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『天を描けど、光なお遠く』完結しました。で、あとがきみたいな(読了後読むのを推奨)

おハロウ。つるです。11月ですね。

『天を描けど、光なお遠く』
https://kakuyomu.jp/works/16817330661485346893

本日の更新分をもって完結しました。 

ああ、終わってしまいました。これを書くときがついに来てしまった……。

8月から執筆と連載を始めた『天を描けど、光なお遠く』。書き終わってみれば10万字弱といい字数だったのにも関わらず、早かった……。
正直、もうちょいこの世界に浸っていたかった気もします。でも、書きたいことは書き切ったので!
それにこれは年明けの公募用作品なので、ガーッと書いて公表してしまう必要もあったので、まあ、お名残惜しいですがいいでしょう。
(物語の最後は書き手がいちばん寂しいんだと思います……)


せっかくなので、あとがきらしきことを。
(書き手の独自解釈もだいぶ入ってますが「えーそういうことなん?」と捉えなくてけっこうです、読み手さまには感じたままでいてほしい)
 
そもそも「芸術に対峙することで人間は幸せになれるか」ということにつるはめちゃくちゃ興味があって、それを軽ーく書いたのが『ディ・ア・レ・スト』の惑星バレンシアのショーンのエピソードだったり、いまんとこ唯一の受賞作のムサシノこと『宮廷画家と征服王』だったりするのですが(未読の方すみません)、今回新しく作品を書くにあたり、それを真っ向からテーマにしたものが書きたいなぁと思ったのが本作、てんえが(略称)です。

この作品の大枠は7月末にひさびさに観劇に行って、それが芸術(戯曲家)の話だったのにガーッとインスパイアを受けて短時間でプロット書き上げて、ガーっと執筆始めた経緯があります。

とはいえプロット段階では、実はアネシュカはファニエルと結ばれるエンドだったり、かなり大幅に違ったのですが。ここはプロット見てもらった方に「恋愛ものにするなら、敵側のマジーグとの恋愛主軸の方が萌える」と言われて「そうっすね」と直しました。それに、マジーグがアネシュカに絵を描いてもらうことで話が広がる、という展開は決まっていたので、それが自然かと思いましたし。
その上で、アネシュカとマジーグの恋愛の成就は10年後、というエンドを決めたので、ふたりの年齢や背景の肉付けをして行きました。

今作は公募用ということで、だいぶ「忖度」して書いたところもあります。

特にマジーグに関してはもっと極悪非道な人間として書きたかったのです。実は最初はマリアドル軍による王宮の略奪シーンもエグめに書いていたのですが、「これは共感損ねるな……」と後から書き換えてます、あれでも。ええ、あれでも。

そもそもは「戦争の残虐行為でPTSDになった人間が芸術に向き合う」っていう元ネタがあったので、マジーグは言い訳ができないほどの酷いことをして来た男にしたかったんです。ああいう過去で同情をひかずに。
 
一方、マジーグをあまり複雑な人間にしなかった分、ファニエルに関しては「一筋縄でいかない人間」となりました。というか、なっちゃったのです。今回書いていて面白かったのは、書き手の予想を超えてファニエルが暴走していったことで、書きながら「君はいったいどこへ行くんだ?」と困惑しました。キャラがひとりでに動き出す経験ははじめてだったので、戸惑いつつも、面白かったですね。「私は理解など簡単にされたくない」とか言い出したときは「……そうでしょうとも……」となりました。資金横流しの真相も、最初はもっと愛国心からって設定でしたが、結局は本人の言うよう「絵のついで」だったんだろうなってあたり、芸術にいろいろ狂わされた男なんですよね。処刑されてまで芸術家として名を遺したいとか、なんなの、お前。ロウシャルの気持ちを考えろ……!

