わたくしは心霊マイスターといたしまして、妖魔を駆逐いたすために人知れず活動しておりますのは、すでにご承知かと思います。
真紅に輝くボディアーマーを装着し、いかな相手であろうと果敢に攻めまいるのでございます。
あのう、 “ボディアーマー” ですのよ、ボ・デ・イ・アー・マー。
しつこいと仰いますれど、いまだに「スクール水着に長靴姿の怪人」という、極めて不本意な呼び名がまかり通っておりますゆえ、念のため。
ただ自身の肉体も、絶えず鍛錬せねばなりませぬ。
したがいまして、夜な夜な屋敷のご近所にございます公園でランニングするのは基本、でございます。
以前はボディアーマー姿で、一周五キロほどのランニングロードを走っておりましたのですが、なぜかお巡りさまが血相を変えて自転車で走っておいでになるのです。
ええ、いつも。
わたくしの正体を知られるわけには参りません。
ですから、全速力で走り逃げたり、場合によっては職質の途中で当て身を食らわせ逃げたり……
ちょっとお待ちになって……なぜわたくしは逃げねばならないのでしょう?
ともかく、いらぬ疑いをかけられませぬよう、現在はオリンピック・アスリートと同じように、セパレートタイプの艶やかなウエアを使用いたしておりますのよ。
もちろん上下とも鮮やかな真紅。
セミロングの柔らかな髪を後ろでくくり、今夜もスタートです。
やはり深夜二時、丑三つ時に公園でランニングされるおかたは少のうございます。
わたくしは時速五十キロ程度で、リズミカルに走ります。
ふと前方の常夜灯に浮かぶ、ランナーがおひとり。
どうやらウエアから殿方だと判明いたしました。かなりの速度です。
わたくしは長いカモシカのような脚で徐々に追いつき、抜きざまにちらりと目を向けて軽く会釈いたします。
殿方は、ランニングシャツに短パンという出で立ちのおじいさまでいらっやいました。
まっすぐ前をお向きになったまま、ハアッ、ハアッ、と苦しそうに呼吸されておいでです。その速度はまるで若者。
わたくしはそのまま一周すると、屋敷へ戻りましてトレーニングルームにて身体中の筋肉を鍛えましたのでございます。
翌日、また丑三つ時に公園でのランニングをいたします。
あら、常夜灯に浮かぶ人影は昨夜すれちがったおじいさまでは?
相変わらず苦しそうに走ってらしたのです。
あまりご無理なさらないほうがよろしいのに、と思いながら、追い抜きざまに軽く会釈いたしました。
すると、「あい済まぬ」と後方から声が。
わたくしは速度を緩めまして、そのおじいさまと並走いたしました。
それでも相当なスピードでしたのよ。
「わたくしに、何か御用でございますかしら?」
「おお、お若いの」
「はい、なんでございましょう」
「誠に済まぬがの、止めてはくださらぬか」
「はっ?」
「止まらんのじゃ」
「仰ってる意味が、ちと解りかねますのですが」
「わしゃのう、この三日間、走りとうもないのに、ずっと走っておるのじゃ」
「えーっと……はあっ?」
「飲まず食わず、眠らずで、この公園の中を走っておるのじゃ。
あ、脚が言うことを聞いてくれんのじゃよ」
「それは、ご自身の意思ではないと」
「そうなのじゃ。わしゃ、今にも死にそうなくらいバテバテなのに、脚だけが元気百二十パーセントで勝手に走っておる」
わたくしの冴えわたる感覚が、すぐに気付きました。
これはまずい現象ですわ!
すぐさまおじいさまに猛烈なタックルを加え、そのままの体勢でランニングロードを転がります。
勢いよく飛びかかったため、二人の身体は二転、三転し、十五メートルくらい抱き合ったまま、いやな音を響かせながら回転し、ようやく停止いたしましたわ。
すると、おじいさまの身体から紫色の淡い燐光が、スーッと宙に浮びあがりそのまま夜空へ飛んで行ったのです。
ご心配には及びません。
わたくしの玉のような肌を、アスファルトで傷つけるような野暮はいたしませんの。
転がる時におじいさまの身体をクッションとし、わたくしの全身を包み込むように転がりましたゆえ。うふふ。
多少擦過傷でおじいさまは血だらけになっておりますが、なんとかわたくしは止めて差し上げましたわ。
これは多分この時期に現れる、「化化ッ弧(かけっこ)」なる妖魔の仕業に違いありませんわ。
人間の脚に憑りつき、宿主が疲弊するまで駆けっこをさせるという、悪名高き夏の妖魔。
おじいさまはあのまま走られていたら、多分過労で一週間ほどはご入院されたことでしょう。
心霊マイスターとして、わたくしは人助けできたことにホッと胸をなでおろしました。
ただ、おじいさまは全身打撲に擦過傷、頸椎捻挫に肋骨骨折などで全治六ヶ月の入院なさったとのこと。
妖魔はこうして悪さをいたしますの。お気をつけくださいまし。
さあ、今夜もトレーニングよ。
その前に、カクヨムさまをチェックです。
まあっ! これは妖魔の仕業!
拙作「猟奇なガール」&「猟奇なドール」に輝くお★さまと、レビューが。
~「猟奇なガール」~
ゆ~なさま、
初めまして!
この度はお時間を頂戴しお読みくだすったうえに、レビューまでいただきまして、誠にありがとうございます!
違う次元。確かに漫研部員はそのほとんどが精神をここではない次元に置いておりますわねえ。あっ、わたくしは元漫研部員ではございますれど、いたって平凡な乙女でございますのよ。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします♡
坂神慶蔵さま、
初めまして!
貴重なお時間を拙作に消費賜り、誠にありがとうございます!
いただいたお★さまは、つばきの貴重な糧になりますゆえ。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします♡
~「猟奇なドール」~
宙蟲さんま、
初めまして!
R15指定にもかかわらずお読み下すって、心より御礼申し上げます。
ありがとうございます!
お★さま、確かに拝受いたしました。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします♡
鶯ノエルさま、
まあっ、ノエル先生ではいらっしゃいませんこと!
ありがとうございます!
「キャラクター部門があるならば独壇場」、なにやら嬉し恥ずかしでございますわあ。
でも嬉しい♡
望外なレビューにわたくしは驚きながらも、嬉し涙が切れ長二重の目元からとめどもなく溢れておりますの。
今夜は口角筋に重点を置いて鍛錬いたしますわ♡
拙作をお読みくだすった皆さま、ありがとうございます!
「猟奇な書き手」の認識が益々高まるとともに、少年少女向けの物語がこれで描き辛くなってきたことを承諾せざるを得ませんわね。
でもそれが、つばきに真骨頂なのかも♡