安全ヘルメットにスクール水着、極めつけの黒いビニール長靴をお履きになったおじいさま。
背中には唐草模様の大きな風呂敷包みを背負ったまま、アスファルトの地面に尻餅をついてわたくしを見上げられております。
「わたくしを劣化コピーしたようなお姿。それは心霊マイスターのわたくしに、挑戦状を突きつけておられるのでしょうか」
「なに、大福餅を食うてしまいおったか。それはすこぶる残念じゃな」
「いえ、誰もお饅頭のお話など申しておりませぬ」
「ほっほっほ。いいんじゃいいんじゃ。
アサガオはのう、最初の摘芯が肝要じゃぞ。
それよりもお若いの。
おぬしはトランプとか申す、西洋の花札はお得意かの?
わしがそうじゃのう、今から五十年ほど前になるじゃろうか。洋行帰りの友人からの、その金貨を貰い受けたと思いなされ」
「あのう、先ほどから、ま~ったくお話がチンプンカンプンでございますわよ」
「そうそう、その通りじゃて。やはり老いては子に従え、昔の人はよく言うたもんじゃ。
それよりも、わしをこのような場所でよもや手籠めになさるおつもりかの。わしは構わんが、優しくしてたもれ」
わたくしは目まいを覚えましたの。おわかりいただけるかしら。
「それよりも、おじいさま。その背負うていらっしゃる風呂敷包みは、もしや」
その時です。
おじいさまはその目に、キラリと不敵な笑みを浮かべられたのでございます。
「どうやら、お若いの、おぬしはわしの正体に気づきおったようじゃな」
「はあっ? 正体も何も、おじいさまはもしやコソ泥?
ですけど、今時そんな時代錯誤な風呂敷など」
わたくしはあきれ返ってヘルメットを脱ぎましたの。
天然ウエーブのセミロング・ヘアがふわりとなびきます。
「ふっふっふ。どうやらきみも、お得意の変装であったようだね、明智くん」
「ア、アケチ?」
「まだ気づかないとは、きみの目は節穴かい。ぼくだよ。きみの永遠のライバルだよ」
わたくしは形の良い眉を八の字にして、おじいさまを憐れみの目で見下ろしましたわ。
でも待って。
なにやら小骨が刺さったような違和感。これはなにかしら……
もう一度おじいさまを常夜灯の下で、じっくり見つめました。
わたくしの目は、ある一ヵ所で止まります。名札です
腹話術……泥棒……変装……アケチくん……
そしてスクール水着に縫い込まれた名札の「2-B えんどう」
エッ! ま、まさか!
「あ、あのう、おじいさま、えんどうさま。よろしければ下のお名前をば、お聞かせくださいまし」
「きみともあろうものが、まだ気づかないのかい。
名前など、とうの昔に捨て去ったのだが。
ほかでもない、きみのたっての頼みとあれば仕方なかろう。
ぼくの名前は、平吉。遠藤平吉がぼくの本名さ」
ガクッとわたくしはその場で腰を抜かしてしまいました。
遠藤平吉……それは、そのお名前はもしや……
「ま、まさか、あなたさまは!」
「ふっふっふ、ようやく思い出してくれたかい、明智くん。
そうさ、ぼくを世間の皆さんはこう呼んでいる。
怪人二十面相とね!」
わたくしの目の前にしゃがみこむ変態老人が、あの怪人二十面相その人でありましたとは。エ~ッ!
混乱するわたくしは、気付け薬の代替といたしましてカクヨムさまをチェックいたします。HPを開きました時の安心感、これってやはり中毒症状かしら……
あらっ、いったいどうしたのかしら!
拙作「【閲覧注意】! スペクター・キャプター」にレビューが!
<●>ひとみ (✿◕ ‿◕)ノ さま、
ご無沙汰いたしております。
遥か古の時代までタイム・スリップしておりました拙作を、命も顧みずに救出に向かってくださり、誠にありがとうございます!
わたくし、「ヒェ~ッ!!」と思わず悲鳴がほとばしりましたの。
あの物語にもわたくしの分身が登場いたしておりますれど、猟奇性は欠片もございませんのに。
名作、だなんて望外なお言葉をくだすって、嬉しい♡
少年少女の皆さまへお届けに上がったお話でございますれど、やはりエゲツナさがございませんと、つばきらしゅうございませんわね。
心より、御礼申し上げます♡