「そうですわ! たまにはあの中華料理屋さまから出前でもお願いしようかしら」
わたくしは大きな独り言を口にしながら、町内に一軒ございます中華料理屋さまのお店を思い描きました。
商店街の一角に、カウンターと小さなテーブルが二つだけ置かれ、十人も入れば満席になるこじんまりとしたお店。
ご主人は本場中国で腕を磨かれた料理人で、まだお若いのですがお作りになるお料理は絶品ですの。
若い奥さまとで切り盛りされておられます。たまに小学校へ上がったばかりのボクちゃんが、カウンターの奥で一生懸命宿題に取り組んでおられます。
受話器を取り上げ、五目チャーハンと餃子、それに酢豚を一人前づつお願いいたします。
ソファに身を委ねまして、わたくしは優雅に食する自分の姿を想像いたしておりました。おっと、ついつい小さな口元からよだれが。
お電話を入れましてから、かれこれ一時間。いつもですと三十分かからずに出前くださいますのに、と空腹のわたくしは普段見せぬ苛立ちに、広いロビングを行ったり来たり。
催促のお電話は失礼かと思いながらも、いつの間にか受話器を持ってダイヤルしている自分にハッと気づきました。
直後でございます。
玄関のノッカーが叩かれます。
ああ、待ち焦がれておりましたわ!
いそいそと玄関にお財布を持って参りました。普段はカードか小切手しか利用いたしませぬのですれど、さすがに出前で小切手を切るわけにも参りませぬ。
満面笑みを浮かべたわたくしは「はーい、お待ちいたしておりました」などと若干声のトーンを高めに玄関を開けます。
「あいやあ、タカオさん、まいとねえ」
ご主人はコック服姿で立っておられます。
ちなみに純日本人でいらっしゃいますのですれど、中国での修業中にすっかりナマられてしまった、などと以前うかがっております。
「ちょぽっと、時間かかったあるねえ。お腹ペコペコあるか?」
ご主人はお愛想笑いを浮かべ、言われました。ナマるって、中国ではこのようなお話しかたを皆さんされておいでなのかしら?
「ちょうどご連絡いたそうとしたところですのよ。ご主人のお料理、わたくしはとってもファンですから」
「うれしあるねえ。ところて、正門を開けてもらてよろしあるか?」
「はい?」
そういえば、ご主人はいつもオカモチで配達に来られますのに、手ぶらですわ。
言われるがまま、わたくしは電動で開閉いたします正門をオープンいたしました。
ご主人は小走りで正門へ向かわれ、「はいー、おっけあるよー!。パックオーライ」
などと笛を吹きながら何かを誘導されております。
なんと三トントラックが、バックしながら正門から入って参ります。
えっ?
なにゆえ?
トラックは後部荷台の扉を玄関先に向け停車いたしました。
「いやあ、さすかにオカモチては、ちょぽっと無理あったあるねえ。知り合いのトラックのって出前してきたあるよ」
「は……はああっ?」
ご主人はトラックの扉を開けますと、中から一抱えはあるジュラルミンのケースをいくつも取り出します。
「ちょ、ちょっと、ご主人さま。これはいったい」
「これは、注文いたたいた料理あるね」
「いやいや、わたくしは確かに注文いたしましたのですれど、五目チャーハンと餃子、それに酢豚を一人前づつだけですわよ」
「えっ?」
今度はご主人さまが絶句されます。
「ちょと待つあるよろし」
ご主人はコック服のポケットから、丸めた紙束を取り出しました。
どうやら薄い本の体裁でございます。表には「小学一年生・計算ドリル」と印刷が見えます。
「えーっと、タカオさん、ちゅーもんはと。ああ、ここ、ここにメモし……うん?」
ご主人は途中で固まってしまいました。
「あいやあ! 大きく失敗したあるよ! 五目チャーハンと餃子、それに酢豚が『一』ではなく、『一〇〇』になっているあるよ。来店のお客さんに料理作ってた時よ、子供にメモをとらしたあるね。
あ~あ、子供は覚えたてのサンスーでケーサンしてしまたよ。
あははっ、困ったある」
ご主人は苦笑しながらわたくしを見られます。
百人前づつ三品を、このわたくしに食せという目線でございます。
いくらなんでもそれは無理!
「もう、つくてしまたあるからねえ。タカオさん、ウチの料理はとれも美味あるよ」
「いや、美味であるのはもちろん承知しておりますわ。でもこれだけの料理は」
「ああ、代金なら気にしないよろし。それそれ一食分たけいたたくね。そのかわり、料理はせんぷ置いてくあるよ」
軽い眩暈に襲われました。
結局すべて引き取らせていただくことになりましたのですれど、三食毎日食べ続けて、一ヶ月強かかる計算でございます。
灼熱の夏が過ぎていくとはいえ、どれほど日持ちするのでございましょう。
それよりも、あの小さな厨房でよくこれだけの量を作られ、器までございましたなんて。
わたくしは早速いただきながら、小首をかしげている次第でございます。
お行儀が悪いのを承知で、食しながらカクヨムさまをチェック。
ああ、餃子は美味あるね。
おやまあっ、拙作「ひねもす漫研、オタクかな」にレビューをいただいてるあるよ!
夢野光輝さま、
どうもはじめまして!
この度はお時間を費やしていただき、誠にありがとうございます!
SFタッチの私小説、仰る通りでございます。
ただ、ほぼ事実に基づいておりますのよ。
リカちゃん、実際にヘビーなマニアのおかたは多ございますそうです。ちなみにわたくしも所持いたしておりますわ。
心より御礼申し上げます。
今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます♡
まあ、RAYちゃん!
ご執筆でさぞかし時間のねん出がお難しい時に、本当にありがとうございます!
仰るように、名古屋って町はどこか現実離れをいたしております。
独特の文化が育まれておりますのは、五人にひとりが異星人らしゅうございますって。うふふ。
電池式の小型扇風機を常に持ち歩き、街ゆく人々が宇宙人の声でお互いにしゃべっております光景は、よそさまからしたら、やはり奇異なことなのでしょうか。名古屋人には当たり前なのですのに。
ご覧くだすって、本当に嬉しい♡
新作、どうぞおきばりやす♪
さらに拙作「猟奇なガール」にお★さまを頂戴しておりまする!
でも総数は減っておりまする! シクシク……
Periodさま、
いつも大変ありがとうございます!
いただいたお★さまは、つばきの支えとなっております♡
今後ともよろしくお願い申し上げます!