ノーベル賞の季節でございます。同胞の偉い先生が受賞されるのは、やはり誇りでございます。
町内にお住まいになる、ある天才科学者のお話でございます。
と申しましても、ご近所のおばあさまから井戸端会議でうかがったわけでして、真偽のほどはさだかではございませぬ。
『「で、できちゃったよ……マジかよ」
大学にも研究機関にも属さず、野にて独自の研究を続けていた科学者。天才であることは間違いないが、やはり変人であった。
「オレって、やっぱ天才じゃね? これはノーベル賞どころの騒ぎじゃねーつーの。
今世紀、いや人類史上初の大発明ってか。いやあ、参っちゃったなあ」
台風がくれば、真っ先に倒壊間違いなしのバラック建ての研究所。
不渡りを出した町工場のような小汚い、寂れた小さな建物の中で、科学者は腰に手を当てスキップをする。このあたりも常人と異なる精神構造が、かいま見れた。
科学者は腰に手を当てたまま、実験台に置かれた発明品をながめる。
「いやいや、やっぱスゲーよなあ。よくこんな物が作れちゃったよなあ。
でもこれさあ、どうすっかな。特許を取ったらいいのかい? どれくらいの価値になるんだろう。億? いや、兆。まてまてその上の単位ってなんだっけか……
どっちにしてもすげーお金になるんだろうな。でもなあ、別にお金が欲しいわけじゃあねーし。特許申請も面倒だから、もうぜーんぶタダで自由に誰でも作って使えるようにしちゃうか」
長い独身生活の影響で、独りでしゃべり続ける。
その時だ。
「先生。悪いけど、その発明品と一緒にあなたにはこの世から消えていただく」
いきなり背後から低い声が科学者の耳に聞こえた。
科学者が振り返ると、研究室のドアを背にひとりの男が立っていた。
黒い帽子に黒いスーツ、さらに黒いサングラスをした、いかにも悪い奴。しかもその手には拳銃が握られている。
「えーっと、どちらさんかな」
「ふふん、そう訊かれて答えると思うかい」
「いや、思わないけどさ。一応社交辞令?」
「先生には何の恨みもないが、これも仕事でね」
「ちょうどいいや。ねえねえ、きみさ、これって何かわかる?
へへっ、このオレが作っちゃった大発明なんだぜ」
「もちろん知っているさ。だからこうして仕事をしに来たんだからな」
「へえっ、真面目さんなんだ。感心感心。
これはねえ、ぜ~ったい不可能って言われてきた “永久機関” なんだ。
どう? すごいでしょ。永久機関ってのは文字通り永久に動き続けてエネルギーを作り出してくれるんだなあ。いずれはこの地球から原油が無くなるだろ?
だから原子力や太陽光でエネルギーを生み出さなきゃいけないわけだ。でもそれにはリスクがあるんだよね。この永久機関があればノーリスクでエネルギーが永久に供給されるんだぜ」
「ふふっ、だからよ。困るんだ、そんな物を作られたら」
「ってことはさ、きみは石油メジャーに雇われた暗殺者かな。これがあれば、もう原油は必要ないもんね」
「ところが違うんだ」
「えっ? どちらにしてもエネルギー開発によって恩恵を受ける連中に雇われたんだろ?」
「残念ながら、ノーだ。どっちみち先生には消えていただくのだから、特別に私の雇い主をお教えしよう」
「消えるの困るけどさ、気になるなあ」
「私を雇ったのは、マスコミ。報道関係者とだけ言っておこう」
「はあ? どうしてさ。う~ん、天才のオレでもその理由がわかんねえわ」
「いいかい、先生。今の世の中、エネルギーはどこの国でも死活問題なんだ。特に産油国や大国にとってはね。だから原油をめぐる争いや戦争、原子力問題に関わるニュースは枚挙にいとまがない。
毎日のようにニュースとして流される。その結果、報道関係者たちはその事件によって仕事ができるわけだ。だが、その永久機関がこの世に出されてしまったら、どうなる?
もうこの世からエネルギーに関わるニュースが、必要なくなってしまうじゃないか。
マスコミにとってニュースが無くなるてことは、それが死活問題になってしまうのさ。
だから、いつも必ずエネルギーに関わるニュースが必要なんだ」』
それ以降、そういえば科学者先生のお姿をお見かけしておりませぬ。
よもやおばあさまがどこかで仕入れたそのお話は、実話だったのでしょうや?
午後のひととき、アイスティをいただきながら、ゆっくりとカクヨムさまをチェックいたします。
拙作「予想外な涼ノ宮兄弟」にレビューとお★さまを頂戴しておりますわ!
@bistatioさま、
どうも初めまして。この度はご多忙の中ご覧くださり、その上キラメクお★さまをいただきまして、誠にありがとうございます!
とっても嬉しい♡
今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます!
心より、御礼申し上げます。
さくらもみじ@グリムノーツ完結 さま、
お初にお目にかかります。貴重なお時間を費やしてくださり、誠にありがとうございます!
書いた本人が一番ビックリしておりますの。なぜ純文学と対極の物語になってしまったのか……
機会があればぜひ兄とお酒を酌み交わされてくださいませ。
あっ、くれぐれもサインにはご注意を! 色紙に向かうと「ヒト」ではなくなりますゆえ。
心より御礼申し上げます♡
今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます!