https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/furukawa3/3412/ゲンロンSF創作講座の梗概が、面白い面白くない以前に「何書いてるのか分らない」という評価が多かった。もう提出物は書き直しできないんだけど、ここに書き直した。
そして飲み会で、近くに座った人に読んでもらうのだ。ねずみ講の勧誘のように、やがて、周りにだれもいなくなるかも知れない。
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僕はフリーランスのプログラマーで、システムの更新や調整を請負う。外を歩いてモンスターを捕獲するゲームのバランス調整のため、モンスターの出現を抑えるしくみを作ったこともあり、ときどき更新する。
最近はフィットネスアプリの改良で、ユーザーごとに歩くコースをリアルタイム配信する機能を追加をした。体調に合わせて調整したり、雨の日は屋根のある商店街に誘導したりする。
「ハロー、アリス。フィットネスアプリ用のリポジトリを作って」
コーヒーを淹れながら、デジタルアシスタントのアリスに依頼する。デフォルトでは決められた作業を実行するだけだが、僕はカスタマイズして使っている。
「公開ですか?非公開ですか?」
「非公開で」
「了解。非公開リポジトリを作りました」
リポジトリは、プログラムの保存や変更履歴の閲覧ができる貯蔵庫だ。非公開なら関係者だけがアクセスでき、公開なら世界中のプログラマーがアクセスできる。
フィットネスアプリの開発体制は杜撰で、サーバーコンピューター接続に必要な鍵ファイルが、開発者間で共有されている。セキュリティは僕の仕事ではないので、指摘しない。
元日、アプリに誘導された大量のユーザーが一箇所に押し寄せ、ダウンロード回線の混雑で、通信エラーが出た。京都の観光地だ。僕はデータ通信制御を変更し、通信エラーを抑えた。SNSで状況に気づいたユーザーは、ウォーキングを取りやめ、混乱は収束した。
翌日、アプリ会社にプログラム変更を咎められた。不審に思ってエラー記録を見直すと、何者かに削除されている。会社の悪意を疑って、アリスに通報を依頼するが従わない。間違いや危険な行動を検出すると、アリスは動かないのだ。京都府警は勇み足で逮捕しがちで、状況を把握できずに僕を疑うと判断したようだ。別の方法を思いつき、アリスに公開リポジトリの作成と鍵ファイルのアップロードを依頼した。そのとき東京駅から皇居の二重橋に向かってフィットネスユーザーが大挙するのが分かった。アリスに聞くと二重橋は一般参賀の出口になっている。橋の両側から流入した人々は転落してしまう。
僕の作ったもので、人が傷つこうとしている。責任を押し付けられるかも知れない。ならばこの状況を解決するのが合理的だ。
モンスターゲームの運用システムで皇居周辺にモンスターを出現させる。フィットネスアプリのユーザーが動く方向と、反対向きに少しずつモンスターを動かし、橋への流入を邪魔する。だがバランス調整機構が働いて、モンスターを増やせない。さらに人々が集中する。
そのときフィットネスアプリが致命的なエラーを出す。公開リポジトリに置いた鍵ファイルが見つけられたようだ。杜撰に管理された鍵ファイルが漏れて、サーバーに侵入されることはよくある。面白半分にフィットネスアプリのサーバーは壊される。ユーザーの動きも止まった。
期せずして僕は人々を救う役割を全うした。
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