昨夜のことでございます。
わたくしは名古屋の繁華街を歩いておりました。
友人のひとりである、オカマバーのママが二号店を女子大小路に開店され、オープニング・セレモニーに招待されておりましたの。
あっ、あのイリアママではございませんわ。
普通の(待って、この言い回しはちと語弊があるわね)どこにでもいる人間のオカマさんよ。
ママは薄い桃色地の、友禅染の和服をお召しになり、とてもお美しかったわぁ。
あっ、美しいのはお着物のことでございます。
ママは元陸上自衛隊レンジャー部隊の、叩き上げの下士官でいらしたから、少しゴツクていらっしゃるの。
お店のオンナの子たちも、全員が元部下だっておっしゃっていたわ。
店内は、こじゃれたアンティークの置物が配置されたり、ピンクを基調としたかわいい感じの内装なのですけど、ちょっぴり異様な雰囲気は隠せません。
だってカノジョたちはみんな、筋骨隆々で会話の半分は筋肉のお話なんですもの。
来賓のかたがたも大半が、ロックバンド、クィーンのフレディ・マーキュリーみたいにお髭を生やされて黒いタンクトップのお姿なのです。
もしや乙女はわたくし独り?
わたくしはどちらかと申せば、静かに文庫本を読まれるような知的な殿方のほうが……
いえいえ、わたくしの好物など、どうでもよございますわね。
それで散会後、わたくしは酔い覚ましがてら歩いておりました。
JRの高架下が見えて参ります。
あらっ? 何かしら、壁に沿って何人か並んでらっしゃるわ。
割と好奇心は旺盛なわたくし。
その列の後方から、先頭のほうをそっとうかがいます。
壁際を背に小さな机を置いて、おばあさまらしきかたが、前に座るお人に何かお話ししているのが見えます。
ああ、これは占いですわね。
机の上には蝋燭の灯りと、「手相」の立札もあります。
普段は占いなどまったく興味のわかないわたくしでございますが、少しアルコールが回っておりますせいか、列の最後に並んでしまいましたの。
でもなんとなく違和感を抱いておりました。
並んでらっしゃるのは全員が殿方。それもスーツを着用されたサラリーマンばかり。
わたくしの後方にも、いつのまにやら殿方が並んでおいでです。
いくらアルコールを摂取していたとはいえ、もう少し注意深く確認すればよかったのですけど……
わたくしの前に立つおかたは、ちらりちらりと振り返ります。
後方からはつぶやくように「――なんで、並んでんだよう、嫌がらせかよう」などと、あからさまに舌打ちまでされてますの。
でもここで引き下がるわたくしではございません。
ようやく順番が参りまして、わたくしは後ろに向かって「フンッ」と鼻を鳴らすと椅子に腰を下ろします。
黒いフードを目深にかむった小さなおばあさまが、眼光鋭く一瞥をくれました。
「何のご用じゃな、お若いの」
「ええ、わたくしも占っていただこうと思いまして」
言いながら、白魚と評される美しい形の指先を揃えて差し出しましたの。
おばさまはじっとわたくしを見据えて仰いました。
「おまえさんには、縁のない場所じゃて」
「まあっ! わたくしにだって手相を占っていただく権利くらいありますわよ」
「テソウ? はて」
「えっ、だってこちらは手相占いではございませんのかしら」
わたくしは机の上に置かれた立札を指さします。
「ここは手相見などではないわな。よーく見るがよい」
はあっ? このおばあさま、インチキ占い師かしら。
わたくしは切れ長二重の目元を、さらに大きく見開き立札を確認いたします。
「ほらあ、ちゃんとこちらに、毛相と書いて……ケ? ケソウ?」
「さようじゃわいなあ。ここは毛髪相談所、毛相じゃて」
わたくしは驚いて後ろを振り返ります。
あらまあっ! 並んでらっしゃる殿方、皆さまはまるでトレンディ・エンジェルのサイトーさまのクローンのごとく、同じ様相……
違和感の正体は、これだったのね!
「ほっほっほっ、わかりなさったかのう。ここはおまえさんのような多毛の娘さんが相談する場所ではないわいえ」
わたくしは、「し、失礼いたしますっ」と頭を下げて天然ウエーブのセミロングヘアをふわりとなびかせながら、いそいそと立ち去りましたのでございます。
近頃は、オープンな毛髪相談所ができておりますのねえ。
わたくしは思い出しながら、ダイニングキッチンで朝食の準備をし、カクヨムさまをばチェックいたします。
えっ? ま、まさか拙作「THE☆騎士MEN」にレビューをいただいているわ……すでに化石と成り果てておりますのに。
水谷 悠歩さま、
初めまして!
この度はご多忙にも関わらず、丁寧なレビューを賜り、わたくしは感涙を切れ長二重の目元から溢れさせております。
ありがとうございます!
お使いの名古屋弁はネイティブ、でございますわ。
不束者ではございますれど、どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます♡