『そのおかたは、わたくしがお弁当棚前でしゃがんでおります手前まで、足早に近づいてこられました。
もちろんわたくしはすぐに立ち上がりまして、大きなお声で「いらっしゃいませ~!」とご挨拶。
しようとしたのですよ、もちろんですわ。
ところが、しゃがんだ体勢からいきなり立ち上がったものですから、
いわゆる立ちくらみに襲われてしまいましたの。
ご経験おありでしょうか、立ちくらみ。
目の前が瞬間暗くなり、フッと意識が身体から離脱していきます。
ははあ、これが立ちくらみってことね。
わたくしはその黒いフルフェイスのヘルメットを被ったお客さまの方向へ身体が傾くのを、なにやら天井から見ているような錯覚を覚えました。
その直前にお客さまが、たしか、「カネダを酢~!」などと意味不明な言葉を割と大きなお声で叫ばれたことは記憶しております。
カネダを酢? はて、なんのことやらサッパリ見当がつきません。
もしやカネダさまとおっしゃるおかたで、夜中に三杯酢をお作りになるためにお酢を買いにいらしたのかしら。
ええ、これはあとからそう思ったのです。
その時は意識が飛ぶ瞬間でございましたゆえ、カネダを酢、というあまりにも印象深いお言葉だけが記憶されておりました。
いえいえ、それよりもわたくしはお客さまに対しまして、とんでもない事をやらかしてしまいましたの。
つばめは大きく反省しておりまする。シュン。
フラリ、とお客さまの方向へ身体が傾いた時に、わたくしは本能からでしょうか、両手を突き出しました。
しかも片手にはキムチの入りましたタッパー、もう片方にはイージーシーラを持っておりました。
無意識のうちに、ええ、本当に無意識ですわよ。
イージーシーラーでフルフェイスのシールドを突き破り粉々に砕きまして、倒れ込む勢いでキムチをヘルメットの中、つまりお客さまの顔面へぶちまけてしまったのでございます。
そのうえお客さまを抱え込むように、床の上に転がってしまったのです。
絶叫が遠くのほうから聞こえます。
ええ、実際はわたくしの耳のそばでお客さまが叫ばれていたのですが、ほら、わたくしは立ちくらみで意識が遠のいておりましたゆえ。
その時のお客さまの心中をお察しいたしますわ。
いきなりヘルメットの中にキムチを汁ごと入れられらしたのですもの。目や鼻、お口はキムチまみれ。
痛いのを通り越しておりますわねえ。
しかもわたくしが両手を抱えて倒れたものですから、ヘルメットを取ることさえできませぬ。
ゴイ~ンッ! 床に後頭部から叩きつけられた音が微かに聴こえました。
ヘルメットをお被りでなければ、被害も少のうございましたのに。
想像なさってくださいな。キムチの入った桶に目を開けたままお顔を突っ込んで、しかも頭を上から抑え込まれたら。痛いわよ~。
本当に申し訳なく思っております。
コンビニへ入店する際に、表に「フルフェイスのヘルメットはお取りになってください」と警告書が貼ってありますのは、まさしくこういう事態を想定されていたからなのでしょうねえ……』
つばめちゃん、危機一髪でございました。
えーっと、わたくしが想像いたしますには、「カネダを酢」なる謎の言葉は、「金を出せ」の聞き違いではないかしら?
コンビニで買い物する際に、ご自身のお名前と購入商品名をお口にされるおかたは、あまりいらっしゃいませぬゆえ。
独り遊びはここまでといたしまして、カクヨムさまをチェック。
あ! 拙作「魔陣幻戯~アイドル志望は時給戦士」にレビューを頂戴いたしております!
夢見るライオンさま、
ご多忙の中、わたくしの一番長い物語をご覧くださり、素敵なレビューまで賜りまして、誠にありがとうございます!
はい、あの姫二郎が珠三郎という役名で出ております。しかも、相当ぶっ飛んだ役柄でございます。あ、でも主役はあくまでも、みやびでございますのよ。わたくしの紡ぐ長編は、いったい誰が主役? とお構いなしでございます。それゆえご覧くださるおかたが少のうございますのかしら……シクシク。
ライオンちゃんの、まねちゃんのようなヒロインを描きたいと思いながら、なかなか上手くいきませぬ。
つ、つばきりすと、でございましょうか。かようなおかたはカクヨム界では極めて希少かと思いますれど、嬉しい♡
心より御礼申し上げます!