草木も眠る丑三つ時、わたくしはリビングでそのお客さまのお話をうかがっております。
怪談師の蛇骨亭雨賛狗斎(じゃこつてい うさんくさい)先生が、対面のソファに腰を下ろされていらっしゃいますの。
トレードマークの口ひげにボサボサのヘアスタイル。真昼間であってもコワいご面相です。
紺色の作務衣をお召しになり、上目づかいにわたくしをねめ上げるような目でじっと見つめられます。
いやいや、そのご表情だけでも充分コワいわ。
『このお話はね、アタシがたまたま入った路地裏の古びたバーでね、そこのマスターから聴いたんですな。
マスターは、今からお話しする内容はけして口外しないでくれ、なんていうんですよ。
どうやら本当にあったお話で、口外しちゃうと不幸が絶望を背負ってやってくるからね、ってね。
アタシも商売柄、そんな話はいたるところで聴いてますんでな。その時は、「はいよ」、なんて気軽に返事したんですなあ。
季節は、そう、街がにぎやかなるクリスマス・イブの日ですわ。
街は華やかな音楽や大勢の人たちが独特の喧噪をかもしだし、きらびやかな電飾がお祭りを盛り上げていたんです。
コートをまとったひとりの若い女性が、寒そうに両手を組んで街中を歩いておった。
恋人と喧嘩でもしちまったのか、その表情は悲しげで涙を必死でこらえているかのよう。
街のざわめきから少しでも遠く離れたい、そんな歩きかたであった。
フワリ……小さな雪片が彼女の長いまつ毛に引っかかった。サンタさんがカップルたちにプレゼントするかのように、雪が舞い始めたわけです。
女性は繁華街を抜けていく。人通りが徐々に少なくなっていく。
喧噪や灯りを背に、降りかかる雪からも逃れるように、ひたすら
進んでいくんですな。
すれちがう人もパッタリとなくなった路地裏。少し先へ行くと、電車の高架下にさしかかるって時です。
女性の潤んだ瞳に、ポッと灯りが写ったと思ってくださいな。
誰もいないはずの高架下に、小さな机に蝋燭を灯して誰かが座っているのが見えたんです。
女性は一瞬立ち止まり、このまま進むか引き返すか躊躇した。
でも、あのきらびやかな世界へはもう戻りたくない。で、そのまま顔を伏せ高架下を通り過ぎようとしたんですよ。
「お待ちなされ……」
ハッと女性は身をすくめて歩を止めます。
「怖がりなさるな。この婆はただの占い師じゃ」
女性は顔を伏せたまま、少しだけ頷いて通り過ぎようとしたんです。
「今夜はもう店じまいじゃ。そうそう、今宵はクリスマスとかいう西洋の祝い日じゃでな。
特別にあんたを占ってしんぜよう」
女性は小さく首を横に振ったのです。
「なあに、心配はいらぬ。婆からのプレゼントじゃ。お代は一切とらぬわいな」
そこまで言われたら観てもらうしかありませんわなあ。
女性はおずおずと、占い師の前にある小さな椅子に腰をおろしたんです。
占い師の老婆は黒いフードを被り、西洋の魔女のような鉤鼻にしわだらけの顔が蝋燭の灯りに揺らめいておるんですな。
コワいなあ、コワいなあ、っと女性は周囲に目だけを動かしながら身体を震わせておった。
老占い師は手元に大きなルーペを持って、ジーッと彼女の顔を見つめるわけです。老婆の大きな目だけが飛び出してきそうにこちらからは見える。
フーッと大きなため息が老占い師の口から漏れた。
「大変じゃったろう、お嬢さんや」
「……」
「わしにはわかるぞよ。それでじゃ。おまえさんにもうひとつだけプレゼントを進呈いたそうかの」
ルーペを置いた老婆は、小枝のような細く長い指で高架下の先をさしたんです。
「ここをまっすぐ行きなされ。しばらく行けば、右手に小さな教会が見えてくるわな。
その教会の中で、お嬢さんを待っておる人がいるはずじゃ。これからは、幸せになるんじゃぞい」
女性はとまどいながらも立ち上がり、老婆が指し示してくれた方向へ足早に歩いて行ったんですわ。
えっ、いいお話でしたって。いやいや、まだ続きがあるんですよ。
女性が去った後、老占い師は再びため息をそっと吐いたんです。
「これで、またひとり救われるわい。じゃが、わしは鑑定料がもらえんからのう。
かと言って、よもやさまよう霊魂から銭は取れんわいなあ」』
ゲッ! どういうことかしら……
教会で待っていらっしゃるっておかたは、霊を天へ導く――
ひゃあっ、なぜコワガリのわたくしに雨賛狗斎先生は怖いお話を、しかもこのようなお時間にされるのよ!
コワくなってソファのクッションに顔をうずめるフリをしながら、カクヨムさまをチェ~ック。
あ、拙作「予想外な涼ノ宮兄弟」にレビューとお★さまをいただいておりますわ!
まとりくれあさま、
この度はお時間を頂戴し、ご覧くだすった上に素敵なレビューをいただきまして、誠にありがとうございます!
魅力的だなっておっしゃってくだすって、嬉しい♡
巻き込まれてお身体は大丈夫でいらしたかしら? 心配です。
愛一郎兄は常に尋常ならざる鍛えかたを、多分いたしておりますゆえお気遣いくだすってありがとうございます。風邪とは無縁の青年、だと思います。うふふ。
心より御礼申し上げます!
今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます♬
本田玲臨さま、
初めまして! この度はご多忙の中、わざわざお目通しくださり、その上きらめくお★さまを頂戴できありがとうございます!
見かけ同様ナイーブなつばきではございますれど、これで元気百倍でございます。
心より御礼申し上げます!
今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます♬
@kuronekoyaさま、
この度は数ある物語の中から、拙作を抽出くださり、また温かなお★さまを付けてくださり、誠にありがとうございます!
今でこそ猟奇ストなどと名乗ってはおりますれど、本来は「夢」「希望」「勇気」をお届けしたく思っておりますのよ。もう無理……
心より御礼申し上げます!
ま! 拙作「猟奇なガール」&「猟奇なドール」にお★さまが!
@kuronekoyaさま、
重ねがさねありがとうございます!
三連読……書き手のわたくしが言うのもなんですが、お身体に差し障りはございませんでしょうか。少しでも異変をお感じの際は、すぐにかかりつけのお医者さまへ、お願い申し上げます。
でも嬉しい♡
心より御礼申し上げます!
今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます♬