あら、意外と美味しゅうございますのね、ハンバーガーって。
わたくしは紙に包まれた温かなハンバーガーを、少しづつちぎりまして小さな口元へ運びます。
周囲を見渡しますと、皆さまそのまま大きなお口を開けて、かぶりついておられます。なんてワイルド!
わたくしには到底真似のできぬ食しかたでございます。
できれば、フォークとナイフをお借りしたいほどでございます。
お口の中で、パンとお肉のパテ、それにピクルスが絶妙なハーモニーを奏でてくれます。これならセットにしても良かったかしら。
「いらっしゃいませ~♪」
カウンターから華やかなレディの声が聴こえました。
あら、先ほどの “舌打ち関取娘” は休憩かしら? などと目を向けます。
カウンターの前には農作業の途中でお立ち寄りになったのか、作業服姿のおじいさまが立っておいでです。
JAのお帽子にはカラフルな缶バッチがたくさん付いて、と申しますより、路上で販売できるほど鈴なりに隙間なく付けられております。あれはかなり重とうございますわね。
「いらっしゃいませ、店内でお召し上がりでしょうか」
「いんやあ、ばあさんと一緒に田んぼでお召しあがろうと思っての」
「では、テイクアウトでご用意させていただきます」
「いやいや、お嬢さん。わしゃあ、ばあさんと一緒に田んぼでお召しあがろうと思っての」
「ええ、そう承っておりますので、テイクアウトで」
「いやいや、お嬢さん。わしゃあ、ばあさんと一緒に田んぼでお召しあがろうと思っての」
「えーっと、はい。では、お持ち帰り、でよろしいでしょうか」
「そうかな、お持ち帰りはできないのか。困ったのう」
「いえいえ、お持ち帰りはもちろん可能でございます」
「なんと、お持ち帰りは可能とな。ははあ、さすがじゃのう」
「メニューはこちらでございます」
「いや、わしら夫婦は年寄じゃでな。メニューは、ちと入れ歯に合わぬわ」
「えーっと、はい。こちらが、お品書き、でございます。今ですとこちらのセットが大変お得になっております」
「ははあ、いわゆる “抱き合わせ販売” じゃな。息子からくれぐれも注意してくれと言われておるんじゃあ。それに実印は貸金庫の中じゃ」
「おっしゃるように、抱き合わせ販売ではございますが、羽毛布団や磁気ネックレスはございませんのでご安心くださいませ」
「そうなると、ますます怪しいのう。後から頼みもせぬ壺や仏壇が、家に届けられるのじゃな」
「大丈夫でございます。当店ではお客さまの個人情報は一切必要ございませんので。ああ、ですから免許証のご提示も結構です。どうぞおしまいくださいませ」
「ほほう。ではラインのIDが消えたので、メアドを教えてくれなどと」
「一切ございません。あくまでも、一期一会の出会いでございます」
「それなら安心じゃな。さあって、何をいただいていくかのう。お嬢さんのお薦めはどれじゃな」
「今ですとこちらのセットが……いえ、こちらのチーズバーガーとサラダ、それにアイスコーヒなどいかがでしょう」
「ほう、随分ハイカラな組み合わせじゃわい。ただ野菜は家に売るほどあってのう。なんなら今度持ってきて進ぜよう。
わしが丹精込めた野菜たちじゃ。煮てよし焼いてよし、むろん生で食べるのが一番美味い」
「ありがとうございます。お気持ちだけ承ります。そういたしましたら、ポテトなどいかでしょう」
「うむ、見事な提案じゃな。ばあさんは昔っからイモが好物じゃでな。それと、飲み物じゃが」
「はい、こちらのメニュ、いえ、お品書き、の中からお選びくださいませ」
「いたれりつくせりじゃなあ。では、わしは清酒のひやと、ばあさんには焼酎の水割りをお願いしようかの。夫婦そろって呑兵衛ときとるわ。はっはっは」
「ありがとうございます。ただ当店ではアルコール類の販売は一切ございませんし、このお品書きにも、清酒や焼酎なる文言はどこにも書いてございません」
「なに、そうか。アルコールの販売は夕方五時を回ってからかいな。それは知らなんだ、勉強になるわい」
「時間帯に限らず、アルコールはご用意いたしておりません」
「法律で定められておるのなら、いたしかたないの。帰るついでにリカー・ショップへ寄るわいな」
「飲みながらのご運転はそれこそご法度でございます、お客さま」
「これはこれはご丁寧に。しっかり教育も行き届いた定食屋じゃなあ。店主に一言ご挨拶を」
「ある意味、洋風の定食屋でございますが、店長はあいにく会議で不在でございます」
「残念じゃな。その代りにわしのブログで宣伝しておくわい。ちなみにわしのブログは、月に150万PVあるでな」
まあ、このおじいさまは人気のブロガーでいらしたのね。
ひとさまは見かけによりませぬ。
アイスティもどきをストローでいただきながら、カクヨムさまをチェックいたします。周囲のかたがたも無言でスマホを触っておられます。すっかり見慣れた風景になりましたわねえ。
あらっ、拙作「ひねもす漫研、オタクかな」に輝くお★さまと、「猟奇なドール」にレビューをいただいておりますわ!
坂神慶蔵さま、
いつも大変お世話になっております。
オタクな物語を二作もご覧くださり、誠にありがとうございます!
勘違い系コメディ、新しい称号を授与いただき光栄ですわ。
確かに濃うございます。オタ〇クソースを三日三晩、グツグツ煮詰めた以上の濃度ではないかしらと、お話を紡ぎながらわたくしも胸やけいたしましたもの。
一人称と三人称がうまくお伝えできたかどうか、つばきは小さな胸(え~っと、毎度しつこいようでございますれど、バスト、の意味合いではございませぬ)をドキドキさせておりましたの。
望外なお褒めを賜り、とても嬉しい♡
心より御礼申し上げます!
また拙作をご覧くだすった皆さま、この場をお借りいたしまして、ありがとうございます♡