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貧者の偶像2.10

https://kakuyomu.jp/works/16817139555435089667/episodes/16817139556039404688

皆々どこぞの定食屋に出かけて行き、一人となった事務所は衣擦れの音でさえはっきりと耳に届く静けさで、少しの物音がやけに気になった私は、せっかく取り組んでいた作業の手を止め無闇に立ち歩き、今朝、尾谷と栗山が接吻をしていた場所で止まった。その位置からは入り口がはっきりと見える。尾谷は、立ち尽くす私の姿をそらす事なく捉えていたのだろうと思うと、ひととき忘れられていた苛烈さが再び首をもたげて躍動するのだったが、やりどころない感情は私の中でぐるぐると巡り回って、結局腹の虫が収まる事はなかった。消化しきれない負の感情が巣喰い、生きたまま食われていくような気がした。

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