わたくしが町内にございます、ちょっぴりお洒落なカフェにてティタイムを楽しんでおりました。
このお店は色のついた水道水ではなく、ちゃんとした茶葉を使用しておりますゆえ、たまにのんびりとヒトさまが丁寧に淹れてくだすったお紅茶を味わっておりましたのよ。
何気なくお隣のテーブルで自家製ケーキとお茶を召し上がる、老齢のご婦人お二人の会話が耳に入りました。
「そうなのよ、もうわたしら夫婦も月に一度のその日だけは、朝から緊張の塊なのよ」
「でもさ、ご主人はこの道五十年のエキスパートでしょ。そんなのチョチョイって」
「そんなに簡単なものじゃあないわよ。いくら旦那がベテランって言ってもさ」
わたくしは好奇心旺盛な性質でございます。
お二人の会話を耳に手を当てまして、身体を少し傾けながら聴き入りました。
『旦那は散髪一筋五十年。この町でお店を開いて以来、色々なお客さんがご贔屓にしてくれてるの。
忘れもしないわ、あのお客さんがふらりとお店にやってこられた日を。確か、1969年10月4日。うん、間違いない。
それ以来、47年よ。月に一度来店されるの。
えっ? 普通にカットと髭剃りだけでしょって?
だから難しいのよ。鼻の下に髭を伸ばされているから、それを寸分たがわずに切りそろえるの。
それも数本だけよ。わかる? あの生やしかたは普通できないわ。
だから旦那は剃刀と毛先を揃える極細のハサミを使って、まるで外科のお医者さまが手術するような慎重さで、息さえ止めてカットしてるわ。
でも一番神経を使うのが、頭頂部のカット。
まず頭の横と後ろをハサミで切りそろえていくのね。まあこれは旦那もプロだからして、割とスムーズにやっちゃってるわ。
で、最後に頭頂部。
あのお客さんが来るときは、わたしはお店のドアを鍵かけてさ、ふいに他のお客さんが入ってこないように万全の態勢にするの。
つけてたテレビも消してね。
いつも思うわ。こんな時に突然地震でも起きたらどうしょうって。
旦那はゴクリと喉を鳴らすと、ハサミをゆっくり近づけていつもと同じ長さに、切るの。
わたしも息を止めて、身じろぎもせずに見守るわ。
カットが終わると旦那は大きく息をはき出して、深呼吸よ。
でもまだこの後が大変。
デップローションや超ハードなスプレーを使って、髪を立たせなきゃいけないから。
でもあまり固めて、万が一抜けちゃったらそれこそ賠償問題よ。
そのあたりのコツはさすがに旦那もわきまえているから、今までは大丈夫だったんだけどさ。
一通り終わって、わたしがそのお客さんの肩や背中を毛ブラシで掃くの。その時は旦那も全神経を集中させていたから、ガックリとお客さん用のソファに座り込んじゃってね。
いつぞやだったかしら。そのお客さんがお店を出たとたん「バッカモーン!」って大声で怒鳴る声が聞こえたから、わたしはビックリしてお店の外へ飛び出したのさ。
そしたら坊主頭の小学生を、ホウキを持って追いかけてる女性がいたのね。しかもそのかた、裸足なの!
どうやらお客さんの娘さんと息子さんだったみたい』
えーっと、わたくしはもしかしたらそのお客さんを、毎週観ているかも、ですわ。日曜日の18時30分から……
もし同じかただとすると、確かに床屋さんは大変そう。
頭頂部に一本だけ生えてる髪を、常に立たせておかねばなりませぬもの。
でもこの町内までわざわざ散髪にいらしているとは、わたくしもビックリでございます。
あまりに身体を傾けすぎましたため、あやうく椅子からすべり落ちそうになりました。
あわててて咳払いなぞしながら、スマホを取り出します。
鼻歌交じりにカクヨムさまをは、チェックいたしますの。
まあっ、拙作「猟奇なガール」にレビューとお★さまをいただいておりまする!
杉浦 遊季さま、
この度はご多忙の中、わざわざお目通しくださりまして、誠にありがとうございます!
さようでございます。一人称ゆえ視点が固定されまして、小説(などと口はばっとうございます)ならではの描きかたができますのです。
興味深いなどとお褒めくださり、つばきは嬉しい♡
重ねがさね、御礼申し上げます!
米田さま、
貴重なお時間を頂戴し、さらにお★さままでいただきまして、誠にありがとうございます!
ご覧くださるだけでも嬉しゅうございますのに、お★さまをくだすったことで、わたくしのモチベーションはアッと言う間に上昇いたしました。
心より御礼申し上げます♡