午後のひとときを、今日は読書タイムに当てております。
久しぶりに、日野日出志先生の「羅生門の妖怪」を、いつものように定規と分度器、それと計算尺を片手に拝読中。執筆室の高級デスクに向かっております。
「この首の角度は……三十二度ね。普通ここまで曲げたら、頸椎がただじゃ済まないわ。それをこの登場人物は、平気であると」
ブツブツと独り言を、桜の花びらのような可憐な口元からつぶやいております。
『これ、つばきや』
「まっ、どなたですの、人が一生懸命漫画を読んでおりますのに」
わたしは顔を上げまして、周囲を見渡しました。
「なーんだ、空耳ね」
再び食い入るように漫画に視線を落とします。
『これこれ、つばきや』
「ったく、しつこうございますわね、この空耳は。
あらっ、空耳と申しますより、頭の中に直接語りかけておいでだわ。いやだっ、とうとう幻聴まで!」
『つばきや、幻聴ではござらぬぞよ』
この粘着質な殿方の声は――
「チッ、あなたさまでいらっしゃいましたのね」
『あ、今、チッと舌打ちされ申したわいな。
守護霊に向かって、舌打ちなど不届き千万であるぞよ!』
はい、そうなのでございます。
わたくしの頭に語りかけておいでになるのは、守護霊さまでございます。
ただ、この守護霊さまは遠いわたくしのご先祖さまでいらっしゃるのですれど……
本来、守護霊さまはその名の通り、正しき方向へ導いて下さるありがたき存在なのです。
「わたくしは今超多忙でございますので、どうぞ霊界へお戻りくださいませ」
『え~っ、そんなつれないこと言わなくてもいいじゃ~ん。
せっかく来たんだからさあ』
これでございます。
パーフェクトに現代語で、しかもノーテンキなタメ口。
わたくしの守護霊さまは、高尾家の「表」に伝わります来歴によりますと、平安時代に陰陽師として数々の妖魔を討伐なさった、とても高尚なおかたとなっております。
でもわたくしは、「裏」の来歴を知っておりますの。
「本日は、ナニ用でいらっしゃいましたのかしら?
まさか、またキャバクラへ連れて行けだの、ガールズ・バーで一杯飲ませろなどと、無理難題をふっかけにいらしたわけではございませんでしょうね」
『ドキッ、つばきちゃんって透視能力とか、読心術まで使っちゃうんだ! スゲー、スゲー』
「あのう、わたくしは乙女でございますのよ。何が嬉しくてそのような場所に出向かねばならぬでありましょうや」
この守護霊さま、陰陽師であられたの本当のようなのです。
ただ妖魔が出現すれば、いの一番に逃げるわ、撃退要請があれば体調不良を訴える、もしくはトンズラこくといった、なんとも情けないおかたであられたようです。
つまりは陰陽師の名刺を使ってウマイ汁だけを吸う、ペテン師そのもの。
ああ、何故わたくしのような正義感あふれる乙女に、かような守護霊さまがお付きになられたのか……
『じゃあさ、じゃあさ。フラッと出向いて、見るだけ。絶対にお店には入らないから、見るだけ行こうよう。
なんでもサカエマチの女子大小路にさ、新しいお店が出来たんだって。女の子は選り抜きの超美形揃いらしいんだぜ、そのキャバクラ』
「いったいどこぞで、そのような下世話な情報を入手されておいでなのかしら」
『えっ、だって霊界の守護霊勉強会でさ、み~んな騒いじゃってさ。ツレの連中もさ、結構連れて行ってもらってるってさ。
いいなあ。オレもそういうノリのいい子孫の守護霊になりたいよなあ』
「どうぞどうぞ、わたくしは一向に構いませぬ。守護霊さまがいらっしゃらなくとも、わたくしは真っ直ぐ人の道を歩んで参りますゆえ」
『そ~んな冷たいこと言わないでよう、つばきちゃ~ん。
いや、俺が悪かったって。この通り、謝るからさあ。
もうキャバクラへ行きたいなんて、金輪際申しません!
神に誓って……あっ、俺の場合は守護霊だから、仏さんか。
ってな、ってな、ギャハハハ~ッ!
あっ、ここは笑うトコ。よっろしく~』
はあっ……
わたくしは大きくため息をつきました。これも神の与えたもうた試練と、己を鼓舞いたします。
そんな心境でも、カクヨムさまをチェックする依存症。
あっ! 拙作「明日へ奏でる草笛の音」へレビューをいただいておりまする!
aoiaoi さま、
この度も貴重なお時間を費やしてくださり、また望外なレビューまで頂戴し、誠にありがとうございます!
メッセージ、おわかりいただけましたでしょうか。
これを描きました当時は、まだ熱き魂がわたくしにもございましたの。それが、いつの間にやら……
どこでどう道を踏み外してしまいましたのやら。うふふ。
もう戻れないあの頃。でも、つばきに悔いはございませぬ。
こうしてご覧くださるなんて、嬉しい♡
心より御礼申し上げます!