世紀の大怪盗、怪人二十面相が我が屋敷のリビングにて、くつろいでおられます。
わたくしは急いでお茶の用意をいたしてリビングへ。
ドイツ製の革ソファに、身を委ねておられる怪人二十面相。
でもその見てくれは、どこからどう観察いたしても “わたくし” なのです。しかも目にも鮮やかな、真紅のカクテルドレスに身を包みました……
正体を自らバラしたからでしょう。ソファに胡坐をおかきになり、爪楊枝をシーシー言わせながら、鼻をほじっておいでです。
もし他人さまが偶然このシーンだけをご覧になれば、間違いなく「つばきさんって、普段は清楚でお淑やかなレディを演じていただけなのね。ご自宅では、まあなんと破廉恥なお姿」などと思われるに違いありませぬ。シクシク。
「アイスティでございます、二十面相さま」
「おお、これはありがたいのう。先ほど商店街に一軒あった中華料理屋で、昼飯を食うたんじゃ。
店から出る時に、一気に走りだしたもんでの、喉がカラカラじゃわい」
「お食事直後に運動なさるのは、あまり身体に良くは――」
「そりゃあ、明智くん。無銭飲食するのに、走らぬ馬鹿はおらんだろう」
「む、無銭飲食! よもや、その “わたくし” の恰好で、でございますか!」
「当たり前じゃ。明智くんと瓜二つの、このスタイルじゃよ。
店主くんがわしを追いかけながら、『待つある~! タカオさ~んっ、代金いたたいてないあるよ~!』などと叫んでおったがの。
明智くんをどなたかと間違いおったわ。
ウワッハッハッハ」
わたくしはソファから崩れ落ちそうになりました。
このわたくしが無銭飲食してトンズラこいたなどと思われたくありませんゆえ、後ほど菓子折りなど持参いたしまして、お代金を支払いながら平身低頭謝罪せねばなりませぬ。
でもちょっと待って。
「つかぬことを、おうかがいいたします」
「なんじゃな」
「その出で立ちは、どこかでお着替えになってこられたのですわね?」
「うんにゃあ、違うわい。わしゃあ自宅でこの通り、明智くんに化けての、そのまま電車とバスを乗り継いでこの町までやってきたんじゃわな」
では二十面相さまは、夜会用艶やかなるカクテルドレスで町中を歩いたり、走ったりなさってきたの?
わたくしは一瞬気が遠くなりました。
町内を “わたくし” はドレス姿で人さまの前を駆け抜け、その上無銭飲食……
ああ、わたくしはもう町内を出歩けませぬ!
間違いのう町内の皆さまは、わたくしがとうとうイカレてしまったと思われてるわ。
人の気も知らず、二十面相さまはストローから音をお立てになりながら、アイスティをお召し上がりです。
コップを傾けながら、氷をバリボリ噛み砕きながらわたくしを見られます。
「まあ、なんじゃな。こうして好敵手がお互いにいい老後を送っておるちゅうのを確認できたらの、それでよいわな」
「ちょ、ちょっと二十面相さま! わたくしが老後を迎えますのは五十年は先でございますわよっ」
「うんうん、相変わらず明智くんは精力的でなによりじゃ。さてっと、そろそろおいとまいたそか」
二十面相さまは、よっこらせっと掛け声とともに立ち上がられます。
「せ、せめて “わたくし” の変装を解いてからお帰りくださいませ!
これ以上 “わたくし” の品位を、無理矢理引きずり落とすようなことは、お止めくださいまし」
「それがのう、明智くん。近ごろ物忘れがひどくなってしまっての。変装用の化粧道具を自宅に忘れてきてしまったようなのじゃ。
ワッハッハ~ッ」
「ワッハッハじゃなくてですわね。あ~っ、もうよございます! わたくしの専属車夫さまをお呼びして、ご自宅までお連れ申し上げますわ。でもその前に」
わたくしは立ち上がりますと、二十面相さまのお召しになっておられますドレスをまくり上げます。
「あれ~っ、ご無体なあ」
二十面相さまは、わたくしの声音をそっくり真似され身をよじられました。
ドレスの下には越中ふんどしをキリリと履いておられます。
そのお腹には、いつの間にくすねられたのか、わたくしの宝石箱や、高級腕時計がふんどしの紐に括り付けてあったのです。
「うふふふっ、さすがは明智くん。よくぞ見破ったな」
わたくしは汚いものをつまむように、それらを取り返しました。
この頃ご無沙汰の、斎藤タクミ似の車夫さまへ呼び出しを掛ける前に、カクヨムさまだけはチェックです。
まあっ、拙作「ひねもす漫研、オタクかな」にレビューを頂戴しております!
鶯ノエル先生、
いつも大変お世話になっております。
ご連載中にも関わらず、ご覧くださりまた望外なレビューをいただきまして、誠にありがとうございます!
姫二郎の初出場でございます。漫研には他にも色々なキテレツ人種がおりますのよ。もちろん、SFではございませぬ。
ですから唯一この作品だけは、連載中としております♡
リカちゃん人形は、わたくしも所有いたしております。残念ながらいたって普通バージョンでございます。
心より御礼申し上げます!
あらっ、拙作「明日へ奏でる草笛の音」に、キラビヤカなるお★さまをいただいております!
ズイさま、
どうも初めまして。この度はわざわざご覧くだすった上に、お★さまを頂戴でき、誠にありがとうございます!
つばきはさらに、ポジティブに拍車をかけております♡
心より御礼申し上げます!
今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます ♬