「ところで二十面相さま?」
「うむ、なにかね、明智くん」
「そのお背なに担がれております大きな風呂敷包みでございますが、今夜は何をお盗りに?」
「はっはっは! さすがは明智くんだ。それこそが盲点なんだよ」
「も、盲点?」
「一見すると、ぼくが大掛かりな仕掛けでもってして、相当な財宝を手に入れたと思うだろう?」
「え、ええ、まあ」
「老いたとはいえ、まだこの二十面相、きみとの知恵比べには負けてはおらんようだ」
「わかったような、わからないような……」
「いいかい。ぼくは今夜、さる資産家の屋敷に忍び込んだと思いたまえ」
「はい」
「ところがその屋敷にはだ、凶暴な番犬が放し飼いになっていた」
「ドーベルマン?」
「いや、豆柴さ。ご存じのように、ぼくはすこぶる犬がコワイ、死ぬほどコワイときてる」
「えーっと」
「まあ聞きたまえ。しかもだ。昔と違って、やれセキュリティだなんだで、鍵は頑丈だわ、警備会社のシールは貼ってあるわ」
「さようですわね。契約されていなくても、『二十四時間警備中』などのシールは売ってございますわ」
「そこでだ。ぼくは屋根に上がったはいいが、そんな理由で、にっちもさっちもいかなくなってしまった。ここまではいいかい」
「はあ……」
「ぼくはこれでも年金受給者だ。今まで欠かすことなく年金だけは収めてきたからね。
だから実際は、無理して働く必要もないわけだ」
「二十面相さまが年金を……国民が許さないかも、でございますれど」
「したがってだ。今夜はひとまず退散しようと考えた。それで逃走用の鉤付きロープを電柱に投げて巻きつけたのさ」
「それで屋根の上でお手を振っておられたわけですのね」
「うむ。ところがだ。ロープを伝って降下する途中で、手の力が抜けてしまったんだよ。このところ、たまに意思とは関係なく突然手が震えるのさ」
「お年? でございましょうか」
「認めたくはないがね」
「ではそのお荷物は?」
「ふっふっふ、二十面相はいついかなる時も、誰にも捕えることはできないのさ」
言うなり、よろよろとお立ちになった二十面相さまは、お背なの風呂敷包みをほどかれます。
「あっ! それは!」
わたくしは思わず叫びましたの。
風呂敷に包まれておりましたのは、なんと折りたたんだビニール製のアドバルーンでございました。
しかもガスボンベまで添付されております。相当な重量がありそうですが、よくもまあ担いでこられたものです。
シューッとボンベからヘリウムガスが注入され、アドバルーンが膨らんでいきます。
なぜか『(ー_ー)』こんな顔文字のプリントされた直径五メートルほどのアドバルーンが、ふわりと宙に浮かびました。
二十面相さまは垂れ下がったロープをお持ちになります。
「明智くん。あの『黄金仮面』事件で共に闘ったルパンくんはすでに座を孫に譲り、きみと双璧をなす名探偵金田一くんも孫に取って代わられている。
だがね、この二十面相はそうはいかないぜ。今日のところはオサラバさせていただくが、次回はきみの悔しがるさまをしかと見届けさせていただくとするよ。ワッハッハッ!」
安全ヘルメットにお孫さんのスクール水着、ビニールの長靴を履いた怪人二十面相さまは高らかに笑うと、ヒューンと星空目がけて飛びあがっていきます。
かなりな勢いでございますが、途中でお手が震えてロープをお放しなさらぬよう祈願いたします。
満月に豆粒のようなお姿が浮かびます。いったいどこまでお帰りになるのでしょうか。
わたくしを、最後まで明智くんとお呼びでございましたけど。
はっと我に返りましたわたくしは、カクヨムさまをチェックいたします。
まあっ! 拙作「【閲覧注意】! スペクター・キャプター」に夜空のお★さまが降っておりますわ。
にゃふみさま、
初めまして!
この度は、輝くお★さまを頂戴し、誠にありがとうございます!
ちょっぴり楽しんでいただけましたでしょうか。
音楽好きなおかたでしたら、少しニヤリとされる場面も挿入いたしたつもりでございます。
心より御礼申し上げます♡