「ル~ン、ルルルン~♪」
わたくしの気がふれたわけでは、けしてございませんのよ。
秋の爽やかな大気が満ちた庭園を、わたくしは散策しておりますところ。
自然とメロディが、桜の花びらのような可憐な口元から流れ出ておりますの。
まだ紅葉にはなっておりませねど、庭園には様々な樹木が植えられています。
もちろん愛用の水筒をタスキがけにし、喉をうるおすための準備は万端。木漏れ日を浴びながら、森の中をゆっくりと歩きます。
「……タスケテ……ダレカ、タスケテ……」
あらっ、空耳かしら? か細い声がわたくしの耳に。
「……タスケテ……ダレカ、タスケテ……」
また聴こえたわ。
わたくしは、辺りを切れ長二重の目元を凝らしてうかがいます。
変ねぇ、どこにも誰もいないみたい。
「ソコノ、オカタ……ワタシハ、ココヨ……タスケテ」
「えーっと、お声は聴こえますれど、お姿が見えませぬ」
わたくしは手のひらを目の上にかざしながら、周囲を見渡しました。
「ワタシハ、ココヨ……アナタノ、ミギガワ……キノエダ」
はっ? 木の枝?
若干腰を引きつつ、すぐにクルリと回れ右して逃げ出せるような姿勢で近づきました。
「木の枝は確かにございます。でも蜘蛛が網の巣を張っているだけ……あらっ、小さな蝶々が七色の羽根をばたつかせておりますわ。どうやら、網に引っ掛かっているみたい」
「ソウデス……ソレガ、ワタシ……」
「ま、まさかあ。蝶々がお話しするなんて、ファンタジーの世界ではありませぬか」
「ワタシハ……チョウチョウデハ、アリマセン……ヨウセイナノデス」
「ヨウセイ? ああ、妖精ですわね。あのティンカーベルみたいな」
「アア、クモガ、セマッテキマス! タスケテ」
七色に輝く蝶々のような羽根が激しく動いております。枝の上部から黒い身体に黄色い縞模様の入った蜘蛛が、その妖精目がけて網を伝っております。
わたくし、一度蜘蛛が捕食するシーンを見とうございましたの。
これはチャンス到来♪
「イヤイヤ、ソコノアナタ、ドウカ、タスケテ」
わたくしが舌なめずりしながら観ていることを、敏感に感じ取った妖精が必死に訴えます。
「だってえ、これは自然の摂理でございますわ。弱肉強食って申しますのは」
「ワタシハ、ヨーセイヨ! コンチュージャナイノヨ!」
「わたくしにとっては、どちらでも結構ですの。さあ、蜘蛛さんが迫って参りましたわよぅ」
「ドウカ、ドウカ、タスケテ~!」
わたくしは瞬間に頭の中で計算いたします。
「助けなくも、なくてよ。ただ、人さまにお願いたす時には、それなりのアレが、アレってご存じかしら?」
「ヨクワカリマセンガ、ワタクシガデキマスコトハ、“キン” ヲウミダスコトクライ」
「菌? 助けたわたくしに、何やらおかしげな細菌を感染させようって魂胆かしら。失礼しちゃいますわね」
「ソノ “キン” 、デハナク……ソウ、ゴールド、デス」
「あらっ、金ね。おほほっ。それなら話は別よ。で、どれほどいただけるのかしら」
などと、普段のわたくしには似合わぬ守銭奴ぶりを発揮してしまいましたの。
「リョウテカラ、アフレルホド、サシアゲマス」
わたくしは自分の両手をお椀の形にして、ニンマリといやらしい笑みを浮かべてしまいました。
いえっ、その時はどうかしておりましたのよ。多分デリケートな身体ですのに、太陽の下を歩きすぎたせいね、
長く細い、白魚のようなわたくしの指先。
これをこうしてお椀にすれば、いったいどれくらいの金塊がいただけるのかしら。
そうとわかれば話は早うございます。
わたくしは妖精目がけて下りてきた蜘蛛を、パッチーンと指先で弾きます。ヒューンと弧を描いて飛んでいく蜘蛛。ごめんあそばせ。
地面から落ちております小枝を拾い上げ、妖精の周囲の蜘蛛の巣を払って差し上げました。
フワリ、と妖精は七色の羽根で優雅に舞いながら、わたくしの顔の前に停止いたします。わたくしの親指くらいの大きさです。
しかもオカッパヘアに、真ん丸なお顔。よく見ますれば、メタルフレームの眼鏡までかけておいで。どこかで見たような……
「見つけたのがわたくしで、本当によございましたわ。
命の恩人だなんて、そんな恩着せがましいことは申しませぬ」
言いながら、わたくしはすでに手のひらをなるべく膨らませるようにして、さりげなく差し出します。
「オカゲデ、タスカリマシタ。ソレデハ、オヤクソクノ、“キン” ヲオウケトリ、クダサイ」
妖精の言葉に、わたくしはドキドキしながら自分の手のひらを、穴が開くほど見つめます。
「ドウゾ~!」
妖精は舞いながら小さな両手を握ると、わたくしの手のひらの上で開きました。
「はっ?」
砂粒が大きく見えるほど、小さな小さな金塊が、わたくしの手のひらに現れました。
「えーっと、妖精さま。これは?」
「ハイ、オヤクソクノ “キン”」
「て、手のひら一杯って」
「ハイ、ワタシノ、テノヒラカラ、アフレルホドノ、リョウヲサシアゲマシタ」
「はあ?」
虫眼鏡でも使わねば、見えないくらいの小さな金塊。
ふと顔を上げますれば、すでに妖精さまはどこかへ飛んで行かれた後でした。
わたくしは苦虫を噛み潰したような表情で、カクヨムさまをチェックいたします。やはり、捕食シーンを見るという選択にすべきでしたかしら。
あらっ、拙作「猟奇なドール」と「予想外な涼ノ宮兄弟」にレビューを頂戴しております!
aoiaoi さま、
この度は二作もご覧くださり、また嬉しさに舞い上がるようなレビューをくださいまして、誠にありがとうございます!
キムチは最強の醗酵食品でございますわ。
これからの季節には、キムチ鍋なども美味しゅうございます♬
涼ノ宮兄弟では、いわゆる対極をテーマに描き上げましたの。
どちらの物語もけして万人向けではございませぬ。それゆえご覧くだすって嬉しい♡
つばきは、さらなる猟奇ストに磨きをかけて参ります所存でございます。
心より御礼申し上げます!
拙作「猟奇なガール」にレビューをいただいております!
如月 ちあきさま、
この度はご多忙の中、わざわざご覧くださり、誠にありがとうございます!
猟奇の扉をお開けくださり、とても嬉しゅうございます♡
もう後戻りはできませぬ。
などと申しながらも、平素のわたくしはいたって平凡などこにでもいる乙女でございます。
ほんのたま~に、何かが降りてくるだけでございます。
心より御礼申し上げます!