「芸術は人を救うか」がテーマだったてんえが、この答えに対してアネシュカは救ったし、マジーグは救われたし……となれど、ファニエルに関しては微妙というか複雑で、第二十一話「天を描けど」のラストで、彼はどこまで本心を語ってたかというのは書き手もわからないんですよ。アネシュカを女神としつつも、彼は彼女に抱いているのは「愛情」でなく「愛憎」で。その上で自分は人を愛せない、ということをマジーグに告白してるんですよね、遠回しに。神を描き、愛することは出来ても、人間は愛せない、と。

だから、わたし、やっぱり「完全無欠のハッピーエンド」は書けないんですよ。そう考えると。芸術を極めつつも自身は救われなかったファニエルの問いかけは、自分で考えても、重いです。

今作はタイトル回収を数話に分けてやっていますが、ここがいちばんのポイントなのかな、と思います。芸術を極めてしまったからこそのどうにもならなさ。わたしはどんな作品でも世界と人間の「どうしようもなさ・ままならなさ」を書きたいんですけど、てんえがではそれはファニエルに委ねた格好となりました。

そして、主人公のアネシュカ。
直情一直線の年若いキャラはあまり書いてこなかったので新鮮でした。彼女に関しては「とにかく絵が好き! 大好き!」という気持ち主軸で書いていて、結果としてその情熱が他の人間を変えていく姿を描きたかったのです。

またここでタイトルの話になってしまうのですが、「天」ってマジーグからしたら任務の功績であったり、ファニエルからしたら芸術家としての栄光だったりすると思うのですが、それって、どこまでも男性社会というか、競争社会の賜物なんですよ。そこにアネシュカという年若く権威も何もないまっさらな女性をぶちこむことで、そういうものに足掻きまくって、つまりは「光なお遠く」生きていた男たちを変えていくような話、でもあります、てんえがは。

あとは書いているうちにいい味を出してくれたのは、トルトとタラムですね。トルトとアネシュカがギャンギャンやり合うことでコミカルな部分も出せたし、また、トルトは読者目線にも近いので、物語を整理させてくれる役割も果たしてくれました。ラストでは「なんだよ結局お前アネシュカ好きなんじゃん!」っていうところもニヤニヤポイントです。

タラムも最初はただの副官としての登場でしたが、書いているうちに複雑な立ち位置の人間になりました。マジーグからすれば従者であり、監視役であり、師匠。タラムとしては、マジーグには救われてほしい、でもそれは立場が許さない……という矛盾だらけの存在。ファニエルに次ぐ「人間のままならなさ」の象徴です。マジーグとタラムについては、想像がめちゃくちゃ(たいへん申し訳ないことに、あらぬ方向にも……すまん、ほんとすまん)膨らむので、サイドストーリーを書きたいですね。というか、誰か書いて下さるとわたしの命が助かります……お願いします……。

ともあれ、「今年後半はこれを書きたい!」と思って書いたてんえが、ライトな読者向け、恋愛ファンタジー、という縛りはありながらも、芸術というテーマはある程度書けたのかなー? という手応えです。これから推敲して、公募に出しますから、ここでの公開は後もう少しだけなのですが、なんとかいい結果が出て別の場所にてお披露目できたらいいなあ……と思っています。まあそうならなかったら、また公開して、同人誌にして、という流れにはなるのかなと。

どうか、「天」を描いた彼女ら、彼らのことを、たまに思い出してくれたら嬉しいです。

ほんとうに、ありがとうございました!

2023年11月1日
つるよしの

2件のコメント

  • 本編読了後、こちらも。
    あとがき、うれしい!
    うんうん、なるほどーっ、あぁ、ですよねぇ、でした。

    素晴らしい作品を公開していただき、ありがとうございました!!
    ファニエル先生がホント、「芸術」と「人間」の……何ていうのかな、極大値というか、ファンタジーで小説だからこその「そこまでいっちゃうかー」に対するリアリティというか。実際もあるけど、表になかなか出てこないような、誰にでも実は少し覚えがあるような。

    すいません、自分もよくわからないこと書いちゃってます、えっと、面白かったです、楽しみでした、ありがとうございました!!
  • @hikagenekoさま

    今作も通してお読みいただき、本当にありがとうございました。
    なによりの励みでした!

    こうして作者があれこれ講釈しちゃうあとがきってどうなのかな? と思っていたので喜んで頂けて嬉しいです。

    ファニエル……ほんとうに今作は彼がとても印象的な人物となりました。ファンタジー世界だからあそこまで極端に鮮烈に書けたとは思うんですけど、こうやってしがない物書きのわたしでさえも、芸術への複雑さや、彼が抱えた嫉妬や羨望のきもちは覚えがあるんですよ。そういうことを書き出せたとしたら幸いです。

    本当にありがとうございました。心から感謝します。
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