。
ですから討伐ではこれほど強い味方はおりませねど、昼夜を共にいたす時には、わたくしはなるべく離れて行動いたすように心掛けております。
そう言えば、たしか数年前のことでございます。
東欧、ポーランドの片田舎で “ 狼男 ” が出現し、残虐非道な行為によりある村が壊滅状態に陥ったことがございます。
わたくしは〇ーマ法王より、直接討伐依頼を受けました。
ただその時に、こともあろうかクラウス神父(あ、一応神父さまなのですわ、一応)と同行いたすことになりました。
旅の途中のことは省かさせてくださいませ。
思い出すなり、失神すること必然でございますゆえ。
それで、山に逃げ込んだ狼男を二人で追いつめました。
ご存じのように、狼男は月の光を浴びて、人が醜き半獣半人の化け物に変身いたします。
いったん変身いたしますれば、その力は悪魔の後ろ盾を得たかのように、並みの人間には到底太刀打ちできませぬ。
わたくしは対妖魔用の、真紅のボディアーマーを装着いたしまして追いかけておりました。
一方、金髪碧眼のクラウス神父は、ヘヴィメタルバンドのド派手なTシャツに革のパンツ姿で、信者さまたちが見ますれば卒倒しそうなカジュアルかつラフスタイルでございました。
唯一、胸元には手のひら大のクロスを下げられておりますのが、かろうじて神の使いである証。
しかも背なには蛍光色のバッグ。まるでピクニックにいくみたいだったのです。
森を抜けますと、鋭角の岩山が大小連なる危険な場所でございました。
ありがたいことに、夜の帳が完全に下りておりますのに、月は雲が隠してくれておりました。
追いかける我々の百メートルほど先の岩肌を、変身前の人間体で狼男が駆け登っていくのが見えます。
上半身は裸で、破れかけたジーンズに裸足。ところがまるで獣が四足で走るように岩肌を登って行っているのです。
わたくしのブーツは筋力を数倍アップする機能があり、狼男との距離を縮めていったのでございます。
「お待ちなさいなっ!」
わたくしは岩壁に手を駆けながら、二十メートルほど上を行く狼男に鋭く叫びました。
狼男は変身前とはいえ、ボサボサの砂色の髪を振り乱し、真っ赤に充血した光る双眸で岩肌を登りながら振り返ります。ちょっとコワイ。
グワォォォォンッ!
その声は、もはや人間のそれではありませぬ。
直後、わたくしの被るヘルメットのゴーグルが、いやな光を感知いたしました。
月です。いい具合に厚く隠していた雲が、狼男の遠吠えに反応するように切れていくのです。
「あっ、やべっ!」
わたくしの口から普段では、けして出ない言葉がついポロリと。
月が蒼い光を投げながら、ゆっくりと姿を現していきます。
ビクン!
狼男の身体を魔界より発せられた光が包み始め、カタツムリが這うようにその全身を月光が舐めだしたのです。
ビクン!
狼男は人獣に化身しようと、むき出しの肌が波打ち始めました。
「チッ、マージでやべえじゃん。あっ、ところで神父はどこいってんのさ! こんな時にっ」
などと口にした、ちょっぴりお下品な言葉を思い出します。
ザワザワッ、音を立てるように狼男の肌に真っ黒な獣毛が生え始め、顔面がゴキュッゴキュッと歪に変形しだしております。
いくらボディアーマーで身を鎧っているとは申せ、上からいきなり飛びかかられましたら、さすがのわたくしでも命にかかわります。
その時です。
わたくしが登り始めた岩肌の、はるか後方の森の中から、明らかに人を小馬鹿にしたような声がかかりました。
「ウワ~ォッ! イヤイヤ、モシカシテ、ヘーンシン、シチャウノカナ? エッヘッヘ~」
「ク、クラウス神父! 何を呑気におっしゃておいでですの! 早くおいでくださいまし!」
「アッハッハ~、ツッバキチャ~ン、OK、OKヨゥ」
わけのわからない高笑いを上げ、クラウス神父はクチャクチャとガムを噛む口元から真っ白な歯を見せまして、背負っておられたバッグを下ろされたのです。
つばきや、いかに?
などと相変わらずの独り遊びをいたしながら、カクヨムさまをチェックいたします。あ、でもそれほど寂しがり屋さんではなくってよ。
まあっ、拙作「予想外な涼ノ宮兄弟」にレビューをいただいておりますわ!
七柱雄一 さま、
ご無沙汰いたしておりまする。この度は大事なお時間を割いてくださり、誠にありがとうございます!
コメディ……今となりましてはもはや手遅れでございますれど、本当は純文学を目指した物語でございましたのよ。ええ、マジで。
わ、わたくしは執筆いたします際には、きわめて姿勢よく、まるで教育番組の「今日からあなたも小説家」コースでモデルを務めるような、キリッと背筋を伸ばした姿勢でPCに向かっており、おりまする。ええ、おりますとも。間違っても悪霊が憑依したような奇怪な姿で執筆はいたし、いたしておりませぬ! た、多分、でございます。あまり自身の執筆中のスタイルは、気にしたことがございませんでした。
はっ! よもや、愛一郎兄の執筆スタイルは、無意識のうちに自身の恰好をば投影いたしておりましたのでしょうや……
え~っと、気を取り直しまして。
心より御礼申し上げます♡
ちょっと化粧台の位置をずらして、確認いたしませぬと……